第36話決戦ケクロプス②

 安全策でいくなら遠距離から攻撃を繰り返すだけど……ううん、それはダメ。それじゃあさっきまでと同じだわ。ケクロプスに決定的なダメージを与える事はできない。


 だったら接近戦でいくか? スキルLVの高い〖爪撃〗や〖牙撃〗ならかなりのダメージを期待できる。

 でも、相手に近づくって事だから、私も大ダメージを受ける危険がある。

 ケクロプスの攻撃力はとんでもなく高い。接近戦はリスクを伴うだろう。


 私はケクロプスを打倒するための作戦を必死に思考する。

 この戦いの勝敗には私たちの命だけじゃなく、フェリシアや町の住民の命も懸かっている。絶対に勝たなくてはいけない。

 どうするのが正解なんだ? ここは勝負所、選択を間違える訳にはいかないぞ……ッ!


 自分の勝敗に懸かる重さに、私は選択を迷っていた。


『どうしたドラゴン! 足が止まっているぞ!』

『そちらに向かいましたぞ主様!』


 策を練っている隙をつき、ケクロプスが私に〖体当たり〗を仕掛けてきた。予想通り、狙いをギン爺から私に変えたようだ。

 クソッ! のんびり考えている時間はない! やるしかないんだ!

 私はケクロプスの〖体当たり〗を躱すと同時にギン爺に〖念話〗を飛ばす。


『わかってるわ! ギン爺はそこで待機! 戦いの余波に巻き込まれないように防御を固めて!』

『なっ……主様お一人で戦われるのですか!』

『大丈夫、ギン爺にも役割があるわ。私が呼んだらすぐに駆けつけなさい。ただし、今は派手にやり合うから、被害を受けないように隠れているのよ』

『そうでしたか、了解しましたぞ!』


 〖念話〗でギン爺に指示を出した私はケクロプスと向かい合う。

 覚悟は決まった。MP消費の大きい大技で勝負に出るしかない。さあケクロプス、ここからは本気の命のやり取りだぞ!


 私はケクロプスに前足を翳して魔力を集中し〖ダークショット〗を発動させる。

 前足の掌に禍々しい魔力が凝縮され、闇属性の弾丸が発射された。

 闇の弾丸は猛スピードで空気を切り裂き、ケクロプスに着弾して爆発する。


『グゥオオオ……な、なんだこのスキルは……ッ!』


 〖ダークショット〗を受けたケクロプスは大きく動揺している。

 無理もないだろう。〖ダークショット〗の当たった場所は大きく抉れ、骨まで露出していた。


 相変わらず凄い威力……でも、私の消耗も激しい。今の一発でMPが20も減ってるわ。

 それでも、ケクロプスの傷がみるみる治っていってる。

 〖肉体再生〗で傷口を塞ぎ〖癒しの水〗でHPを回復させてるんだ。

 これだから回復持ちはよー!


 でも、ケクロプスのMPだって削る事ができた。

 〖ダークショット〗は打てて残り三発、他のスキルを使う事を考えればもっと少ないかも。

 全回復される前にここで倒し切る!


 ここが勝負所と見た私は追撃の〖ダークショット〗を放つ。

 だが、ケクロプスは身を捻り、すんでの所で躱されてしまった。

 クソッ外した!

 残り二発か……ッ!


『今のは危なかった……。まさかそんな隠し玉があるとは驚いたぞ。だが、あれだけの威力を持つ魔法だ。MPも残り少ないのではないか?』


 チッ、ばれてーら。

 こりゃあちょっとマズいな。たぶんケクロプスは〖ダークショット〗を躱せる距離を保って無駄撃ちさせる戦い方に変えてくるはずだ。

 それをやられると、私のMPが先に切れてしまう。

 だったら、躱せない距離まで近づいて撃つまでよ!


『勝負所を見誤ったなドラゴンよ!』


 〖ダークショット〗を当てるため近づこうと前に出た私に、ケクロプスの口から液体が射出される。

 攻め急いでいた私は躱す事ができず、その液体を浴びてしまった。


 うげえええっ! 何よこの液体! なんかネバネバするんですけど!

 ってか……体が動かなくなってきた……まさか毒液か?

 いや違う。私の〖毒耐性〗はLV7だ。耐性スキルの中でも一番LVが高いから、こんなには効かないと思う。

 だったら何だ? 迷ったら〖鑑定〗だ!


―――――――――――――――――――――


〖アテナ〗

種族:宵闇よいやみ幼竜〖状態:宵闇の力(中)、麻痺(中)〗

ランク:C+

LV :8/50

HP :237/416

MP :57/312


―――――――――――――――――――――


 〖状態:麻痺(中)〗? って事は〖麻痺攻撃〗を受けたのか!

 私の〖麻痺耐性〗はLV3、毒よりも耐性が低いから効いちゃってる!

 ケクロプスめ……こんな攻撃を隠していたとは……ッ!


『〖毒耐性〗を持つ魔物は多いが〖麻痺耐性〗を持つ者は少ない。貴様も例外ではなかったようだな。〖浄化の水〗で回復されるだろうがMPは削れる。この勝負我の勝ちだ!』


 ケクロプスは勝ち誇ったように醜悪に嗤う。

 調子に乗るのは自由だけど、まだ早いんじゃない? こんな事もあろうかと、私も保険を用意していたのよ。


『出番よギン爺! 状態異常を受けたわ! 私を回復して!』

『了解しましたぞ主様!』


 私が呼びかけると、近くの茂みからギン爺が現れる。ギン爺は私に駆け寄ると〖浄化の水〗で麻痺を治し、〖癒しの水〗で減ったHPを回復してくれた。


『チッ、老亀が小賢しいまねを……!』


 自分のMPを使わずに回復した私を見て、ケクロプスから笑みが消える。

 麻痺で体は痺れても〖念話〗は使える。こんな時のための回復役として、ギン爺には近場で待機してもらってたんだ。


『ありがとうギン爺、助かったわ』

『お役に立てて光栄ですじゃ。いよいよ戦いも大詰めですぞ。頑張ってくだされ主様』


 ギン爺はそう言い残して後方に下がった。

 さすがギン爺、自分の役割をわかっているわ。それに戦局が見えている。

 いよいよ戦いも大詰めか、確かにね。


 覚悟を決めた私は〖ダークシェル〗を発動させる。すると、闇の衣が私の体を覆った。

 調べたところ〖ダークシェル〗は一定時間攻撃を軽減する衣を纏う防御魔法だ。保険で〖シャドウ〗も使いたいところだがMPがない。〖ダークシェル〗の防御力アップだけでいくしかないわ。

 残りMPは47……〖ダークショット〗を撃てるのは二発、次で決めてみせる!


『いくぞケクロプス!』

『こい! ドラゴン!』


 正面から突っ込む私目掛け、ケクロプスは〖麻痺攻撃〗の液体を射出してくる。

 さっき食らっちゃったからね! そうくると思ったよ!

 麻痺液はできるだけ避ける。どうしても避けられなければ体で受け止める!


『なっ……なぜ〖麻痺攻撃〗を受けて動ける! 効いていないのか!』


 ケクロプスは〖麻痺攻撃〗を受けながらも動きを止めない私に戸惑っているようだ。

 効いていないのかだって? 我慢してるんだよ! そのために〖ダークシェル〗で防御力を上げたんだ。

 ケクロプス、あんたの首元に食らいつくまで私は止まらないぞ!


 〖麻痺攻撃〗に耐えながら懐に入った私は、ケクロプスの首元に手を当て〖ダークショット〗を発動する。

 零距離で闇の弾丸が爆発し、ケクロプスの体を抉った。


『まだだ、まだ終わらんぞ!』


 ケクロプスは首元を半分吹き飛ばされながらも、私に食らいつこうと大口を広げた。

 その瀕死の状態で〖牙撃〗か? 凄い執念だ……ッ!

 ケクロプス、あんたは本当に強い。間違いなく過去一の強敵だ。

 でもね、私にも絶対に負けられない想いがあるんだよ!


 私はケクロプスの〖牙撃〗が届く前に〖ダークショット〗を発動する。

 狙うは先ほどダメージを受けて抉れている首元、同じ場所への攻撃。

 これがMP的に最後の〖ダークショット〗だ! いっけぇえええッ!!


『グボオォォ……ッ!』


 私の最後の〖ダークショット〗を受けたケクロプスは首が千切れ、頭と胴体の二つに分かれて飛んでいった。

 やった! ケクロプスを倒したぞ!

 でも、何か違和感がある……何かが足りないような……。


「あの黒いドラゴンは、まさかアテナ……ッ! リザードからドラゴンに進化したのですか……ッ!」


 ケクロプスを倒した私が違和感について考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。声のした方を見ると、フェリシアとカルロス、それに冒険者三人組の姿が見えた。


 おっ、フェリシアたちの到着か、私が戻るまで湖にはくるなって頼んだけど、さすがにあの三人組じゃあ止めるのは無理だったみたい。

 到着時間を遅らせてくれただけでもいい仕事してくれたわ。


『シスターフェリシア……ッ! フェリシアの肉を食えば……我はさらに強くなれるーーーッ!』


 生首になったケクロプスがフェリシアに向かって地を這いながら進んでいく。頭だけなのにかなりスピードがある。

 ええっ! なんでまだ生きてるのよ!

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