第33話湖の大蛇ケクロプス

 ギン爺を背中に乗せた私は大蛇の待つ湖に急ぐ。

 もう日が暮れそう……ベビーピアサとの戦闘で時間を取られちゃったわ。

 できればフェリシアたちが到着する前に大蛇を倒してしまいたい。急がなきゃ!


 全開までスピードを上げて飛ぶと、短時間で湖の近くに到着した。

 直接湖に着地して大勢に囲まれたら不味いからね。ここからは徒歩で進む。


 周囲を警戒しながら慎重に進み、木陰に隠れながらそっと湖を窺うと、静かな湖畔が広がっていた。

 どうやら手勢を率いて待ち構えてはいないようだが、〖気配探知〗は湖の中に特大の反応を示している。

 大蛇はあの中だな、私たちは〖隠密〗を発動させているし気付かれてはいないはずだ。


 ここは私が転生して生まれたすぐ近くの場所、久しぶりに帰ってきた。

 当時は弱すぎて隠れるしかできなかったけど、今は怖くない。強くなって戻ってきたぞ。

 久しぶりに帰った生まれ故郷に想いを馳せていると、ギン爺もまた感慨深そうに目を細めていた。


『ギン爺も懐かしい? どれくらい振りに帰ってきたの?』

『……そうですな。彼此八十年ぶりになりますじゃ』

『八十年!』


 私の想像よりずっと長かった。やっぱりギン爺って長生きしてるんだね。

 それだけ久しぶりなら想うところもあるだろう。あの懐かしむような目も頷けるよ。


『もう生きてこの地を訪れる事はないと思っておりました。ワシに故郷を取り戻す機会を与えてくださり、ありがとうございますですじゃ……』


 ギン爺のステータスには老化がついている。もしかしたら寿命が近いのかもしれない。

 それにしてもこの湖が故郷か、私にとっては一晩明かしただけの場所だけど、ギン爺にとっては思い入れのある大切な土地なんだろう。

 ギン爺のためにも、大蛇を倒して湖を取り戻してあげたい。


『貴方もこの湖が故郷なのね。実は私もなの。偶然ってあるものなのね』

『なんと! 主様もですか! ……大蛇に故郷を奪われたワシらが集まった。であるならば、それは偶然ではなく運命と言うのですぞ』

『ふふふっ、そうかもね』

『はっはっはっ、そうですぞ』


 ギン爺があまりにかっこいい台詞を言うものだから、決戦前だというのに、思わず二人で笑い合ってしまった。

 運命か、ギン爺って意外とロマンチストなのね。


『それじゃあ、行こうかギン爺!』

『はいですじゃ主様!』


 ひとしきり笑った事で体が軽くなった。

 過度の緊張はパフォーマンスを低下させる。会話は緊張をほぐす目的もあったのだ。

 湖のほとりまで足を進めると、水面に大きな影が浮かんできた。


『大蛇の奴、ワシらに気付いたようですな』

『ええ、くるわよ』


 影はどんどん大きくなり、激しい水飛沫を上げて大蛇が姿を現した。

 大蛇は鎌首をもたげてこちらを睥睨している。

 凄いオーラを放っているが、フェリシアの町で見た時よりも威圧感を覚えない。

 それは私が大蛇の実力に近付いているって事だと思う。


『生贄が到着したと思えばお前か老亀。一緒にいるのはドラゴン……? いや、まだ子供だ。我の敵ではない……。それで、老亀がドラゴンの子を連れ湖を奪いにきたか?』

『奪いにきたかじゃと? この湖は元々ワシの棲家じゃ。それを奪ったのはお主の方じゃろう……ッ!』


 大蛇の問いにギン爺が体を震わせて言い返す。

 見たところ、この震えは大蛇にビビってるんじゃなくて怒りによる震えだ。


 あの大蛇と正面から睨み合っている。ギン爺は本気モードだな。

 そんじゃあ私はその隙に〖鑑定〗タイムだ。

 町に現れた時に見れなかったステータスを確かめさせてもらうよ!

 〖鑑定〗!


―――――――――――――――――――――


種族:ケクロプス

ランク:B-

LV :41/60

HP :615/615

MP :285/285

攻撃力:482

防御力:407

魔力 :285

素早さ:320


通常スキル

〖鱗LV6〗〖気配探知LV6〗〖思考加速LV4〗

〖念話LV4〗〖人間言語LV4〗〖暗視LV4〗

〖隠密LV3〗〖HP自動回復LV4〗〖MP自動回復LV3〗

〖肉体再生LV3〗〖痛覚緩和LV4〗〖牙撃LV5〗

〖体当たりLV5〗〖巻きつきLV5〗〖毒攻撃LV6〗

〖麻痺攻撃LV5〗〖丸呑みLV4〗


魔法スキル

〖水魔法LV5〗

〖癒しの水〗〖浄化の水〗〖ウォーターボール〗


〖木魔法LV4〗

〖ガーデニング〗〖ウィンド〗


耐性スキル

〖物理耐性LV5〗〖魔法耐性LV2〗〖毒耐性LV5〗

〖麻痺耐性LV5〗


称号スキル

〖最終進化LV――〗


スキルポイント:2530


―――――――――――――――――――――


 ギン爺と同じB-ランク……爺と違って老化の状態異常もないから私よりずっとステータスが高い……!

 特に攻撃力と防御力の高さは脅威だ。ドラゴンに進化した私のHPと防御力を持ってしても、下手したら一撃で殺されかねない数値だぞ……!


 それに加えて〖水魔法〗を持ってるから、回復手段まであるのが厄介だ。

 大蛇の奴はHPもMPも高く、持久戦にも対応できる隙のないスキル構成をしている。

 ギン爺は一対一ならかなり強い。それでも、この大蛇の高いステータスだ。老化で弱体化したギン爺じゃあ勝てないわけだよ。


 しかし種族ケクロプスか……その名はギリシャ神話においてアテナと関わりのある名前だ。

 確か人身御供の習慣を廃止した人物とも聞いた事がある。

 でも、この大蛇は町に生贄を要求するようなクズなんだよね。名は体を表すとはいかなかったようだ。


 フェリシアのためはもちろんの事、今まで生贄にされた人たちのためにも、こいつはここで倒さなければならない。

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