第24話フェリシアの家にて

「着きました。ここが私の家であり、この町唯一の教会でもあります」


 案内されたフェリシアの自宅は教会だった。

 自宅兼職場って奴か。

 あの屋根についてる丸い飾りって、確かフェリシアのロザリオにもついてたよね? この世界の宗教のシンボルなのかな?


「アテナ、中へどうぞ」


 フェリシアの胸に輝く丸いロザリオを見ながらそんな事を考えていると、フェリシアに呼ばれた。

 気付けばみんなは既に中に入っていた。

 おっといけない。私も行こう。


 正面玄関から中に入ると広い礼拝堂になっており、奥には御神体なのか信仰する神なのか、綺麗な女性の像が祀られていた。

 あれ? この世界の神って神の声(仮)じゃないの?

 まあ、あいつは女性なのか男性なのか区別がつかないけど……。


「アテナ、女神様が気になるのですか?」


 私がジッと女性の像を見詰めているとフェリシアが問いかけてきた。


『気になるというか、私教会って初めてきたから新鮮だったの。この人、綺麗な女性だね』

「この方は女神セルフィーナ様。この世界を支えている最高神とされています」

『支えているって?』

「この世界を下から持ち上げて支えているという意味です。セルフィーナ様がいなければこの世界は転んでしまい、大地震が起こり壊れてしまうとされています」


 ええっ! なんかそれ聞いた事あるやつー!

 確か海外の神話でそんなのがあったよね。

 そんなんいるわけないじゃん……とも言えないのが異世界クオリティ。

 えっ? 本当にいるの?


「なんだよ知らねえのか姉さん。この世界が女神様に支えられてるなんて常識だぜ」

「ちょっと! 失礼だよアラン! 姉さんに謝りなさい!」

「うむ、そうだぞアラン。謝れ」

「とっ……すまねえ姉さん。調子に乗っちまった」


 失礼なアランをマイとダンカンが戒める。

 いつもの流れだ。


『私がこの世界の常識を知らないのは確かだから気にしてないわ。色々と教えてちょうだい』


 そう、私はこの世界を知らない。

 何しろ生後数日だからね。知らないのも当然だ。それで詳しかったら天才。いや、寧ろ変態だよ。

 だから周りからは色々と教えてほしいんだ。


 客間に移動した私はフェリシアたちからこの世界の事をレクチャーしてもらう。

 フェリシアの信仰している宗教はセルフィーナ教といって、読んで字の如く女神セルフィーナ様を信仰する世界最大の宗教なんだそうだ。


「その最大宗教団体の中でも特別な存在が聖女なんだ。今は不在で候補者から選ばれるってえ寸法よ」

「で、その聖女候補の一人が、こちらのシスターフェリシアなのよ」

「うむ」

「改めて自分の事を説明されるのは何だか気恥ずかしいですね」


 アランたちの説明に本人であるフェリシアは恥ずかしそうに色白の頬を朱に染めた。

 多少聞いてはいたけど、やっぱりフェリシアは凄い人だったみたい。


「その通り、うちのフェリシアは凄いのだよ」


 私たちのいる客間に初老の男性が入ってきた。


「戻られたのですねお父様」

「ああ、ただいまフェリシア。いらっしゃい冒険者さん。そちらの魔物は……?」


 初老の男性はフェリシアと冒険者たちに挨拶すると、私をジッと見詰めてきた。

 フェリシアがお父様と呼ぶって事は父親だよね。

 私を疑っているような表情だ……無理ないか、だって私ってば魔物だもん。


「お父様、こちらのリザードはアテナと言って私の友人です。とても知能が高く人の言葉も話せます。決して悪い魔物ではありません」

「そうか……フェリシアが言うなら信じよう。初めましてアテナ君。私はフェリシアの父親のカルロスという。町の代表もさせてもらっている。私とも友人になってくれるかい?」


 カルロスと名乗る初老の男性は、柔和な笑みを浮かべ手を差し出してくる。

 フェリシアと同じく優しそうな父親だな。

 まあ、そんなに私と友達になりたいならなってあげてもいいわ。

 かっ、勘違いしないでよね!

 フェリシアの父親だから特別なんだからね!


『よろしくねカルロスさん』

「こちらこそよろしくアテナ君」


 私がカルロスの手を取ったその時、外から悲鳴のような大声が聞こえてきた。

 外で何かあったのか?


「行くぞマイ、ダンカン!」

「そうね。ただ事じゃなさそうだわ」

「うむ」


 悲鳴を聞いた冒険者三人が外に飛び出していった。

 非常時の判断力の高さはさすが冒険者といったところか。


「フェリシア、私たちも行こう」

「はい、お父様」


 少し遅れてカルロスとフェリシアも外に出て行った。

 みんな出て行っちゃったよ。

 しゃあない。私も行くか。


「なっ……なんてバカでかい蛇だよ……!」

「むぅ……!」

「まさか、これが湖の大蛇なの? こんな化け物に勝てっこないよぉ……!」


 私たちが外に出ると、町の外にとんでもなく大きな蛇が鎌首をもたげてこちらを睥睨していた。

 町の住民は悲鳴上げ、先に外に出ていた冒険者三人も彼我の戦力差に怯えた様子を見せていた。

 無理ないよ。ありゃあバケモンだわ。


「湖の大蛇……以前現れた時よりさらに禍々しく強大になっているわ……。アテナ、貴方が見たという大蛇と同じですか?」

『ええ、間違いないわ……』


 あれは私が初めて湖に行った時に見た大蛇だ。

 ボスが自らやってくるのは反則だろ!

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