第5節
合流地点へ向かう最中、騎士団の部隊に何度も遭遇し、その度に無力化して先に進む、を繰り返していた。先程まで気の抜けた会話の空気が嘘のように張り詰め、八津原と神坂は必死に剣と杖を振り回している。
「がんばってー」
「ちょっ!! なに他人事というか対岸の火事的なノリで応援だけしてんのさ!?」
「えー、だって本当に他人事だし対岸の火事だもん。私襲われる理由ないし」
「そうだったわねチクショウ!!」
【パラライズウェーブ】
殺傷能力のない波状の閃光が広がり、直撃した敵の動きを封じていく。広範囲に影響を与えられる術で、身体を痺れさせるという単純な効果だが、相手はつい最近まで共に戦ってきた仲間みたいな存在だ。なるべく傷つけたくない神坂にとって、最善の策と言える。
八津原も『隠密者』の称号の力で、『気配遮断』や物体の影に潜入するという術を駆使して隙を突き、敵を殺傷せず無力化していく。単に命を奪うという非情な選択ができないだけなのだが、それが許される程の実力差があるのも事実だった。
多勢に無勢という状況が全く意味を為さない。
「八津原くん!! そっち大丈夫っ!?」
「なんとかっ……!!」
背後から斬りつけようとする敵に対し、空中から剣を出現させて応戦する。
『隠密者』の称号によって得た力で、物体を別次元の空間に格納するスキル。本来は暗器に相当する武具を隠しておく為の力だが、神からの恩恵によって称号のスキルが大幅に強化され、数や重量などの制限がなくなり、あらゆる物品を格納できるようになった。加えて自身と、数人程度であれば別次元に影を媒介として潜伏、移動にも利用できる。
ならばと、八津原は様々な剣を格納し、状況に応じて攻撃や防御に利用している。殆どが王国騎士団の管理する量産された刀剣ばかりだが、『剣聖』を持つ彼が振るえばたとえ鈍であろうと巌を斬り裂く名刀として使用できる。
同時に十人の騎士を相手取り、振り被る剣全てを現出した武器によって弾き飛ばした。
仰け反って死に体となった騎士達の鳩尾へ、瞬時に拳を叩き込む。三人を同時に気絶させた直後、その内の一人が持っていた盾を奪い取って投擲する。直撃と跳弾を利用して二人を横転させ、その際にできた盾の影に潜り込んで移動し、膝蹴りと肘鉄を顔面へ叩き込む事で残りの五人を一蹴してみせた。
それを見て尚、剣を下ろさない騎士達が大勢いる中、別方向から閃光が走る。
【サンダーボルト×10】
イメージのみで術式の構築を行い、小規模の術を十倍に束ねた雷撃を敵へと浴びせる。威力ではなく直撃の範囲を広げるように調整し、青白い魔術の雷光を中空へ迸らせる。鎧を貫通して全身を撃ち抜かれた騎士達は
「神坂……」
「な、なによ!! やりすぎないように加減したよ! それに相手だって鎧に術式阻害かけてるんだから、これくらいならちょっと怪我するだけで済むし……」
「……いや、ごめん。確かにこれくらいしないと対処できねぇよな」
彼女の言葉通り、騎士達の鎧には物理的、
取り囲まれた状態で、八津原は剣を構え直す。
無力化できたのは全体の三割程度。視認できない範囲や、続々と近づいてくる足音から察知できる数も含めれば、無力化した戦力などすぐに補えるだろう。逸れてしまったミシェラや、学校の仲間達の安否も気がかりだが、そちらに意識を向けられる余裕がない。
(にしても、さっきからリアクションどころか、呻き声一つ上げねぇし……。一体どうしちゃったんだみんな……!!)
唐突にミシェラへの謀反の容疑がかけられ、状況も何一つ把握できないまま逃げ出した。共犯者として追われるのは仕方ないとして、ここまで冷静に、冷徹に自分達を襲撃できるものかと訝しんでしまう。
兜を弾いて顔が見えた者が何人かいたが、皆見知った人ばかりだった。今まで寝食を共にし、剣技の修練にも付き合ってくれた者もいる。訓練や模擬戦で剣戟を繰り返し、魔物討伐も共に乗り越えた者もいる。
その皆が、まるで人形のように正気のない目と表情で襲いかかってきた。明確な異常事態に、しかしその原因が分からないまま、振り下ろされる剣撃を避け続けるしかない。
どうにかして突破しなければ、そう考えていると、昏倒させた騎士の上で、呑気に寝そべる体勢で浮かぶローレンティアが話しかけてきた。
「大変だねぇ、色々と」
「手伝う気がないなら離れてろよ、巻き込まれるぞ!!」
「え、もしかして心配してくれてるの? うーん、嬉しくないわけじゃないけど、どうせならガイラくんに言ってもらいたかったなぁ」
「聞いてねぇし違ぇから!! 邪魔だって言ってんだよ!!」
大体、とここまでずっと抱いていた不満や疑念を、ここぞとばかりに吐き出していく。
「元の世界に帰すとかなんとか言って、勝手についてきて文句言うばっかで、神坂にウザ絡みするだけ。さっきの魔物とか、今の戦闘だって、手伝う気も助ける気もない言動ばっかだ。あんた一体何がしてぇんだよ!!」
「えー、だって私の仕事じゃな」
「仕事とかの話じゃねぇんだよ!! 俺達を助けに来てくれたのは素直に嬉しかったけど、なんで今なんだよ!! なんで今更なんだよ!!」
吐き出しながらも、息を吐く暇すらない筈の挟撃にも難なく対処し、両手で握る剣で弾きつつ、空間から飛ばす刀剣で後続の騎士達を叩き伏せていく。
「なのに、まだ回収する段階じゃないだとか、私は回収する立場じゃないから相方とかに相談しろとか!!」
「…………、」
「ダラダラと同行するだけで何もしないあんたに、今じゃ助けられたいって、微塵も思わないね……!!」
右手で持った剣の
さっと背後へ視線を向けると、やはりというか八津原の予想した通り、灰銀髪を靡かせる悪魔の娘は、冷めた視線を向けてきている。少し前に見た表情に近いが、今は恐怖を抱いたりしない。
全く脅威とも思わなくなったローレンティアへ、これ以上何を言っても無駄だろうと、視線を騎士達へ向け直した後だった。
「はぁ……。わかった。わかったわよ」
「……?」
「ホントのこと言うとね、私、あんたたちがし」
恐らく風と炎を組み合わせた魔術だろう。
密集する大樹を削り燃やしながら、巨大な爆炎の渦が背後にいる灰銀髪の少女目掛けて直進し、完全に飲み込んでしまった。
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