第22話三人の冒険

「ひぃっ……ッ! こっ、こないで……ッ!」

「〖念話〗ができるなら言葉はわかるだろう? 食うなら俺を食え! その代わり仲間は見逃してくれ……ッ!」

「アラン、お前一人では足りんだろう。私も加えて食べてもらおうか」

「そんな、ダンカンまで……ッ! 二人を見捨てたら私は自分を許せないよ……ッ! たっ、戦っちゃう?」

「バカ言え! さっきの戦いを見ただろう! 俺たちの敵う相手じゃねえ……ッ!」

「マイ、ここは私たちに任せてお前だけでも逃げるんだ」

「わーん! そんな事できないよー!」


 私が近づくとなんか知らんが三人の冒険者たちが盛り上がり始めた。

 一歩足を踏み出すたびにいい反応が返ってくる。


 なんか見てるだけでこっちまで楽しくなってきたぞ。

 でも、普通なら我先に助かろうと命乞いするだろうに、この三人は身を挺して仲間を助けようとしている。

 私の尻尾を斬ったアラン、ガタイのいいダンカン、それに可愛い女の子のマイ。

 いいパーティーじゃないか。

 いやー、良いもの見せてもらった! 気に入ったわこの三人。


『貴方たちフェリシアに湖の調査を頼まれた冒険者よね? 貴方たちの絆に免じて、私の尻尾を斬った事を許してあげるわ』

「尻尾って……まさかあの黒リザード! ってかその喋り、雌だったんか!」

「ここにくる前に会ったレアモンスターなのか……!」

「ええっ! あのリザードはこんなにおっきくなかったよー!」


 やはりこの三人、叩けばいい反応が返ってくる。

 こいつら強くないし、冒険者なんて辞めてリアクション芸人にでも転職した方がいいんじゃないか?

 フェリシアと比べてLV上限が低い。さらに、生後数日の私より弱いんだから向いてないよ。


 でも、戦いだけが冒険者の仕事じゃないのか。

 悪い奴らじゃないし、町のお手伝い依頼とか採取依頼なんかで活躍できそう。後は今やってる調査依頼とかね。

 フェリシアはそこまで考えて調査を依頼したのかもしれない。

 でも雌はやめろ。私はメスガキではない!


「なんか失礼な事言われてる気がするわ」

「いったい何者だこのリザードは……?」


 おっといけね。

 余計な事を考えていたら訝しそうに見られてたわ。

 さて、こいつらどうしようか?

 とりあえずフェリシアの知り合いで、私も気に入ってしまった以上、尻尾の恨みで殺すのはなしだな。


 ん、殺す?

 私が人を殺すって考えたの?

 そんな事が自然と出る思考に驚いたよ。

 もちろん私は前世で殺人なんてした事はないし、それどころか犯罪なんて大嫌いなタイプだった……はず。

 どうも記憶が曖昧だけど、それは間違いない。


 人外に転生して人間じゃなくなった影響が出てるのかな?

 それとも〖修羅界〗が悪さしてるのか?

 とにかく殺すのはなしの方向で!


『私はフェリシアの友達のアテナよ。私も湖の調査にきたんだけど、そしたら貴方たちが魔物の群れに襲われてたから助けたってわけ』

「フェリシアさんの友達だと……魔物のあんたがか?」

「シスターは聖女候補の一人だ。我ら凡人とは器からして違うということか……」

「さすがシスターフェリシア。魔物と友達になるなんて天使だわ……!」


 聖女候補? なにそれ?

 ステータスもスキルも高かったし、やっぱりフェリシアって凄い子なのかな?


『聖女候補って何?』

「ん? 聖女候補を知らねえのか?」

「アラン、このリザード殿は魔物だ。人間の常識などわからぬだろう」


 私の問いに「そんな事も知らねえの?」みたいなノリで返してくるアランだが、ダンカンに言われて納得したように頷いた。


「そっか、魔物のあんたにゃわかんねえよな。いいか、聖女候補ってのはな、次代の聖女様に選ばれる可能性を持った人間だ。他にも何人かいるんだが、簡単に言えば神に愛された選ばれし者だ」

『ありがと。勉強になったわ』

「へへ、いいってことよ!」


 神に愛された選ばれし者ねぇ……。

 その神ってのはあれか? 神の声(仮)か?

 あんな胡散臭いのに選ばせて大丈夫なの?


「ちょっとアラン! なんでそんなにフランクに喋ってんのよ。命の恩リザードさんに失礼でしょ! ごめんなさいリザードさん! アランはバカなんです!」

『構わないわ。私は寛大だからね』


 アランの口ぶりにパーティーの紅一点、マイが突っ込んだ。

 言われたアランは「バカは言い過ぎじゃね!」と笑っていた。


 仲良いなこいつら。

 確かに失礼だけどそんな事で怒らないよ。

 嫌な奴ならともかく、この三人は気のいい連中だしね。


「ほら! リザードさんもこう言ってるしよ。硬い事言うなって」

「リザードさんが構わないならいいけど……」

「アランの説明には誤りがある。正確には神にではなく教会に選ばれし者だな。神は滅多な事では顕現しないとされている」


 ゴツイ見た目のダンカンがアランの説明を補足した。

 なるほど、神の声(仮)じゃなくて宗教家の偉いさんが選んでるのか。


 って事は神の声(仮)の奴、普段は表に出てこないんだな。

 私の所にはちょこちょこ出てくるから、気軽に会える系の神かと思ってたよ。


「リザードの姉さん。たぶんあんたは俺が尻尾を斬っちまったレアモンスターだろう? それなのに俺たちを助けてくれてありがとう。感謝するよ」


 私が納得していると、さっきまでと違う真剣な面持ちでアランが謝罪の言葉を告げる。

 なんだ、ただのお調子者かと思ったら意外とちゃんとしてるわね。


『再生させたから気にしないでいいよ。斬った尻尾も好きにしていいから』

「いいのか? ありがとうリザードの姉さん! こいつぁ大儲けだぜ!」

「うむ。これで装備を買い替えできるな」

「私アクセサリーがほしい! 買ってもいいよね?」


 尻尾を帰さなくていいと知った三人は大喜びしている。

 えっ? 私の尻尾ってそんなに高く売れるの?

 まあいいさ、好きにしな。

 私は一度口にしたら滅多な事では曲げない女。私の尻尾で豪遊でもしなさいな。


 さて、この後どうしようかな。

 私一人なら調査を続けられるけど、この三人放っておいたら魔物に襲われて死んじゃいそうだしなぁ。

 しゃあない送っていくか!


『この湖の魔物は強い。このまま貴方たちを帰したら道中危険だし送っていくわ』

「「「お願いします姉さん!」」」


 三人の声が綺麗に重なり、いい返事が返ってきた。

 どうやら私の呼び方は姉さんに決まったらしい。まあ好きに呼べばいいよ。

 こうして私は冒険者三人を町まで護衛する事になったのだ。

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