第6話相談
風呂から上がった俺は髪を乾かすと、リビングへと向かった。
リビングには未だに半泣き状態の玲奈と少しだけ不服そうな瑠璃さんが距離を離してソファに座っていた。おそらく玲奈が離れて座ったのだろう。対して瑠璃さんは先程俺に混浴を拒否られたことに納得がいってない様子だ。
瑠璃さんは俺に間に座るように促してくる。それ以外に座る場所もないため、俺は大人しく瑠璃さんと玲奈の間に座った。座って早々に玲奈が引っ付いてくる。
「おにい!この人やっぱりおかしいよ!おにいの好きなもの答えたら50万積むって!」
「…瑠璃さん、あまり玲奈をビビらせないでください。気が弱いんで」
「お金に屈しないとは芯の強い妹さんね。…もう少し脅したほうがよかったかしら?」
そうじゃないだろうという言葉が出そうになったが、今更そんなツッコミする必要も無いだろうと俺は飲み込んだ。
体も温まったところで俺は一つ目の質問を投げかけることにした。
「…で、なんで俺の家にいるんですか?俺、瑠璃さんに教えてないですよね?」
「光ヶ原の情報網を舐めすぎよ。人一人の家ぐらい簡単に特定出来るわ」
「変なところに権力使わないでくださいよ。来るにしても、連絡してください。じゃないとこんなふうになっちゃうんですから」
俺は震える玲奈を指差した。俺を盾にして瑠璃さんから身を隠している。
「こいつの前でお金積むのもやめてください。ただでさえコミュ障で話すの苦手なのにお金の取引とかこいつには出来ないですから」
「素直に話してくれると思ったんだけどね。あまりそういうことに欲が無いのかしら?」
俺が指摘するも、瑠璃さんはするすると躱していく。反省の色はゼロだった。この人なんなんだ。
これ以上言っても無駄だと察した俺は二つ目の質問に移る。
「…で、なんの用ですか?」
「貴方のことが心配だったのよ」
俺の問いかけに瑠璃さんはあっさりと答えた。今日事情を話した人物の中でも瑠璃さんは特別俺のことを気にかけてくれている様子だった。…心配の仕方のベクトルが若干気になるところではあるが。
「あんなことがあった後だから大丈夫かと思ってきてみれば帰ってこないし、帰ってきたら来たでびしょ濡れだし。…気づいてないかもだけど、貴方結構酷い顔してたわよ?」
めったに聞かない瑠璃さんの心配そうな声色に俺は口を閉ざす。この人は面に似合わない破天荒な行動をするが、それも彼女なりの心配なのだろう。
「え…おにい、なにかあったの?」
「あぁ、いや…まぁ、色々あってな」
「おにい、無理しないで。昔からおにいは無理しすぎ。困ったことあったら、私も助ける」
玲奈は俺に訴えかけるように顔を近づけた。自分は根っからの根暗で出来ることは少ないくせに、無理してでも頑張ろうとする。無理するってところは似てるからやはり兄弟だ。
「おう。ありがとな」
俺は玲奈の頭に手を添え、毛流れにそって撫でる。玲奈は嬉しそうに微笑んだ。
「零くん、私には?」
「しないですから。冗談言わないでください」
「ケチな人ね。…まぁいいわ。お腹、空いてるでしょ?」
そう言うと、瑠璃さんはキッチンへ向かう。先程からいい匂いがすると思っていたら、どうやら彼女がカレーを作ってくれていたらしい。
瑠璃さんは皿に盛り付けたカレーを俺に差し出してくる。スパイスのいい香りが俺の食欲を掻き立てた。
「これは…」
「どうぞ。味は保証するわ」
俺はスプーンを手に取ると、ひとすくいして口に運ぶ。鼻を抜けるスパイスの香りとチキンの旨味がガツンと伝わってくる。俺の好きなチキンカレーだ。
「チキンカレーが好きっていうところまでは聞き出せたから作ってみたの。どう?」
「めっちゃうまいっす。…瑠璃さん料理出来るんですね」
「当たり前よ。光ヶ原の人間として、出来ないことはあってはいけないわ」
瑠璃さんの家柄の厳しさが相まみえたが、それ故か彼女の料理の腕は確かだった。本当に何でも出来るなこの人。同性からも人気な理由が分かる。
家では普段俺が料理をすることがほとんどだから誰かの料理を食べることなんて久しぶりのことだった。瑠璃さんの料理からは自分が作ったときには感じられないぬくもりが感じられて、少しだけ心が楽になった気がした。
「零くん、これはあくまで私の予想で、違ったら無視してもらって構わないのだけれど…本多くんからなにか言われた?」
半分ぐらいまで食べ進めたところで瑠璃さんが問いかけてきた。実に図星過ぎる内容に俺は首を縦に振った。彼女はエスパーかなにかなのだろうか?
「そう。…零くんは知ってるかどうか分からないけど、本多くんにはとある噂があるの」
「噂?」
「えぇ。彼は裏では女を食い漁っていて、飲酒やらなんやらにも手を染めているっていう噂。事実かどうかは分からないけれど、話の内容と零くんの話を聞くには嘘だとは思えないわ。彼は正真正銘のクズよ」
瑠璃さんの口から放たれた強い言葉に俺は押し黙る。彼女の凛とした声色には僅かな怒りの感情が滲み出ていたからだ。
続けて瑠璃さんは問いかけてくる。
「…どう?今のことを聞いて貴方は彼に復讐したいと思った?」
「…いや、残念ながら」
なぜ、という目線に俺は答える。
「まだ
俺の言葉に瑠璃さんはどこか満足した様子だった。
「そう。なら、私が今出来ることはここまでのようね」
「わざわざありがとうございます。…頼んでないけど」
瑠璃さんはにっこりと笑う。普段冷徹な彼女からは滅多に見られない貴重な笑顔だ。学園で見た人間は一人か二人だろう。そんな笑顔を独り占め出来たことに俺は嬉しくなっていた。
「ところでだけど零くん、寝床だけど…」
「帰ってください」
「か、帰れ!」
意地でも残ろうとする瑠璃さんを俺と玲奈は無理矢理追い出した。
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