第20話疑惑
通りすがりの生徒から謎の包を受け取った俺は教室へと戻ってきた。とりあえず預かったのはいいものの、中身の分からぬまま受け取ってしまった俺は中を覗く気にもなれず、机に置いたままじっと見つめていた。
…何が入っているのだろうか。気にはなるが、プライバシーというものがある。もしかしたら隠しておきたいものなのかもしれない。見るのはやはり良くない。うん。
「…」
自分に言い聞かせては見るものの、やはり気になる。好奇心が暴れて仕方ない。目の前の包を開けろと本能が訴えかけてきている。自然と俺の手は包に伸びていた。
丁寧な包装を少しずつ剥がしていく。そしてあと一枚となったところで突然教室の扉が開いた。
「おい、そこのお前!」
息を切らしながら入ってきたのは先程俺に包を押し付けてきた生徒だった。ずかずかと教室に入ってくると、俺の机にバンと手をついた。
「お前なんだろ!佳織さんの上履き盗んだの!」
「…は?」
冷水を浴びせられたような感覚に俺は思考を吹き飛ばされた気分だった。こいつは何を言っているのか?自分は今何を言われた?理解の追いつかないまま俺の脳は堂々巡りな思考を繰り返していく。
俺が固まっている隙に男を包みを開いた。そこから出てきたのは佳織の名が記された上履き。間違いなく彼女のものだった。
「こんなところに隠しやがって…!」
なんの騒ぎかとクラスメイトの視線が集まるのが分かった。突き刺さる懐疑の視線の中で俺の頭は動き始める。この包は目の前の坊主から貰ったもの。そして今こいつは俺が盗んだのだといちゃもんを付けてきた。つまり、この男は俺に罪をなすりつけようとしてきている…?
(このクソ坊主…!)
「ねぇ、あれってやっぱり佳織ちゃんのだよね?盗んだのって…」
「マジか…氷織くん、そんな事をする人だったなんて…」
男女問わず俺への信頼がだだ下がりしているのが分かる。聞こえてくる小言が何よりの証拠だ。
なんとか疑惑を晴らしたいところだが、先手を取られてしまっては後に何を言ってもただの言い訳にしかならない。ただの足掻きにしかならないのだ。この状況を打開するには俺一人では力不足。俺にできることなど…
「…零くん」
眉を潜めた佳織が俺の元へと近寄ってくる。運悪く本人に見られてしまうとはいよいよ逃げ場が無くなってきた。
「近寄っちゃダメですよ佳織さん!こいつは貴方の上履きを盗んだ変態だ!」
(どっちが変態だこの馬鹿。いいからお前は黙ってろ…!)
「…見つけてくれたんだよね」
「…えっ?」
「零くん、見つけてくれるって言ってたもんね!ほんとに見つけてきてくれたんだ!ありがとう!」
俺はその瞬間、これが佳織からのフォローだと言うことを察した。佳織は俺のことを信じて保守に走ってくれたのだ。俺はとりあえずこくこくと頷く。
「なっ、そ、そんなわけ無い!だって、こんな包にまでつつんで…」
「あら、なんの騒ぎかしら?」
タイミングを見計らったかの如くナイスタイミングで瑠璃さんが教室に現れる。彼女のことだからきっと本当にタイミングを図っていたのだろう。
瑠璃さんは俺と坊主の間に入ると佳織にアイコンタクトを送る。佳織は気付いた様子でこくりと小さく頷く。
「あぁ、ちゃんと届けてくれたのね零くん。柊さんの上履きだなんてきっとファンに狙われるだろうから丁寧に包んで貴方に預けて良かったわ」
少し丁寧過ぎる説明ではあったが、瑠璃さんの手厚いフォローが入る。クラスのトップ2がカバーしてくれたことから俺への疑惑は晴れたようだった。
予定が狂ったのか坊主の男はあたふたした様子を見せる。その場を去ろうとしたのか背中を向けたところで瑠璃さんの手が彼の肩を掴んだ。
「…ちょっといいかしら」
「い、いや、俺は…」
「いいから来なさい」
静かに燃える炎を瞳に宿した瑠璃さんは男を逃がそうとしなかった。続いて俺も彼の肩を掴む。流石に逃げ場は無いと判断したのか、男は観念したように溜め息をついた。
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