第26話神の思し召し
フェリシアの家に泊まった翌朝、私たちはフェリシアとカルロスの考えを聞くため礼拝堂に集まった。
事態が深刻なだけに、重苦しい空気になると思いきや、フェリシアもカルロスもさっぱりとした顔で私たちを出迎えた。
二人とも憑き物が落ちたみたいに晴れやかだな。いい夢でも見れたのか?
「シスターも神父さんも機嫌良さそうだな。なんかいい事あったのか?」
「あるわけないでしょバカ! 昨日何があったか忘れたの!」
「うむ」
どうやら私はアランと同じ意見だったようだ。
遺憾である。
『今日が大蛇の指定した日だわ。二人の意見を聞かせてもらえるかしら』
「はい、私も悩みました……ですが、神の思し召しを受け、この役目を引き受ける事にしました」
私の問いかけにフェリシアが答えた。
神の思し召し? この世界の神ってあの神の声(仮)の事だよね?
どうもきな臭いな。
『神ねぇ……フェリシアはそいつに命令されたの?』
「そいつだなんてとんでもない! そんな事を言ってはいけませんよアテナ。ここ最近ではありませんが、過去に神が顕現した際は、その絶大な力で悪を滅ぼしたと記録されています。神の力は本物なのですよ」
絶大な力か、神の声(仮)は胡散臭い奴だけど、それぐらいの力を持っていても不思議じゃない底知れなさがある。
フェリシアの反応も怖いし、私が神の声(仮)が聞こえるのは言わない方がいいかも。
『その神の声がフェリシアに聞こえたっていうの?』
「いえ、私の夢に出てきたのです。そして、神は私に生贄になれと仰いました。教会に伝わる伝承では、夢に神が出てくるのはとても栄誉ある事なのですよ」
えっ、声が聞こえたんじゃなくて夢に出たんだ!
もしかして別神なのか?
どっちにしろ死ねと言ってるようなもんだ。私はそんなの認めないわ!
『そんな胡散臭いの信じちゃダメだって! 私は貴方に死んでほしくないわ!』
「ありがとうアテナ……ですが、聖女候補にとって神の思し召しは運命なのです。私が聖女候補である限り運命には逆らえません。……アテナ、貴方は私を運命の袋小路から救ってくれるのですか?」
私の必死の訴えに、フェリシアは苦しそうな顔で答えた。
フェリシアは優しい子だ。きっと私の想いも理解しているからそんな顔になるんだろう。
私は彼女のそんな顔は見たくない。だったら!
『そんな運命、私が変えて見せるよ!』
「アテナ……』
私は真っ直ぐにフェリシアを見据えて宣言する。
フェリシアが私の言葉に口を開きかけたその時「すまないアテナ君、そこまでにしてくれ」とカルロスが割って入ってきた。
「アテナ君、神は私の夢にも現れ、周りが反対したら説得するようにと仰られたよ。すまないがこれは私たち家族と町の問題だ。フェリシアを想ってくれるのは嬉しいが、ここは引いてくれないだろうか?」
カルロスは神のこえを誇らしげに述べる。
その言葉の端々には、この問題にこれ以上関わらないでくれという棘が含まれているようだった。
くそっ、もうちょいでフェリシアの心に届きそうだったのに邪魔が入った。
しかし、カルロスまで神の声を聞いたとなると厄介だな。家族間の話に他人が干渉するのは難しいからね。
しゃあない! 別の手を考える!
私は基本人と人はわかり合えないと思ってるトカゲだけど、わかり合える奇跡があったっていいじゃないか。
私は諦めない。絶対にフェリシアを死なせはしないよ!
『わかったわ。取りあえず今は引くよ。でも、私は別の手を探しに行ってくる。私が帰るまで大蛇の所に出発しちゃダメだからね!』
「姉さん俺らも手伝うぜ!」
私が外に出て行こうとしたら冒険者三人がついてきた。
『あんたらはあの二人が先走らないように見張ってなさい! これはあんた達にしか頼めない大事な役目だから頼んだわよ!』
「おうよ任された!」
「任せて姉さん!」
「うむ!」
あの三人には留守番を頼む。
ついてこられても足手纏いになるし、解決策が見つかってもフェリシアが食べられてましたじゃ困るからね。
こうして私はフェリシアを救う方法を見つけるために町の外へと駆け出した。
◇◇◇
だが、勢いよく飛び出したはいいものの、私は何をしたらいいのかわからず森をウロウロしていた。
言うて情報もなしでどう探せばいいものか……。
『大変そうだね。大丈夫かい?』
これからどうしようか考えていたら頭の中に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
出たな胡散臭い神!
『胡散臭いなんて酷いなぁ。二人の夢に出てきたのは僕じゃなく別の神かもしれないのにさ』
へー、神ってあんたと女神セルフィーナ様以外にもいたんだ。
『ああ、神はこの世界には結構いるよ。もっとも、僕やセルフィーナくらい強い神は少ないけれどね』
ふーんそうなんだ。
神様って珍しいのかと思ってたけどそうでもないんだね。
『それと、フェリシアとカルロスの夢に登場したのは僕さ』
やっぱりあんたじゃねーか!
このままじゃフェリシアが生贄にされちゃうじゃない!
何てことしてくれたのよ!
『ふーん、せっかく大蛇を倒すヒントを教えてあげようと思ったのに、そんな事言っちゃっていいのかな?』
怒る私に神の声(仮)は嫌らしい態度で答えた。
えっ、大蛇を倒すヒント?
ごめんごめん。謝るから教えてよ。
『まったく、調子がいいんだから。まあいいよ、教えてあげる。森の北の端に小さな池がある。そこに住む亀はかつて湖の主だったんだ。今はその座を大蛇に奪われて落ちぶれちゃったけど、恨みがあるから協力してくれるんじゃないかな?』
なかなか具体的なアドバイスをしてくれるじゃないのさ。その亀を味方につければ大蛇に勝てるの?
『僕は君に期待しているんだ。大蛇なんかに負けてもらっちゃ困るからアドバイスさせてもらったよ。勝てるかどうかは君次第さ。頑張ってね』
ありがとう。正直どうしていいのかわからなくて困っていたから助かったわ。
こうして神の声(仮)のアドバイスを受けた私は亀の協力を得るため、森の北にあるという池を目指して走り出した。
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