第21話冒険者を助けよう

 湖の大蛇の調査に向かった私は、道中で進化後の取得経験値について考えていた。

 ウサギの時は少なかったけど、今回の熊は経験値が美味しかった。

 確かウサギがE+ランクで、熊がD+ランクだった。そのランク差が取得経験値の差につながってるのかな?

 倒した魔物のLVも関係してるっぽい。基本的にはランクとLVが高い魔物ほど経験値を多く持ってるって考えで間違いなさそうだね。


 私が取得経験値について考察していると、突然周囲に神聖な気配が立ち込めてきた。

 この気配には覚えがある……もしかしてあいつか?


『そりゃあ雑魚狩りでレベリングなんてされたら面白くないからね。みんなには死線を超えて強くなってもらうためにそう設定したのさ』


 聞こえてきたのは神の声(仮)の声だった。

 出たな神の声(仮)! 悪いけど呼んでないよ。

 自称神のくせに気軽に現れないでよね。神ってのはもったいぶって表には姿を現さないものだよ。


『そんなつれない事言うなよ。僕があげた〖念話〗も使ってくれないし、冷たいなぁ』


 あんたは〖念話〗を使わなくても私の言葉が届くからね。無駄な労力を使う必要はないでしょう?

 〖念話〗は役に立ってるからお礼だけは言っておくわ。

 で、何しにきたの?


『僕は君に期待しているんだ。アドバイスをくらいさせてくれよ』


 アドバイス~?

 うさんくさいなぁ……。


『まあ聞いてくれよ。君はこれから湖の大蛇の調査に行くんだろう? それは止めた方がいい。あの大蛇は〖気配探知〗のLVが高いからね。すぐに見つかってしまう。今の君じゃあ殺されにいくようなものだよ』


 あれ? 神の声(仮)の奴、本当に私の事を心配しているみたいだぞ……!

 そんな優しい心があったなんて意外だなぁ。


『君は僕をなんだと思っているんだい? 本当に目をかけている十界称号スキル持ちを簡単に死なせたくないだけさ』


 神の声(仮)にしては、珍しく真実を話しているように聞こえた。

 ありがとう、気持ちは嬉しいよ。でも、私にはフェリシアと交わした約束があるんだ。

 約束を破らない。それは私の矜持なんだよ。


『状況に合わせて柔軟に判断するのも大切だと思うけどなぁ。でも、そんな生真面目な性格は君の美徳でもある。そういうところが僕は好きだよ。とにかく忠告はしたからね』


 そう言うと神の声(仮)の気配はなくなった。

 帰ったのか?

 まったく、私の事わかった気になって好き放題言ってくれちゃって。


 とはいえ自称創造神が出てきたくらいだ。それだけ危険なんだろう。

 まあ、忠告は無視するけど、十分に気をつけて調査するとしよう。

 私は気持ちを引き締めて湖の調査に向かった。




 さーて、湖の近くまでやってきたわね。ここらは魔物が多いから注意しないと。

 ん、あれは何かしら……?


 湖の近くまでやってくると、三人の人間が魔物に囲まれていた。


「くそっ! なんだこの湖は! 魔物の数が尋常じゃねえぞ!」

「こんなに危ない場所だって知ってたら依頼なんて受けなかったのにー!」

「シスターから危険だと言われただろ? それを承知で受けた依頼だ。何としてでもやり遂げる。そして、生きて帰るのだ……ッ!」


 あれって、私を襲ってきた冒険者三人組だよね?

 そういや、フェリシアはあいつらに調査を依頼したって言ってたな。

 ふーん、私の尻尾を斬り落としたのは絶許だけど、見た感じ責任感もある。

 意外と悪い人間じゃなかったのかも。


「だが、ここにくるまでに魔物の糞は踏むわ、魔物除けの聖水までもらったのに魔物に包囲されるわ、今日ツキがねえのは確かだ……」

「厄日だって事ー? 止めてよ縁起でもない……」

「帰ったらシスターにお祓いを頼むとしよう……」


 へー、あいつら今日は運が悪いんだ。

 ん? 運が悪い?

 それってもしかして、私の〖呪詛〗のせいか?

 あいつら私のせいでピンチになってんの?


 う~ん……しゃあない助けるか!

 私とあいつらの目的は同じみたいだし、情報は多い方がいいもんね。


『そこの冒険者諸君! 義によって助太刀いたすわ!』

「――むッ! これは〖念話〗……ッ!」

「助太刀ってなにーーーッ!」


 私の叫びで魔物と冒険者たちの動きが一瞬止まる。

 その隙をついて〖体当たり〗と〖尻尾攻撃〗で魔物を蹴散らしていく。

 いやー、数が多すぎてヤバいと思ったけど、集まってるのが雑魚ばっかりで良かったよ。

 これなら私一人で余裕だね。


「つ、つええ……なんだこの黒いリザードは……ッ!」

「もしかして、さっきの〖念話〗ってあのリザードなの……?」

「いや、それはないだろう。あの嬉々として魔物を屠る顔を見ろ。凶暴な魔物だ……ッ!」


 こ・い・つ・らー! せっかく助けてやってるのに、なんだその言いぐさは!

 また〖呪詛〗かけるぞこんちくしょう!

 私はやり場のない怒りを魔物にぶつけ、全滅させる頃にはLVが18まで上がっていた。


 LVと共にスキルLVも上がっていた。

 〖水魔法〗がLV3に上がった効果で〖浄化の水〗を取得したわ。

 新しく覚えた魔法を〖鑑定〗したら天の声の姉さんが答えてくれた。

 〖浄化の水〗は状態異常を治す魔法だってさ。


「マジかあの黒リザード……魔物の群れを全部倒しちまったぞ……ッ!」

「ひぃっ……こっちにくる……ッ!」

「むぅ……ッ!」


 魔物の群れを倒して冒険者たちに近づくと、彼らは身を震わせ怯えた表情になった。

 なんか魔物を全滅させたらめっちゃ怖がられてるんですけど!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る