【問6】バイト代はいくらなの?
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【問6】バイト代はいくらなの?
次の日。
台風一過の青空とどこまでも澄んだ心霊島の海が桟橋に来たわたしたちを迎えてくれた。来たときは濃い霧でわからなかったけど心霊島の海はとても綺麗だ。
一面マリンブルーの海を見ては、「さあさあ結衣お姉さま、私のためにも早く水着に着替えてくださいませ」とご満悦でカメラを構える菘は、わたしの水着姿が見たいご様子。そういえばこの子はわたしの水着姿をアルバムにコレクションしているんだったわね。
わたしは「お願いします。この場だけでも」と、さも当然のように水着を勧めてくる菘に冷ややかな目を送る。
「……菘、わたしは泳いで帰るのかしら?」
罰の悪い顔で足元のヒトデをつっつき出す。
「ちぇっ、着てくれたっていいじゃないですか……」
ふてくされるな!
桟橋に泊まっているクルーザーは行きのときと同じ陽和観光グループのもの。二日前も見たけどやっぱり立派なクルーザーね。
わたしと菘は既にクルーザーに荷物を乗せ終え、今は他の人たちが荷物を乗せ終わるのを待っている。今、桟橋にいないのは研司さんと美和さんと雉間だけ。研司さんと美和さんは後から遅れて来るらしく、雉間に至っては忘れ物をしたとかで途中で屋敷に戻って行った。ろくな荷物なんてない癖に何を忘れたんだか……。
人知れずわたしが呆れていると声が聞こえてきた。
「雨城様も羽海様もまた来てくださいね」
見れば千花さんが遠い目で海を見つめていた。
どこか悲しげな彼女に、わたしは思わず訊いてしまった。
「あの、千花さんはまだここにいるつもりなの?」
その言葉に一瞬、千花さんは悲しいような、困ったような顔でわたしを見た。
そして多少なりとも真剣に訊いたわたしに千花さんは小さく答えた。
「はい……。でも、いいんです私は」
同情などいらないと言うように明るく微笑む。
「研司様も美和さんもとても優しい方です。それに、まだまだ私にはここで返さなければいけない恩がたくさんありますから」
「そう……」
千花さんの見え透いた強がりにわたしが呟くと、
「結衣お姉さま、あれ」
真横で菘が言ってきた。
菘が見ている先にはクルーザーから出て来るカリンさんと白石さん。
しかし、白石さんの表情は心なしかどこか暗い。
それを見た菘は颯爽とカリンさんのところに行き、
「少々白石さんをお借りします」
と告げて、わたしの前に白石さんを連れて来た。
一人にされたカリンさんはいじいじと足元のヒトデをつっついている。
白石さんをわたしの前に連れて来て、早速とばかりに核心を突く。
「やはり事務所に帰ったらカリンさんのマネージャーを辞めるおつもりなのですか。白石さんは本当にそれでいいのですか?」
真剣な目をして言う菘。
そんな菘に対して、白石さんは少しだけ目を逸らした。
「僕がいいかではないんです。カリンにとっていいかなんです」
静かに答える。
「僕はカリンのマネージャーに一ヶ月もなれました。それだけでもう十分なんです。ベテランのマネージャーならカリンを任せられますし。だから、これでいいんですよ」
明るく笑う白石さん。……けど、わたしにはその笑みが無理をしているようにしか見えなかった。
だから、
「あの白石さん、本当はカリンさん……」
そのとき。
「コウくーん! こっちにヒトデがいっぱいいるよーっ!」
声の方を見ると、カリンさんは桟橋から身を乗り出さんばかりの勢いで海面を
不機嫌なカリンさんの声。
「もーう、コウくんはマネージャーなんだから勝手に離れないでよね」
困ったように頭を掻く白石さん。
「……」
白石さん、本当にカリンさんのマネージャー辞めちゃうのかな。白石さんといるときがカリンさん一番幸せそうなのに……。
「あれでいいと思いますのに……」
わたしの思うことは菘が先に言ってしまった。
だからわたしには頷くことしかできなかった。
するとそこへ、荷物をクルーザーに乗せ終えた久良さんと広瀬さんがやって来た。
久良さんはいつもながらの仏頂面で腕を組み、
「これで荷物を乗せてない奴は雉間だけだが……で、その雉間はどうした?」
助手なんだから知っているだろうと尋ねてくる。
「忘れ物をしたみたいですぐに戻ると言っていました」
「む。そうか」
久良さんは最後まで久良さんらしい仏頂面で低く唸った。
わたしは浮蓮館までの道を振り返る。
「……」
思い返せばここに来たのは三日前。
そして雉間の助手も今日で終わり。
長いようで短かった三日間も、今日で最後。
まあ、何だかんだで雉間の助手も楽しかったし、良しとしようかな。
……で、わたしに入るバイト代っていくらかしら?
広瀬さんが腕時計を見る。
「それにしても雉間さん遅いですね」
クルーザーはとうに出港の時間。
まったく、雉間ったらどこで油を売っているのよ。
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