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 食堂には豪華なオードブルが並んでいた。テーブルの料理はどれもお店で食べるくらいにとっても美味しい。

 そしてそんな料理たちを前にわたしは、「結衣お姉さまがあーんしてくれないなら私はもう一生何も食べませんわ!」と駄々をこねる菘に負けて、自分の昼食もそこそこにわがまま姫に餌付けをしている最中さなかよ。


 わたしがわがまま姫の相手に手一杯な中、食後のコーヒーを飲む研司さんがおもむろに口を開いた。


「ところで皆様、午後からの予定っておありでしょうか?」


 もともとわたしたちはここに呼ばれて集まった身。予定なんてあるはずがない。わたしたちは満場一致で首を横に振った。

 全員の返事が出揃うと研司さんは実に嬉しそうに微笑んだ。


「そうですか。それなら午後は皆様に能都家の家宝をお見せしたいと思います」


「ええっ!? 本当ですか!」


 勢い込んで言った広瀬さん。

 広瀬さんは目を輝かせて「嬉しいなあ」って言っているけど、特別鑑賞眼を持ち合わせていないわたしたちにとっては家宝なんてどうでもいい。ただみんな断る理由がないだけよ。


 すると、

「あ、あの……雉間様、食後にコーヒーはどうでしょう?」

 何やら隣では食事を終えた雉間に千花さんがコーヒーを勧めていた。


「あー、別にいいや。苦いの好きじゃないし」


「そ、そうですか」


 笑顔で言っているけど、心なしか千花さんの声は震えているようなそんな気がした。


「ゴホン。では、そうと決まれば」


 研司さんが視線を送る。


「千花さん。申し訳ないが午後は私と家宝を見るのを手伝ってください。それから美和さんは食事の後片付けをお願いします」


 研司さんの言いつけに千花さんと美和さんが頷いた。

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