第27話森の仙亀

 神の声(仮)の助言に従い森の北の端を目指していた私だが、盛大に道に迷っていた。

 大分森の奥まできたけど、亀のいる池ってどこにあるんだろ? そもそも北ってどっちよ! 方角がわからないんじゃ意味ないじゃない!

 まてよ、方角か……確か切り株の年輪で方角を確認できるとか聞いた事あるぞ。

 よっしゃ! そうと決まれば伐採だ!


 〖爪撃〗で木を切り倒すと綺麗な切り口から年輪が顔を覗かせた。

 木を一刀両断するなんて、私の〖爪撃〗も強くなったもんだ。


『年輪が方角を示すというのは誤りじゃぞ』


 何者だ! 私の〖気配探知〗に反応はなかったぞ!

 突然聞こえてきた〖念話〗に周囲を警戒する。すると、茂みの中から大きな亀が姿を現した。


 大きいって言っても私と同じ人間の大人サイズだけどね。深い皴を刻んだ顔からして、随分長生きしてる亀みたい。

 ん? 亀……?

 それってもしかして、


『貴方が元湖の主だった亀かしら?』

『ほう、ワシの事を知っておるのか。昔の話じゃ。今では森外れに隠居した唯の老亀。して、何をしにきなさったリザードの変異種よ』


 やっぱり元湖の主の亀だったみたい。池にいるんじゃなかったのか?

 疑問に思っていると、老亀は私に値踏みするような視線を向ける。

 すると、体の中を覗かれるような嫌な感覚が襲ってきた。

 何これ気持ち悪い……。まさか、これって〖鑑定〗されているのか?


『この称号スキルは……! 申し訳ございませんあるじ様。まさか貴方様が〖修羅界〗の称号をお持ちとは露知らず、無断で〖鑑定〗してしまいました』


 老亀は先ほどまでの態度を一変させ、私に頭を下げて謝罪してきた。

 やっぱりさっきのは〖鑑定〗される感覚だったんだな。

 私以外の〖鑑定〗使いに初めて出会ったけど、これは気分のいい物じゃないわね。


 しかし、いきなりどうしたんだこの亀? いきなり丁寧な態度に変わったぞ。

 ってか、あるじ様ってなんだよ!


『私は貴方のあるじ様じゃないわ。それに〖修羅界〗の称号スキルがなんだっていうのよ?』

『申し訳ございませぬ説明がまだでしたな。ワシは元湖の主であり、ギンジという亀の魔物。そして、前〖修羅界〗を持つお方の配下だったのですじゃ。ワシはもう一度〖修羅界〗を持つお方に仕えたい……。是非ともワシを配下に加えてくれませぬか?』


 なるほど、前〖修羅界〗の称号スキル持ちの配下か、でもそれって私じゃないんだよね。

 配下にって言われても困っちゃうなぁ……。


『事情はわかったわ。でもねギン爺、確かに私は〖修羅界〗を持っているけど、貴方の主とは別の魔物よ』

『それはワシも存じております。主様は〖鑑定〗が使えますじゃろ? ワシを鑑定してみてくだされ。それと、ギン爺ではなくギンジですじゃ』

『わかったわギン爺』


 私も長生きしてるギン爺のステータスに興味があるし、見ていいならぜひ見たいわ。

 そんじゃあ遠慮なく。『鑑定』!


―――――――――――――――――――――


〖ギンジ〗

種族:仙亀〖状態:老化〗

ランク:B-

LV :49/60

HP :472/472(944)

MP :218/218(436)

攻撃力:185(370)

防御力:380(760)

魔力 :218(436)

素早さ:53 (106)


通常スキル

〖鑑定LV5〗〖甲羅LV6〗〖気配探知LV4〗

〖思考加速LV4〗〖念話LV4〗〖人間言語LV4〗

〖暗視LV4〗〖隠密LV5〗〖HP自動回復LV4〗

〖MP自動回復LV3〗〖肉体再生LV3〗〖痛覚緩和LV4〗

〖噛みつきLV5〗〖体当たりLV2〗〖尻尾攻撃LV4〗


魔法スキル

〖水魔法LV6〗

〖癒しの水〗〖浄化の水〗〖ウォーターボール〗


〖金魔法LV4〗

〖メタル〗〖金剛〗


耐性スキル

〖物理耐性LV7〗〖魔法耐性LV2〗〖毒耐性LV5〗

〖麻痺耐性LV3〗


称号スキル

〖修羅界持つ者の配下LV――〗〖悪食LV――〗


スキルポイント:1850


―――――――――――――――――――――


 おおっ! B-ランクなんて初めて見たよ! ギン爺ってば私より強いじゃないの!

 攻撃力と素早さは低いけど、それを補って余りあるほどHPと防御力が高いわ。

 〖金魔法〗の使い手も初めて見るし、これが亀の甲より年の功ってやつか?


 〖状態:老化〗ってのはなんだろ?

 教えて天の声の姉さん。


【〖状態:老化〗は年を取り体が老化したため、全ステータスにマイナス補正が入る状態異常です】


 なるほど。読んで字の如くだったわ。年の功のせいでステータスが下がってるわけね。

 ステータスの()の部分が本当の数字なんだろう。全ステータスが半分まで下がっている。

 最大HPとMPまで下がってるし、〖老化〗はかなり厄介な状態異常だ。

 それでも私より強いんだから、全盛期は相当な猛者だったんだろうな。


 それにギン爺の持つ称号スキル〖修羅界持つ者の配下LV――〗、これは先代〖修羅界〗所有者の事なんだろうけど、それが私にも適用されているのかもしれない。

 そう考えれば私の配下になりたがる理由にも納得がいくわ。


『強いわねギン爺。私よりも強いのに、それでも配下になりたいの?』

『なぁに、あるじ様であればワシなどすぐに追い越してしまいますじゃ。それと、ギン爺ではなくギンジですじゃ』


 確かに私には〖修羅界〗の他にも〖転生者〗の称号スキルまである。

 いずれはギン爺を超えるくらい強くなるでしょうね。


『それで、主様はこんな森の端に何用でいらしたのかのう?』

『ああ、それなんだけど……』


 私はギン爺にこれまでの経緯を話した。

 ギン爺は『大蛇の奴めが調子に乗りおって……』と憤りを隠せない様子だ。


『てなわけで、元湖の主のギン爺なら、大蛇を何とかする策を知ってるんじゃないかと協力を求めにきたのよ』

『なるほどのう。それでしたら、主様が大蛇を倒してしまえば良いではないですか』


 倒す? あの大蛇を私が?


『簡単そうに言うけど、私の見立てではとても勝てそうになかったわよ』

『確かにワシと主様だけでは大蛇には勝てん。しかし、主様は〖修羅界〗の称号を持っていなさる。LVを上げてもう一度進化すれば勝てますとも』


 それは私も考えなかったわけじゃない。

 でも、私が強くなった影響で弱い魔物を倒しても経験値が得られなくなったんだよなぁ。

 時間をかければ進化だってできるだろうけど、タイムリミットは今日の夕方だ。私には時間がないのよ。


『私を買ってくれるのは嬉しい。けど、さっき話した通り時間がないのよ。今日中に進化するのは厳しいわ』

『ホッホッホッこのギンジ、元とはいえ湖の主ですぞ。良い狩場くらい知っておりますとも。ワシも大蛇には湖を奪われた恨みがある。協力は惜しみませんぞ』


 ギン爺は自信ありげにそう答えた。

 効率のいい狩場を知ってるのか? それならいけるかもしれないわね。


『希望が見えてきたわ! ありがとうギン爺!』

『ワシの名前はギンジ……もうギン爺でいいですじゃ。では案内しますのでついてきてくだされ』


 そうだよ! 私が強くなって倒せばいいんじゃん!

 ギン爺の協力のおかげで可能性が見えてきたわ!

 こうして私はギン爺に案内され、おすすめの狩場に向かう事になった。

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