第28話キツネの群れ

 ギン爺に案内されて到着したのは近くにある小さな池だった。そこには数十匹のキツネ型の魔物が我が物顔で闊歩していた。

 もしかしてここって神の声(仮)に聞いたギン爺の居場所?


『ここには主様に経験値が入るクラスの魔物が集まっております。LV上げにはもってこいですぞ』


 得意気に語るギン爺の目は、悔しそうにキツネの魔物を見詰めていた。

 あの目には恨みが籠っていそうだ。

 もしかしてギン爺のやつ……。


『あんたまさか、大蛇に続いてキツネにまで住処を奪われたの? そんなに強いのになんでよ?』

『ホッホッホッ、バレましたか。一対一ならあのようなキツネどもに負けはせんのですが、残念ながらワシは素早さが低く、数がおると囲まれてしまって苦手なのですじゃ。防御力が高いおかげで何とか逃げ出せましたが……』


 つまり袋叩きにされて逃げ出したわけだ。

 ステータスに凹みがあると、強くても相性負けする事もあるのね。

 そこで粘らず戦略的撤退を選ぶあたり賢いと思うわ。

 それはともかく、


『何がいい狩場を紹介するよ。私に住処を取り戻してほしいだけじゃないの』

『まあまああるじ様そう言わずに。数も強さも丁度いい具合に揃っておりますぞ』


 悪びれもせずギン爺が答える。

 あるじ様を利用しようってか? 食えない爺さんだぜ。

 でもまあ、都合のいいLV上げスポットなのは確かだ。


『わかったわ。ギン爺の住処奪還に協力してあげる』

『さすが我があるじ様! 頑張ってくだされ!』


 私はギン爺の声援を背中に受けて駆け出した。

 まったく、調子のいい爺さんだよ。まだまだ長生きしそうだな。


「コーーーン!」


 私の接近に気付いたキツネが吠えて知らせる事で全員が迎撃態勢に入った。

 反応が早い! よく連携が取れてるわ!

 集団で狩りをするのに慣れていそうね。

 まずは〖鑑定〗だ!


―――――――――――――――――――――


種族:ストレイフォックス

ランク:D-

LV :22/30

HP :112/112

MP :58/58

攻撃力:81

防御力:65

魔力 :58

素早さ:103


通常スキル

〖毛皮LV4〗〖気配探知L4〗〖隠密LV3〗

〖牙撃LV3〗〖体当たりLV2〗〖毒攻撃LV5〗

〖HP自動回復LV1〗


耐性スキル

〖物理耐性LV4〗〖毒耐性LV5〗〖魔法耐性LV1〗


称号スキル

なし


スキルポイント:320


―――――――――――――――――――――


 こいつらギン爺が逃げ出すだけあって結構ステータスが高いぞ!

 それに〖毒攻撃LV5〗のLVがやたら高い。あれか? エキノコックスか?

 私の〖毒耐性〗も高いから大丈夫だとは思うけど……いや、あれって寄生虫だったか?

 じゃあ〖毒耐性〗は関係ない?


「コンコンコーンンンッ!」


 考えが纏まる前に、近くにいた三匹が私に向かって前と左右、三方向から攻撃を仕掛けてきた。

 やっぱり連携して動いてきたな。

 〖飛行〗がLV2に上がってできるようになった新技を見せてあげるわ!


 私は正面のキツネに向かってジャンプする。

 そして、翼に魔力を集中させてそのまま地面スレスレを滑空し、正面のキツネに〖体当たり〗を食らわせた。


 まだまだー!

 私は左右のキツネを無視してそのまま集団に突っ込み、轢き逃げさながらキツネたちを跳ね飛ばす。

 この新技使えるわ。

 格下の雑魚狩りに重宝しそうね。


『その位置は不味いですぞあるじ様!』


 滑空で跳ね飛ばしているとギン爺の〖念話〗が聞こえてくる。

 そして、私が止まる頃には多くのキツネたちに囲まれていた。

 もう一度滑空しようにも助走が必要だから今は使えない。

 しかもこいつら、結構HPと防御力が高いからまだ一匹も倒せてないぞ。

 まずったな……調子に乗って深入りし過ぎたか?

 このままじゃギン爺と同じで袋叩きにされちゃう。


「コンコーン!」


 私を取り囲んだキツネたちが一匹の合図で一斉に襲いかかってきた。

 いって! キツネが足に噛みついてきた!

 こいつら攻撃力も高いから結構効くぞ……!


 足に噛みつくキツネを振り払ったその時、後方で戦況を窺うキツネと目が合った。

 ん? 確か初めに迎撃の合図を出したのもあのキツネだったような……?

 群れの中で一番体格が大きいし、さてはあいつがリーダーだな。

 多勢と戦う時、リーダーから倒すか雑魚から倒して数を減らすかは意見のわかれるところだが、私はリーダーから倒す派だ!


 ターゲットを決めた私は体に噛みつくキツネを無視してリーダーに向かって駆け出した。

 私の行く手を阻もうとキツネたちが殺到してくるがそんなの無視だ!


「コーーーンッ!」


 リーダーキツネの一吠えで手下が壁のように並び守りを固める。

 軍隊かこいつら、なんてしっかりした連携だよ。

 それでも私は! リーダーキツネを! 倒すまで! 止まらない! 永久機関になるのだ!

 私は壁のように並んだキツネを〖体当たり〗で弾き飛ばしリーダーキツネに〖爪撃〗を叩き込む。

 私の〖爪撃〗がリーダーキツネの腹を貫いた。


「コンッ!」


 〖爪撃〗に腹を抉られながらもリーダーキツネが〖牙撃〗で私の肩に噛みついてきた。

 ぐぅっ、目が霞んできた……! 強力な〖毒攻撃〗で意識が飛びそうだよ……!

 くっそー! 噛みつきには噛みつきで対抗だ!

 私は肩に噛みつくリーダーキツネの背中に〖牙撃〗を打ち込む。

 ここから私とリーダーキツネの〖牙撃〗対決が始まった。


「コォォォォオオオンッ!」


 後はこいつを倒すだけなんだけど、このリーダーキツネなかなかやる……!

 ステータスでは私の方が勝ってるはずなのに、〖癒しの水〗で回復しながら嚙みついている私と互角にやり合えるなんて……!

 でもな、こんな所で私は負けるわけにはいかないんだよぉおおお!

 グウウウオオオオオッ!


「コォォォォン……!」


 私の渾身の力を込めた〖牙撃〗が背骨を砕くとリーダーキツネは断末魔の叫びをあげた。


【通常スキル〖牙撃LV3〗が〖牙撃LV4〗に上がりました】

【経験値を158取得しました】

幼黒石竜子ようこくせきりゅうしはLV18からLV19に上がりました】

【スキルポイントを取得しました】


 うおっしリーダーはやったぞ!

 手下キツネどもは――ッ!


「「「コココーーーンンンッ!!」」」


 残りの敵を警戒する私に手下キツネが一斉に襲いかかってきた。

 くっそこいつら! 私一匹に大勢で卑怯だぞ!

 だったら私も!


『ギン爺手伝って! 数には数で対抗よ!』

『ワシが加わっても二匹ですぞあるじ様。たった二匹なのに数で対抗とは?』

『うっさい! 四の五の言わずに手伝えっての!』

『はいですじゃあるじ様!』


 私だけじゃ手が足りない。

 ギン爺を加えた事で戦況は私たち有利に一変した。

 一斉に襲いかかってきた時はビックリしたけどこいつら弱いぞ。

 リーダーキツネの指示がなきゃ烏合の衆だ。


 そしてギン爺、前は囲まれて袋叩きにされたって言ってたけど、多勢を相手にしなければやっぱり強い。

 一撃で残党キツネを仕留めてるよ。

 ギン爺のあるじ様として、私も負けてられないわね!

 こうして私とギン爺が残ったキツネたちを全滅させた頃、私のLVはMAXになっていた。

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