6

「雉間さん、久良さんと一緒ではなかったのですか?」


 後ろで手を組み、食堂までの廊下を歩きながら菘が言った。

 外からはノイズのような雨音が聞こえてくる。


「あー、それなんだけどね。誘ったんだけど『寝てなくて眠いから』って断られちゃったよ」


 まあ、そりゃあ昨日まる一日徹夜じゃ眠いわよ。


「それで一人で大浴場に行くと白石くんが何だか難しそうな顔をしていたから話しかけたんだ」


「ふふ、そうだったのですね」


 のんびりと言った菘に雉間は、うん、と頷いた。


「で、千花さんはどうだったかな?」


「ああ、そうだったわね」


 わたしは千花さんの部屋でした、和やかな談笑の内容を雉間に話した。千花さんが浮蓮館にいる理由から、実はウカイ・ガハクのファンというところまですべて。途中、菘の父親がウカイ・ガハクなことも言おうかと思ったが、別に関係のないことなので伏せといた。その間も横の菘からは「結衣お姉さま、結衣お姉さま」と甘える声が聞こえてきたがそれは空耳。耳は貸さない。一通り話し終えると雉間は納得とばかりに頷いた。


「なるほどねー。千花さんはぼくに憧れていたんだね」


 嬉しそうに言っているけど、それでは大いに誤解が生じてしまう。訂正する。


「雉間じゃなくて探偵に憧れているの」


 おどけて肩をすくめる。


「あー、そうだったね」


 まったく、わたしの話ちゃんと聞いていたんでしょうね? と、そんなことを思いながらわたしが横目で睨んでいるとは露知らず、雉間は笑った。


「やっぱり研司さんって、良い人なんだね」


 わたしも同感だ。

 それに……、


「雉間。あの、ね……」


 わたしは言わなくてもいいことだとは思いつつも、つい口にしてしまった。


「わたし、千花さんの話を聞いて思ったんだけど、能都家に恨まれる人なんて誰もいないと思うの。昨日雉間が言ったみたいに、研司さんも美和さんも千花さんも、それにきっと研蔵さんだってみんな良い人だから。だから復讐する人自体いないんじゃないかって……」


 言っていてそれが馬鹿げていることくらい自分でもわかっている。現に能都家の家宝が盗まれている以上、わたしの考えは間違いでしかないのだから。


 ふと雉間を見ると、わたしのうわ言に露骨ろこつに驚いた顔をしていた。


 が、すぐにいつもの調子で、

「うん、そうだね。結衣ちゃんが見つけたんだ。それが答えなんだよ」

 と付き合うように言ってくれた。

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