第3話昼休み
時間は流れて昼休み。俺はとある場所へと向かっていた。階段を一つ飛ばしで上り、廊下は急ぎ足で。逸る気持ちに乗りながら俺は向かう。
少し息が乱れるぐらいのスピードで階段を登り終えた俺の前に現れたのは重厚な鉄扉。ドアノブをひねると軋んだ音を上げながら扉は開いた。
俺が向かっていたのは屋上。我が七星学園校舎の屋上は老朽化により本来ならば立ち入り禁止だ。だから一人になりたい時はここは丁度いい。
ヒビの目立つ屋上に残っているのは一つのベンチのみ。俺は持ってきた弁当を置くと腰を下ろした。
「ふぅ…やっぱ落ち着くなここは」
「他に人がいないからね」
「そうそう。誰も来ないから一人になりたい時にはここがさいt…!?!?」
自然な流れで会話に入り込んできた何者かの声に俺は肩を跳ねさせた。すぐさま扉の方に目を向けると、そこには瑠璃さんが立っていた。さり気なく壁に寄りかかった姿は絵になる美しさ。何気ない仕草にも華があるのが彼女のすごいところだ。
「る、瑠璃さん!?なんでここに…」
「昼休み早々に教室を出ていく零くんが見えたからよ。…あんなこと聞かされておいて放っておけるわけないでしょう?なんなら、もう一人いるわよ」
瑠璃さんは親指で自らの後ろを指す。扉の影からひょこっと顔を出したのは佳織だった。
「ついてきちゃった。お昼、一緒に食べよ?」
佳織と瑠璃さんはそれぞれ俺の隣に座った。昼休みは少しぼーっとしようと考えていたのだが、これは計算外だ。
一人になりたいからと言って追い払うわけにも行かず、俺は大人しく弁当を食べ始める。毎朝自分で作っている弁当だ。
「零くんって自分でお弁当作ってるんだよね?毎日大変じゃない?」
「んー、大変だけど妹の分のついでだから。二人暮らしだから俺が作らないと」
「零くんって妹さんいたのね。初耳」
お弁当を食べながら二人と談笑する。今の傷んだ心に染み込む何気ない会話は暖かく感じられた。
よくよく考えてみれば二人共学園で一位二位を争う美少女。そんな二人に挟まれて弁当を食べれるなんて他の生徒からしたら目から血が出るほど羨ましいの状況なのではないだろうか?傷ついていながらも俺は喜びを噛み締めた。
「妹ちゃんってどんな子なの?身長は?バストは?」
「そこまで分からないけど…強いて言えば根暗そうな奴」
「ふぅん。…後で色々聞き出せそうね」
「なんのつもりですか瑠璃さん…?」
「別にこっちの話よ。貴方が気にすることではないわ」
非常に気になる内容ではあったが、瑠璃さんは話してくれそうになかった。堅牢な彼女の守りを崩すことは容易ではない。
「…そう言えば、あの話は考えてくれたかしら?」
瑠璃さんの唐突な問いかけに俺は固まる。なんのことか分かっていない佳織は頭に疑問符を浮かべて固まっている。
端的に言うと、結論は出ていなかった。復讐が正しいとか正しく無いとか、そんなのはハリウッド俳優とかが考えればいいのだ。俺が考えて結論を出すべきことではない。だから俺は次の言葉を迷った。
「え、っと…」
「えぇ、迷う気持ちは分かるわ。でも安心して。私が全力でサポートするから。だから安心してウチに…」
「…ん?ちょっと待ってください、なんの話…?」
「ウチに婿入りする話だけど?」
…思ってた内容とは違った内容だったみたいだ。あまりのすっ飛んだ内容に佳織がつまんだ卵焼きを床に落としている。
基本的に誰にでも気丈に振る舞っている瑠璃さんは姫と称されることが多い。しかし、俺からすれば彼女はただの冗談好きな愉快犯である。彼女は俺に向かってしょっちゅう婿入りだの卒業後の生活だのところ構わずふっかけてくる。彼女の性格には困ったものだ。
「また冗談言ってるんですか…その話には乗りません」
「私は本気よ。どこの会社の息子かも知らない奴と結婚するよりはマシよ」
「なんかすごいのと比べられてるなぁ…」
「な、だ、ダメだよ瑠璃ちゃん!!!」
食いかかるような勢いで佳織が間に入る。俺の上に覆いかぶさる形で身を乗り出したせいで彼女の豊満な二つの果実が俺の顔に押し当てられた。柔らかで、ほんのり甘い香りが押し付けられ、俺の思考は阻害されていく。
「一体何がダメなのかしら柊さん?私は至って真面目に零くんに交際を申し込んでいるのだけれど?」
「何がって、零くんは浮気されたばっかりなんだよ?そんなすぐにまた他の誰かとなんて…」
「フリーになったんだからなにも問題は無いわ。あっちが誰かと付き合うならこっちだって新しく付き合ったって問題は無いでしょう?…早くしないと誰かに取られちゃうもの。貴方だって狙ってるんじゃないの?」
「いやっ、べつに私は…」
「そう。じゃあ私がもらうから」
「それはダメ!!」
「…あの、佳織。胸が…」
ヒートアップした口論を止めることも兼ねて佳織に声を掛けると、佳織はすぐさま俺の上から離れた。
離れた佳織は顔を熟した林檎のように真っ赤に染め上げており、羞恥心を垣間見させた。
「ご、ごめん零くん…」
「いや、謝るな。ある意味ラッキーだったから」
「ほら、おっぱいなんか当てちゃって。アピールしてるじゃない」
「う、うるさいなぁ…とにかく、今の零くんは傷心中なんだからそういうのはあとにして!」
「そうやって自分だけ抜け駆けしようとしてるのね。卑しいことしてくれるじゃない」
また始まった二人の口論は止まる気配はなかった。ゆっくりと過ごすつもりだったというのに、全く計算外である。
「…あの、二人共?心配してくれるのは嬉しいんだけど…」
「零くん、これは大事なことなの。少し我慢してて頂戴」
「零くんは渡さないから…!」
加熱していく二人の口論に耐えられなくなった俺はこっそりと屋上を抜け出した。
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