6

 ふと店内に吊るされた壁掛け時計を見る。時刻は二時を回ったところ。心なしかコーヒー屋の人の込みも減ってきたような気がする。


 さて。

 まだ日も高く、解散するには早いが今日のところはお開きにしよう。理由もないのに無為に時間を浪費するのは平日の放課後だけで十分なのだから。


「あ、そうです雉間さん!」


 店の時計を見ていた俺に、突然久良さんが言ってきた。


「この後ですが何か予定ってありますか?」


 この後?

 訊いてカバンを漁る。そして何かを取り出した。


「あの、こちら知り合いからいただいたのですが、お暇でしたら今から映画館に行きません?」


 手に持った二枚のチケット。なんとそれは今日、俺が観に行こうと思っていたホラー映画のものじゃないか。なんという数奇な巡り合わせ。


『うんうん、いいの。雉間はいつだって暇だから映画行こっ!』


「ね、姫ちゃんもそう言ってますし、いいですよね? それにこれ今女子高生の間でとっても人気なんですよ? 不幸にも主人公をかばって亡くなった婚約者が、幽霊になって主人公に憑りつくというラブロマンスもので……」


 あれ? ホラーじゃない?

 テレビCMの情報しか知らない俺はてっきりホラーだと思っていたが。


「ね、きっと雉間さんも気に入りますよ」


 さあ? それはどうだろう?

 ……なんて内心で毒づきはしたものの見たい気持ちに変わりない。

 なにせ俺は無残に死にたくないのだ。


 ま、そうと決まれば。

 俺は腰を上げる。


「……」


 そういえば、当初は何か久良さんと賭け染みたことをしていた気がするが……。




 ま、いいか。




 俺は伝票を取って席を立った。

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