第9話人間との遭遇

 神の声(仮)の話を考えるのを止めた私が朝目覚めるとHPとMPは全回復していた。

 だが、昨日の話を思い出すと憂鬱になってしまう。


 明日の私になっても今後の事は思いつかないなぁ。

 よし! 未来の私に丸投げしよう!

 だって私はこの世界にきたばっかりで、世界の事も全然わかんないもんよ。


 それより先にやる事がある。

 それが何かっていうと、私が進化した影響でこの拠点が手狭になっちゃったんだよね。

 せっかく苦労して手に入れたのに手放すのも惜しい。

 だったら拡張工事したらいいと思うんだ。


 道具もないし、どうやって洞窟を広げようかな?

 手で掘ればいっか! そうと決まれば穴掘りだ!

 ワッショイ! ワッショイ! 穴掘りワッショイ!


【魔法スキル〖土魔法LV1〗を取得しました】

【〖土魔法LV1〗の効果で〖ダート〗を取得しました】


 えっ! 穴掘りしてたら〖土魔法〗のスキルを取得しちゃった!

 日常生活してるだけでスキルって取得できるんだね。

 それとも〖修羅界〗の効果なのか、穴掘りを楽にするために〖転生者〗が運命を操ったのかもしれない。

 とにかくラッキー、早速使ってみよっと。

 〖ダート〗!


 私は穴掘りしたいと念じながら〖ダート〗の魔法を使う。すると、洞窟の土が動き出し、外に運ばれていった。 

 こりゃあ楽ちんだー! 魔法様様だあね!

 私のイメージ通りに土を動かせるなんて便利な魔法だわ。応用も効きそうだし、いい魔法をゲットしたわね。

 土を操れる便利魔法だけど、あまり重い物は動かせないみたい。LV1の魔法だし、あまりパワーはないようね。


 〖ダート〗の魔法で作業スピードが上がったおかげで短時間で拠点を拡張することができた。

 うん、これなら進化した私のサイズでも十分な広さだわ。

 それに、暗い洞窟で作業してたら〖暗視〗のスキルもゲットできた。これは前居住者の蜘蛛とモグラが持ってたスキルだね。

 暗所に住むには必須のスキルだし、早くゲットできて助かったわ。

 これも〖修羅界〗と〖転生者〗の称号の影響があるのかな?

 成長促進チートスキルとか異世界転生物の王道だよね。助かるわー。


 さて、拠点の拡張もできたし、次は食糧調達に出ようか。できれば肉が食べたいな。

 モグラ肉の味を知っちゃったら、毒カエルやら蚊やら蜘蛛なんて食いたくないよ。

 でも、毒さえなきゃカエルは美味しいって聞くなぁ。

 今なら魔法で焼けるし、カエル肉はありかも。火を通せば美味しいかもしれないしね。


 カエル肉を焼いて食べる想像をしていると、お腹からクゥゥと情けない音が鳴った。

 ご飯の事考えたらお腹空いてきたよ。朝から何も食べずに拡張工事してたからなぁ……よし! 食料調達に行くか!

 私は拠点の入口を葉っぱで隠し、食料探しに出発した。




 さて、どこに行こうかな?

 湖は魔物も多いけど危険だし、逆方向に行ってみようかな。

 思えば私、この世界に転生してから湖と拠点にしか行ってないんだよね。

 異世界を探索するなんてワクワクしてきたぞー。

 何しろ異世界転生なんて私たちオタクにとっては夢のようなできごとだもの。

 せっかく拾ったこの命、楽しまなきゃ損ってもんよー!


 異世界の景色を楽しみながら湖と逆方向に進んでいると、私の〖気配探知〗が反応を示した。

 ――むっ! 気配探知に反応あり! すぐ近くに大型生物がいるわ!

 反応からして今の私よりずっと大きい……こりゃあヤバそうだ……!

 一旦隠れるか!


 危険を察知した私はすぐさま脇の茂みに身を隠す。

 しばらくすると、三人の人間がこちらに向かって歩いてきた。

 二十代くらいの若い男が二人、十代後半くらいの少女が一人の三人組だった。


 人間だ……! この世界にきて初めて見たよ!

 男は剣と斧、少女は杖を持ってる。剣と魔法のファンタジー丸出しのかっこうだわ。

 ここはある程度整地された道だ。魔物に支配された世界でもなけりゃあ人間くらいいるよね。

 しかしでかいな人間、私の五倍は大きいぞ……!

 今の私はトカゲの魔物だし、こりゃあ関わらないのが正解か……?


「※※※※※※※※!」

「※※※※※! ※※※※※※※※!!」


 やり過ごそうと茂みに身を隠していた私に向かって、若い男二人が指を向けて叫んだ。

 嘘っ! 見つかった!

 謎言語でなんか叫んでるんだけど!


【通常スキル〖人間言語LV1〗を取得しました】


 あっ、なんか言語スキルを取得したぞ。ちょっとだけ言葉が聞き取れる気がする。

 えーとなになに「あいつはレアモンスターだ」「珍しい魔物は貴重な素材になる。倒せば高く売れるぞ」私、ロックオンされてるー!


【通常スキル〖人間言語LV1〗が〖人間言語LV3〗に上がりました】


 私が人間言語を解析している間に、三人の人間はこちらに向かって走り出していた。

 スキルLVが上がったのは嬉しいけど、普通いきなり襲ってくるー!

 私たちには言葉があるんだ。話し合いで解決しようよー!

 ――そうだ念話! 私には神の声(仮)からもらった〖念話〗があるじゃないか!


『まっ……て、わたし……は、敵じゃ……ない』


 あれ? 初めて使ったけど上手く話せない。

 〖念話〗と〖人間言語〗のスキルLVが低いからか?


【通常スキル〖念話LV1〗が〖念話LV3〗に上がりました】


 やった! スキルLVが一気に上がったぞ!

 さっきので伝わってるかな?

 恐る恐る人間たちの様子を伺うが、


「あの魔物〖念話〗を使うぞ!」

「惑わされるな! 魔物は言葉で人を欺くものもいる!」

「卑怯な魔物め! そんなのに騙される私たちじゃないわよ!」


 なぜか闘争本能に火をつけてしまっていた。

 ダメだこいつら! 話が通じない!

 問答無用で襲ってくるとか、人間て魔物と変わんないじゃんかよー!

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