第20話ベビーベア

 私は物陰から拠点に侵入してきた大熊の様子を窺う。

 いくら強くなったとはいえ私はトカゲで相手は熊、戦闘においては生物として格が違う。

 あんな強そうなのと正面から戦うなんてのはバカのする事だ。

 まずは相手を知らないとね。

 てなわけで〖鑑定〗!


―――――――――――――――――――――


種族:ベビーベア

ランク:D+

LV :17/40

HP :157/157

MP :38/38

攻撃力:105

防御力:102

魔力 :38

素早さ:76


通常スキル

〖気配探知L3〗〖毛皮LV4〗〖牙撃LV5〗

〖爪撃L5〗〖体当たりL4〗〖隠密LV2〗

〖暗視LV2〗〖HP自動回復LV2〗


耐性スキル

〖物理耐性LV5〗〖毒耐性LV3〗〖魔法耐性LV2〗


称号スキル

なし


スキルポイント:310


―――――――――――――――――――――


 あれでベビーかよ! クソデカいじゃんか!

 育ったらいったいどれだけの化け物になるんだよ……ッ!

 これがトカゲと熊の種族差か、ステータスも私よりずっと高いし、回復魔法はないけどHP自動回復を持ってる。

 しかも攻撃力と防御力が100超え……これは正面から殴り合うのは悪手だな。

 だったらどうする?

 ウサギの時みたく〖ダークミスト〗で攪乱してみるか。


 作戦を決めた私はベビーベアがこちらに気が付く前に〖闇魔法〗〖ダークミスト〗を発動する。

 黒い霧がベビーベアの周辺に立ち込めた。


「グルルルルッ?」


 黒い霧に包まれたベビーベアは視界を奪われたのか、周囲をキョロキョロと見回している。

 よーしっ! 効いてる効いてる!

 チャンスだ! 行くぞーーーッ!


「グウルッ!」


 闇に紛れて近づき〖爪撃〗をくらわせる。だが、分厚い毛皮と筋肉に阻まれ切り裂く事ができなかった。

 硬ああああッ! 爪が剝げるかと思ったわ。

 なんちゅう硬い毛皮してるのよこの熊!

 しかも、その下に隠された筋肉も分厚過ぎて殆どダメージが通ってないと思う。


「グルオオオッ!」


 私の〖爪撃〗を受けた熊はお返しとばかりに腕を振り回す。でたらめに繰り出した〖爪撃〗が私の体を抉った。


 クッ……今の一撃でHPが七割削られた!

 バカみたいな攻撃力と防御力しやがってぇ……ッ!

 〖癒しの水〗! 〖癒しの水〗! 〖癒しの水〗!

 かなりのHPを削られた私は〖癒しの水〗を三回かけてHPをMAXまで回復させる。


「グルルオオオッ!」


 私に一撃入れた熊は気をよくしたのか、両手をブンブン振り回す。一振りごとにもの凄い風切り音がする。

 その全ての攻撃が私を一撃で瀕死に追い込むほどの威力を秘めていた。


 あの〖爪撃〗の嵐を掻い潜って自分の攻撃を当てていくしか勝機はない。

 幸いMPにはまだまだ余裕がある。

 例え当たっても回復しながら戦うしかないんだ!


 こうして私と熊の我慢比べが始まった。

 〖ダークミスト〗を維持しながら熊の〖爪撃〗を寸前で躱しつつ攻撃する。被弾したら〖癒しの水〗で全快まで回復させる。

 それを繰り返すたびに私の体も心も削られていった。


 やばい辛い……まだ倒れないの……!

 どれくらい削れたんだろう? 一度〖鑑定〗してみるか。


―――――――――――――――――――――


種族:ベビーベア

ランク:D+

LV :17/40

HP :117/157

MP :21/38


―――――――――――――――――――――


 げげげっ! 殆ど減ってないじゃん! 私のMPは残り20を切ったっていうのに、なんて防御力だよ!

 やばいこのままじゃ押し負ける……!

 いっそ逃げるか……いや、逃げるのは最終手段だ。

 頭を回転させろ、何か策はあるはず……考えるのを止めるのは敗者の思考だぞ。


 私は熊の繰り出す〖爪撃〗の嵐を掻い潜りながら必死に知恵を絞る。

 すると、危機的状況が集中力を高めたのか、一つの策を思いついた。


 これならあの熊を倒せるか?

 考えたところでやってみなきゃわからない、だったら行動あるのみだ!

 私は閃いた作戦を実行するため熊の隙を伺う。熊は大振りの〖爪撃〗の後に少しバランスを崩しているように見える。

 そこだぁあああッ!


「グウオオオッ!」


 〖爪撃〗を振り抜いてバランスを崩した隙を見逃さず、私は熊のどてっ腹に全力の〖体当たり〗をくらわせる。

 私の〖体当たり〗を受けた熊は後方によろめき、壁際で転んだ。


 体格差があるため万全の状態だったら私の方が跳ね返されていただろう。

 だが、いくら巨体であろうと、バランスを崩した相手であれば転ばせるくらいはできる。

 倒れた熊は視界の悪さに加えてその巨体が仇となり、素早く立ち上がれずにいる。

 私はその隙に〖土魔法〗〖ダートウォール〗で壁を作り出し、熊を密閉された土の壁で閉じ込めた。

 そして、〖ダート〗で少しだけ穴を開け、その穴の中に〖ファイアブレス〗を注ぎ込んだ。


「グォオオオオオオッ……!」


【経験値を227取得しました】

幼黒石竜子ようこくせきりゅうしはLV2からLV5に上がりました】

【スキルポイントを取得しました】


 熊の叫びが止まると、天の声の姉さんが経験値取得を告げた。

 よっしゃ作戦成功! ぶっつけ本番で上手くいってよかったぁ。

 何をやったかっていうと、熊を密閉された空間に閉じ込めて燃やした。

 するとどうなるか、なんと酸素欠乏症で死んじゃうんだよね。


 人間の体ってのは不思議なもので、空気中の酸素濃度が18%以下になると症状が出始め、10%以下で死亡率が高まる。

 そして、6%以下になると吸い込んだ瞬間に意識を失って即死しちゃうらしいんだ。

 なぜか酸素は多すぎても死んじゃうらしいから、人間ってのは危ういバランスで生きてる生物だよねぇ。


 まあ今回の相手は熊で、しかも魔物だからどうなるかは正直賭けだったけどね。

 でも、魔物とはいえ生物である限り呼吸はする。あの密閉空間に〖ファイアブレス〗を放ったら、酸素濃度なんて簡単に6%以下になるだろうし自信はあったよ。


 酸素欠乏症とか普段の私なら咄嗟には思いつかない発想だよ。

 元々知ってた知識ってのは前提として、極限状態に追い込まれた事で、普段使っていない部分の脳が働いたのかも。

 逆境が人を成長させるってのは本当なんだね。


 まあ、なにはともあれ、熊肉パーティーの開催じゃーーーッ!!


 残った香辛料を使い熊肉を美味しくいただいた私は熊について考える。

 あの熊は湖の大蛇に丸呑みされてた熊と同じ種族だと思う。

 湖の大蛇か、フェリシアに調査すると約束したんだよね。私も進化して強くなった事だし、そろそろ調査に向かうべきだな。

 今後の方針を決めた私は拠点を後にし、大蛇を調査するため湖に向かった。

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