【問2~5 答】それが答えだよ

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【問2~5 答】それが答えだよ


 雉間の言う通りにわたしと菘は全員を食堂に集めた。


 久良さんは初めこそ眠気眼だったが、『英雄刀』が呉須都さんに盗まれたことを話すとすぐにその目付きを変えた。


 そして今や食堂で呉須都さんからの紙を見て、

「くそたわけ! 俺が寝ている間に盗られるなんて!」

 と悔いるように手の平に拳を打っている。


 その隣の広瀬さんと白石さんは、呉須都さんからの紙を見て「まさか、そんな……」と呉須都さんの再来に驚いていた。

 そしてそんな真面目な反応をする三人をよそに、カリンさんは一人横から白石さんにちょっかいをかけているのだから呑気なものよ。


「雉間、みんなを呼んだわよ」


「あー、うん。ありがと」


 わたしの言葉を皮切りに窓の外を見ていた雉間が全員の方を向く。


「……あの、これから何があるんだい?」


「ふふ。それは雉間様が推理をするんですよ」


 白石さんの疑問に千花さんが答えると辺りがざわつき出した。


「推理ってまさか!? この中に犯人がいるとでも言うのか?」


 思わずと言ったように久良さんに訊かれたが、わたしにだってわからない。仕方なく「さあ?」といった具合に首を傾げれば雉間が咳を払った。


「ゴホン。あー、うん。それじゃあ推理をするよ」


 みんなを見る。


「まずそうだね『英雄刀』のことから話すよ。もうみんな知っていると思うけど『英雄刀』が盗まれちゃってね。まあ、これで能都家の家宝がすべて盗られたわけだけど……。でも、実はあの『英雄刀』ってそもそも普通の刀じゃないんだ」


「普通の刀じゃない? 確かにあれは戦国時代の代物と聞いていますけど」


 思い出すかのように言った菘に雉間がハッキリと否定した。


「ううん。それが違うんだ。そうだよね、研司さん」


「……」


 雉間の問いかけに研司さんは何も答えなかった。……が、ただ心なしかその顔は引きつっているように見えた。


「雉間、どういうことよ?」


「あー、簡単に言うとあの『英雄刀』はね、戦国時代の刀じゃないんだよ」


「そっ! そんな……」


 絶句する千花さん。

 構わず続ける。


「だいたい、ぼくは英雄扱いされるほど人物で能都研之介なんて人聞いたことないよ。あー、一応訊くけど今みんなの中で能都研之介を知ってる人っているかな?」


 軽く手をあげる仕草をしてみんなに問いかけるも、誰一人として手を上げる者はいない。


「そう、能都研之介を知る人なんて誰もいない。だってそんな人、初めから。その証拠に、ぼくらが見た『英雄刀』には錆びも刃こぼれもなかった。普通戦国時代の刀があんなにも綺麗なはずはないよ。しかも鞘までね」


 鞘?


「研司さんが言ってたよね。『英雄刀』は英雄である能都研之介が腰にたずさえていくさに行っていたことから名付けられたって。でもさ、常識的に考えて腰に刀を付けていれば、鞘は甲冑とこすれて傷が付く。それなのにあの『英雄刀』の鞘には傷一つなかった……。これらのことからぼくはあれを戦国時代の物じゃないと考えたんだ」


 口振り穏やかに雉間は言い切った。


 そんな中、久良さんは視線を研司さんから雉間に動かして、不満そうにがしがしと頭を掻いた。そして溜め息交じりに言う。


「何が言いたいのかわからんな。それと刀が盗まれたことに何の関係がある」


「あー、まあ聞いてよ久良くん。それに盗まれた『英雄刀』なら、もうこの場にあるからさ」


 えっ!?


 わたしは素早く全員を見た。けど、誰一人として刀を身に付けているような人はいない。それを確認したわたしが言おうとしたことは、あいにく菘が優しく言った。


「そうですか? 刀なんて誰も持っていないように見えますが。それに『英雄刀』は呉須都さんが盗んだはずでしたよね?」


「いや、『英雄刀』を盗んだのは呉須都さんじゃないんだ。ね、そうだよね――」




 落ち着いた口調で、雉間が言う。




「――広瀬くん」




「……」


その言葉に広瀬さんは目を伏せた。

雉間が口調を変えることはない。


「久良くん、広瀬くんが着ている服調べてよ」


「あ、ああ」


 明らかに戸惑いながら、久良さんはボディチェックの要領ようりょうで広瀬さんが着るスーツの袖に手をあてがった。




 そのとき――。




 無抵抗の広瀬さんのスーツの左袖口から長さ二十センチほどの平たい金色の棒が床に落ちた。先端が微かに尖っているそれを久良さんが拾う。


「なんだこれは?」


「あー、それは金だよ」


「き、金だと!?」


 頷く。


「うん。『英雄刀』の正体は元素記号でいうところの『Au』の刀。つまりは金でできた刀だったんだ。今久良くんが持っているその金こそ『英雄刀』の正体だよ。……ね、そうでしょ研司さん?」


 雉間に見られて研司さんは渋々といった具合で頷いた。


 しかしそれに、不思議とカリンさんが問いかける。


「でもあたしたちが見た『英雄刀』は確かに鉄だったけど、それは何で?」


「あー、あれは鉄じゃなくてなまりだよ。鉛の剣の中に金を入れていたんだ」


「いや、しかし待て。それなら一体どうやってその鉛の中からこの金を取り出すんだ」


 手に持った金を見せるようした久良さんに、雉間は当たり前のように答えた。


「鉛をかすんだ。ガスバーナーでね」


「ガスバーナー……」


「うん、ガスバーナー。融点が高い金は鉛と違って熔けにくい。だからガスバーナーを使って表面の鉛だけを熔かすことくらいわけないんだ。確かガスバーナーなら食堂に調理用のがあったよね。ま、広瀬くんがやった証拠なら部屋の中にまだあるんじゃない。鞘や柄、それから熔かした鉛に関しては処分のしようがないしさ」


 そう雉間が言い終えると、それまで黙りこんでいた広瀬さんが小さく息を吐いた。


「はぁ……」


 数秒の沈黙。


 そうして、やがてすべてを認めきったかのように語り出した。


「そうです僕が……」




「皆様! 申し訳ございません!」




 突然、研司さんが頭を下げた。

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