四章 新米にはまだ早い
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よく晴れた日曜日。
その日、俺は最寄り駅に来ていた。
家の近くのバス停からバスに乗って十分ほどで着く大きな駅。県庁所在地の名が付けられたその駅構内で俺は人を待っていた。
ことの成り行きを説明するならそうだ。それはつい一時間ほど前。俺が誰もいないはずの家で昼食を食べていると、突然何者かの声がしたのだ。
『雉間~、お昼ご飯食べたら駅前に行くよ~』
無論、それは神でもなければお告げでもなく、いうなれば姫乃さんであり宣言だった。
突然のわがままにいったいどういうことかと訊けば、今日の午後は前々から久良さんとどこぞショップに行く約束だったらしい。
正直な話、午後は映画館に行く気でいた。というのも、俺にはテレビCMで見る度にどうも気になる作品があったのだ。
それは主人公の男が間接的に殺した女の幽霊に憑りつかれるというホラーもの。
映画の中には見る人の
そんな理由から午後は映画館に行く気でいたが、別に行くのは今日でなくてもいい。それに極論、映画一本にそこまで期待もしていないし、なにより午後一番で久良さんの予定に穴を開けるのは申し訳ない。
以上のことから俺は今、待ち合わせ場所と聞いていた巨大なステンドグラス前に立っていた。
改札口から二十メートルもない距離に位置する、高さ五メートルはあるであろうステンドグラス。改札を下りた人が一番に目にすることもあってか、大きさだけでなくガラスの彩色にも気合が入っている。赤に青に黄に緑……。酔ってしまうほどに多彩な色合いで表現されているのは液晶画面を割ったかのようなクモの巣柄で、特別芸術眼を持ち合わせていない俺にはそれが何を表しているのかわからない。
これが美術部の京や博識な姫乃さんなら何か思うことの一つや二つはあるのかもしれないが、俺はそうもいかない。どう頑張ろうと無い
待ち合わせの時間まで何をするでもなくステンドグラスを見上げていれば、
「綺麗ですよね。フランスのシャルトル大聖堂みたいです」
おっと。
突然、後ろから声をかけられた。久良さんだ。
久良さんは白のフリル袖のシャツにスカートを身にまとった見るからにな私服。手には小ぶりなハンドバッグを持っている。
なるほど。フランスのシャルトル大聖堂という形容の仕方があったか。
久良さんは俺の顔を見て、いたずらっ子っぽく笑った。
「ふふふ、すみません。驚かせてしまいましたね。でもわたし正直意外でしたよ。だって雉間さんが真剣な顔でステンドグラスを見ているんですから。雉間さんってアートが好きなんですか?」
「まさか」
俺はわざとらしく鼻で笑う。
「見慣れない物を見ていただけ。そういうのは専門外ですよ」
「なるほど、見慣れない物ですか……。ふふふ、それならこれから行くスマイルくんのショップはかなり気に入りますね!」
さあ? それはどうだろう?
『あかり! 待ってたの!』
登場した久良さんに姫乃さんが駆け寄る。
「お二人とも早いんですね」
言いながら久良さんはちらりと姫乃さんに目をやった。周りを意識しているのか姫乃さんを直視したりはしない。横目でさもさり気なく言う。
「結構待ちましたか?」
『ううん。いいのいいのそんなことは! ね! それよりも早くスマイル君のショップに行こっ! ね!』
「はい、そうですね。では雉間さん、行きましょうか!」
久良さんは珍しく大手を振って歩き出した。
「今日で雉間さんもスマイル君の大ファンになっちゃいますね?」
さあ? それはどうだろう?
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