第8話落下

「はは、凛々子ちゃんそれでなんて言ったの?」


「んー?もうあんたとは付き合わないよって。あんな男と付き合ってた自分がマジ信じらんないわ〜」


 500mlのビール缶を片手に凛々子は声高らかに笑った。

 彼女の隣に座っているのは本多優。彼女の浮気相手__今は正式に彼氏である。浮気することへ対する抵抗感は彼女とはいえ少しはあったのだが、そんな壁など優という男の前では小さな壁だった。様々な欲に負けて今やあれよあれよと飲酒やら喫煙などに手を染めている。


 凛々子を引きずり込んだ優は享楽の限りを尽くしていた。元から様々な女を漁り尽くしていた彼は凛々子という女を手に入れられたことに満足していた。

 最初こそ彼氏持ちということで敬遠していたのだが、聞けばその彼氏に満足していないということで彼女を寝取ることを決めた。人のものだろうがなんだろうが関係ない。彼は自分が良ければそれでいい。独裁的な考え方の持ち主なのだ。


「凛々子ちゃん、今日は何時までOK?」


「今日は何時でもOK〜だ・か・ら、今日は久しぶりに思う存分やっちゃお?」


 凛々子の言葉を聞いた優はニヤリと笑う。彼と凛々子の体の相性は抜群。何十人と女を食ってきた彼のテクニックも相まって二人はすっかり行為に依存していた。

 二人は共にベッドに沈んでいく。不必要となった元彼の事など忘れて。


 スイートルームに響くベッドの軋む音。愚かにも二人は行為に夢中になる。撮られているとも知らずに。


▽▼


「ほい。データっす」


 エントランスの受付の扉の奥にある従業員のみが立ち入ることが出来る一室。6畳ほどの狭い部屋で取引は行われていた。

 部屋にいるのは一人の従業員と女子高生が一人。無機質なテーブルにはアタッシュケースが置かれていた。


「…お嬢、いつから盗撮が趣味になったんすか?俺が言うのもなんですけど、こんなことで弱み握るなんて結構趣味悪いっすよ」


「方法はどうあれ、こいつらには制裁を下さなければならないの。これは証拠として取り扱うわ」


 男は光ヶ原家とつながりのある者だった。権力的には下に置かれる人間だったため、光ヶ原家の者が顎で動かせる程度の身分だ。

 男が頼まれたのはとあるカップルの部屋の映像データの譲渡。臨時報酬も出るとのことで乗り気になった男は光ヶ原の一人娘に雇われていた。


「証拠って、どうするんすか?これやってたのお前らだろって突きつけるんスカ?」


「そんな事したら映像持ってる私が逆に怪しいでしょ。…そうね。サボっているラブホの受付が監視カメラを見たら未成年者が飲酒喫煙をしていた。好奇心からSNSに上げたものが拡散されて見つかってしまった、ということにしておきましょうかね」


「…それって最悪俺が捕まることになりそうなんすけど。俺まだムショには入りたくないっす」


「その分も兼ねてのそれよ」


 瑠璃は顎でアタッシュケースを刺した。中身は彼女のポケットマネーのほんの一部である。


「えぇ…だとしたらもうちょいくださいよ」


「贅沢言うんじゃないわよ。貰えるだけありがたいと思いなさい」


「お嬢のポケットマネーこんなもんなじゃないでしょ。あと10はください」


「いいから黙って働きなさい。口にパンツ詰めるわよ」


「それ人によってはご褒美っすよ。へいへい…」


「なにか動向があれば逐一連絡して頂戴。それじゃ」


 映像の入ったUSBを手にした瑠璃は部屋を去った。

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