五章 雉間探偵局の憑依霊

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 しとしとと降り止まない梅雨の雨は今週末まで続くと朝に見た天気予報で言っていた。俺はぼんやりと外の景色を眺めながら今週いっぱいの帰路について考えていた。


 考えなくていいことまで考えてしまう。

 雨の日にはいつも憂鬱にさせられる。


 放課後の探偵局。

 本来であればこの時間は無為に呆けたところで誰にも咎められない素晴らしい時間だが、今日ばかりはそうもいかない。


 俺は視線と意識を窓から室内に移した。


「初めまして。一年Dクラスの柚木です」


 そう言って頭を下げた柚木さんは驚くことなかれ、珍しくも依頼者なのだ。


 探偵局に依頼者が来れば姫乃さんはすこぶるご機嫌。先ほどから笑顔で歓迎している。


『で、で、で! 依頼って何かな? なんなのかな?』


 梅雨の雨にも負けない晴れた笑顔で言う久良さん。

「ようこそ柚木ちゃん! それで依頼とはなんでしょう?」


「はい。あの、依頼というのはクラスの友達のことなんですけど……。その子、最近様子がおかしいんです。なんだか元気がなくて……。だから私、ここに来たら何かわかると思って来たんです」


 ん?

 今、明らかに話が飛躍したぞ。


「えっと、すみません。ここに来たら何かわかるとは、柚木ちゃんは誰かから探偵局のお話を聞いたってことでしょうか?」


 久良さんの質問に柚木さんははっとして妙に口ごもった。


「あ、いや、ここに来たらわかるっていうのはですね、その……」


 一体何を口ごもるのかと思えば、やがてはやむを得ないとばかりに身を縮めた。


「あの……これから言うこと絶対に怒らないでくださいね。実は昨日、見ちゃったんです。 その子が昇降口前に貼られた雉間探偵局ここのポスターを破くところを……」


 あー、なるほど。

 どおりで探偵局の客足が悪いわけだ。


 ふと横を見れば姫乃さんがわなわなと震えているではないか。


『もーうっ! ちょっと何それ! 人がせっかく作ったポスターを破くなんて考えられないの! 雉間、あかり、早くその子を取っ捕まえるよ!』


 おお、なんたるやる気。これはさぞかしお怒りのようだ。

 とはいえ、にこにこと微笑む久良さんは知らないが実際問題俺も腹が立たないこともない。いくら俺が片手間に作ったとしても破くことはないはずだ。


 俺が眉をひそめる様子を見てか、柚木さんは慌てて弁護を唱え出した。


「あ、あのっ! でも友達はそんな悪い人じゃないんです。もしかしたら何かの間違いだったのかもしれませんし」


『間違いってどんな間違いなの!』

 そうだ。間違いで破くものか。


「それに友達、ちょっと家庭に色々あって」


『そんなことは理由にならないの!』

 まったくだ。こちとらとばっちりもいいとこだ。


 聞かされる話で次第に鼻白はなじろむ俺に代わり、終始冷静な久良さんが言う。


「で、つまるところ柚木ちゃんは、その子がどうして最近様子がおかしいのかを調査してほしいんですね?」


「……はい」

 申し訳なさそうに頷く。


「お願いできますか?」


 久良さんは俺越しに姫乃さんを見て、「ですって、雉間さん」と小さく笑った。


『ふん。とりあえずは仕方ないの。探偵局の目的は依頼者の依頼の解決が一番だからね。わたしはすっごく嫌だけど!』


 腕を組んで渋々承諾する姫乃さん。

 俺は頷き、それを肯定の返事として返した。


『じゃあ早速だけどあかり、尾行をするの。その子の名前は?』


「では柚木ちゃん。とりあえず雉間さんは尾行をするみたいなので、その子の名前を教えてくれませんか?」


「あ、えっと……。名前を言うんですか?」


 まるで言うのがはばかられるかのように間誤まごつく柚木さん。

 でもまあ、それも無理ないだろう。

 本人からすれば告げ口をしているようなものだから。


「あの、その尾行って絶対に気付かれませんよね?」


『うん。絶対なの』

「はい。もちろんです」


 ノータイムで答えるその自信、それは一体どこからなのか……?


 久良さんの言葉をどれほど信じたかは知らないが、やがて柚木さんは根負けしたかのよう呟いた。




 そっと、




「一年Dクラスの雨城紗うじょうすずちゃんです」

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