第34話宵闇の王女
『この身に走る不快感……〖鑑定〗か? 亀の他にも使い手がいるとはな』
〖鑑定〗したステータスを分析していると、ケクロプスから怒気を含んだ〖念話〗が飛んできた。
〖鑑定〗のスキル保持者は珍しいらしいから、大蛇はギン爺以外の使い手に会った事がなかったのだろう。
でも残念、私もその珍しい使い手なんだ。〖鑑定〗には不快感が伴うから前回は我慢した。今度は強い意思を持って戦うと決めたからね。遠慮なく調べさせてもらうよ。
『フンッ、このお方はワシの主様じゃ。当然〖鑑定〗とて使えるわい』
『亀の主だと……もしや〖修羅界〗の称号スキル持ちか! おもしろい。そのドラゴンを倒し、我が〖修羅界〗を奪ってやるわ!』
ギン爺の言葉にやる気を漲らせたケクロプスが私に向かって猛スピードで迫ってきた。
私より素早さのステータスが高いからさすがに速い……ッ! まだ戦略も定まってないってのに、ギン爺も余計な事言って煽らないでよね。
『そうくると思っておったぞ! 〖金剛〗!』
ケクロプスの攻勢に身構えていると、ギン爺が私の前に出てスキルを叫びながら頭と手足を引っ込めた。
〖金剛〗って確か〖金魔法〗だよね。ただ甲羅に閉じ籠っただけにしか見えないんだけど……。
『小賢しい! 防御魔法ごと食い破ってくれるわ!』
ケクロプスは前に出たギン爺に狙いを定め、〖牙撃〗を打ち込む。
だが、その牙がギン爺の体を穿つ事はなかった。
『小童が、亀の甲羅を舐めるでないぞ!』
『クソッ……今だ亀を砕くには至らぬか……。だが、いつまで閉じ籠っていられるかな?』
『何じゃと? ぐぅ……ッ!』
甲羅に牙が通らないと見たケクロプスは、その長く大きな体をギン爺に巻き付け締め上げた。ギシギシと甲羅の軋む音が聞こえるほど強力な締め付けだ。
これは〖巻きつき〗のスキルか? 〖金剛〗で防御力の上がったギン爺にダメージを通すとは何て威力よ。
でもね、あんたの相手は一人だけじゃないのよ。ギン爺にばかり気を取られてていいのかしら!
私はギン爺を締め上げて動きの止まったケクロプスに〖真空斬〗を叩き込んだ。
『グゥ……ッ!』
私の〖真空斬〗を受けたケクロプスの締め付けが弱まる。
その隙に〖金剛〗を解除したギン爺が拘束から脱出した。
『ありがとうですじゃ主様! 〖金剛〗は強力なのですが維持が難しく、徐々に防御力が落ちるのが弱点なのですじゃ』
『ううん、いきなりで戸惑ったから攻撃を受けるところだった。私も助かったわ』
上手くギン爺を救出できてよかった。
でも、私とケクロプスじゃステータスにかなりの差があるのに意外と攻撃が通ったな。何か攻撃力が上がる要素でもあったのか?
〖反逆の
ステータス欄を確認すると、あるスキルが目に留まった。
これだ! 〖
宵闇とは日が沈み夜が訪れる狭間の時間。〖宵闇の申し子〗とはその宵闇の時間帯に各種ステータスがアップする時間限定のパワーアップ称号スキルだ。これが私のステータスを底上げしてくれたんだな。
確か宵闇竜は宵闇の王って煽り文だった。じゃあ宵闇幼竜の私は王女って事になるな。
ふっふっふっ、ケクロプスよ。夕方に時間を指定したのは間違いだったな。
今は私の
『クソッ、幼体と思い侮った……! 〖癒しの水〗』
ケクロプスの体を澄んだ水が包み込みHPを回復する。最初に覚える〖水魔法〗〖癒しの水〗だ。
ちっ、やっぱり回復してきたか、一気に倒しきらない限りはMPが切れるまで殴り合いになる。これだから回復持ちは厄介だわ。
今までの敵は回復魔法なんて使ってこなかったから、格上だろうが数が多かろうが勝ててきた。けど、B-ランクが相手となれば、そう簡単にはいかないわね。
『そのドラゴンの魔力覚えがあるぞ……もしやフェリシアの傍にいたトカゲ? それがドラゴンに進化し、我を倒しにきたのか……ッ!』
ケクロプスが怒りを宿した目で私を睨み付けてきた。
私の正体に気付かれた! 魔力で気付くとか、なんて勘のいい大蛇なのよ……ッ!
しかし正体がバレたのは不味ったな……。
『半端な攻撃では回復されてしまいますぞ主様。ワシと二人で一気に倒しきりましょうぞ』
ケクロプスと睨みあっているとギン爺から進言される。
一度は敗れたギン爺が私と一緒なら勝てると踏んで挑んだ戦いだ。戦った経験のあるギン爺がそう言うからには、勝てる見込みがあるって事だろう。
二対一か、気は進まない……でも、
『そうね。二対一なんて私の性に合わない……でも、やるわよ! 合わせなさいギン爺!』
『はいですじゃ!』
〖真空斬〗で負った傷もすっかり回復し、私とギン爺を睥睨するケクロプスと相対し身構える。
この戦いの勝敗はフェリシアのみならず、町の住人全員の命が懸かっている。私の正体がバレた以上、負ければ反逆とみなし、ケクロプスは町の住民を皆殺しにするだろう。
そう、これは絶対に負けられない戦いなんだ。
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