第39話大会

 日は過ぎて球技大会当日。学園は学生達の熱気に包まれていた。

 当日はトーナメント式で一日開催。広く、複数ある体育館を活かして大々的に行われる。学年問わず本気で戦うのがうちの伝統だ。


 今回開催する競技は男女ともにバスケ、ドッジボール、サッカー、バレーの4つ。それぞれ気合の入った面々がぶつかり合う。

 勿論のこと、上学年のほうが有利なことは明白だ。しかし、そんな中でも上級生に打ち勝つ、『下剋上』を起こすクラスもあるのだ。むしろ、それが醍醐味とも言える。


 今のところだけで下剋上は三回起こっている。

 一つ目は男子サッカー。元サッカー部を中心の陽キャで構成された二年五組が予選で三年生を撃破した。

 二つ目は男子バレー。バレー経験者五人を有する一年五組がまさかまさかの優勝候補の三年四組をジャイアントキリング。勢いづいた一年五組は現在も優勝を目指して決勝リーグを戦っている。

 三つ目は女子バスケ。学年の中でもトップの運動神経を誇る謡衣うたい恋歌れんか率いる二年二組が優勝候補である三年二組を決勝リーグで撃破。会場は大盛りあがりを見せていた。


 俺達はというと下剋上をされることも無く決勝の舞台まで辿り着いていた。

 ここまで俺がボールを当てた人数は13人。対して志文が当てた人数は11人。俺が一歩リードしている状態だ。勝負はしているものの、あくまで目的は優勝。ギスギスしていることは無い。むしろ…


「佳織さぁぁぁぁぁぁん♡」


(めっちゃ元気だなこいつ…)


 志文は佳織の応援に全力を尽くしていた。

 佳織が出場している女子バレーではうちのクラスは躓く事無く順調にトーナメントを勝ち進んでいた。なにせ、ウチには佳織率いる運動神経抜群集団が集っている。負ける要素は無い。


「おいお前ら!応援の声が小せぇぞ!もっと声出せ!」


「応援団長みたいになってるし…頑張れー」


「…!ふんっ!」


 浮いたボールを佳織が敵陣に叩き込む。ボールが変形して見えるほどの威力とスピード。彼女のフィジカルから放たれる弾丸とも形容できるボールは誰も目で追うことができなかった。


「「「…う、うわあああああああああ!?」」」


 刹那の静寂の跡に大歓声が上がる。現役のバレー部でさえも驚きを隠せないプレーに会場は大盛り上がり。悲鳴なのか歓声なのか、驚愕なのか歓喜なのか、入り混じった声援が大地を揺るがして湧き上がる。俺達も思わず声を上げて驚いていた。

 

「何だ今のボール!?柊さんって運動もできるのかよ…!」


「私でもあんなの打てないんだけど…佳織ちゃんすご」


「おっふ、これはまさに戦乙女…!」


「…流石柊道場の一人娘だな。他の奴とはものが違う」


 巻き起こる大歓声の中で試合終了のホイッスル。三年三組は無事に決勝戦へと駒を進めた。

 試合を終えた佳織が俺の元へと駆け寄ってくる。


「やったよ零くん!私勝った!」


「おう。見てたぞ。最後の一発は流石だったな」


「零くんの応援のおかげだよ!ありがとう!」


 佳織はにっこりと善意100%の笑顔を俺に向ける。真正面から感謝を受けるというのはいくつになっても嬉しくもあり、同時に照れくさいものだ。ましてや、柊佳織という美少女に満面の笑みを向けられては、俺も隠しようがなかった。


「あら、私の前で浮気とはいい度胸ね。私の事も褒めてくれてもいいのよ?」


「別にしてないっすよ…瑠璃さんもまぁ、よかったんじゃないですか?」


「まぁ、おざなりね。そんなところも含めて好きだけど」


 この人もいたのすっかり忘れてた…あんまり怒ってないみたいだから良いけど、この人の前では言動を気にかけたほうがいい。あくまで瑠璃さんは他の女にかまうことは許していない。勘違いはしないほうが良さそうだ。


「柊さん、ナイスプレーでした!めちゃくちゃかっこよかったです!」


「あ、うん。ありがと。寺田くんも頑張ってね!」


 佳織からの言葉に志文はデレデレの様子だった。顔に下心が丸出しだ。

 その後、佳織達は一度休憩のために教室経と戻った。俺達はというと次の試合のために待機する事になった。先程まで佳織の言葉で溶けていた志文が真剣な表情で俺の肩を叩く。


「なぁ氷織、決勝の話なんだが…次の三の四のメンバー見たか?」


 決勝の相手はなんの因果か三年四組。個人的にはあの一件から因縁のあるクラスとなっている。


「あぁ、見たぜ。…なんだかすごい奴がいるらしいな」


 詳しい名前は知らないが、優勝候補のクラスをことごとく破ってきたチームということで注目を集めているらしい。聞くところによれば、ものすごいガタイの良い選手がいるのだとか。


「これが三の四のメンバーリスト。こいつがその注目選手なんだが…」


「…鮫島さめじま柊太しゅうた…?」


 聞き覚えのある名前に俺は記憶の棚を漁る。そして引きずり出した記憶の中にいたのは憎き相手の顔だった。


「こいつ、本多の…!」

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彼女に浮気された翌日、女友達が急に色目使うようになってきた。〜復讐劇から始まる主人公争奪戦〜 餅餠 @mochimochi0824

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