第3節
「一年以上前、私が
ですが、と当時のことを思い出して無意識に引き攣った笑みを浮かべてしまう。
「まさか……千人を超える数を召喚してしまうなんて思わなかったんです……!! 儀式を
「…………、」
「正直、皆様の前で平静を装えたか、今思うと自信がありません……」
そう、ただ一人を除いて。
「あの時視たステータスは、どれも歴戦の剣士や大魔術師と呼ぶに相応しいものばかりでした。神の
不都合、その三文字が脳内を支配してしまった。
命の恩人であり親友。王族の娘という
そんな彼女と彼女の同族を、故郷を、その全てを圧倒的暴力で
どうにかしなければ。その一点に思考を巡らせて、やがて一つの
「私の持つ『鑑定』は、今のところ私しか持っていません。加えて、この力に類似した、『
「仮に貴様が
赤肌の青年の言葉を肯定する意味で、金髪の令嬢は目を細めて満面の笑みを向けてきた。
彼女が王と、王国軍の中核である兄に進言したのは
『彼らは潜在能力こそ達人や賢者に値する者ばかりですが、今の身体ではその力を十全に
彼らが戦争とは無縁の社会構造の国家からやって来たことも都合が良かった。
召喚した理由、この世界の現状を伝えた
故に、国王である父や、王国騎士団の参謀という立場にいる兄へ、更にこう進言した。
騎士達や宮廷魔術師の元で
期間などは経過を見て判断するなど、議論の余地をあえて残しつつ、召喚した勇者達を魔族との戦闘から遠ざけるように事を運ぼうとした。彼女の『鑑定』は身内である王族は勿論、王城勤めのあらゆる人員、果ては国民や同盟国の人民にも一目置かれるものだった。その彼女からの助言とあらば、無下にする理由など皆無だ。
しかしそのままでは、魔族からの
アーシェラに、『異世界召喚の儀』の成功をあえて魔王に伝えるように頼んだのだ。
「アーシェラの
アーシェラ曰く、魔族にとっても魔物は厄介な
故に魔物の個体ごとの強さ、増殖の速度、討伐時の厄介さを嫌というほど理解している。
そのような存在を、まだ年端もいかない少年少女が、魔族の領土との国境付近で軽々と討伐してみせれば、魔王の娘の証言に説得力を持たせられると共に、人類側の戦力をある程度予測させることもできる。
狙い通り、魔王も馬鹿ではなかった。山脈に点在する魔王軍側の駐屯所にて、監視の任に就く兵によってあっさりと情報が伝わり、アーシェラの言葉の証左となった。
結果、千を超える勇者を相手に戦争を仕掛けるなど考えなかったようで、暫くは様子を見ると魔王は判断した、とアーシェラから伝えられた。
「今の転移者達が召喚されるまでは攻め込んでこなかったのか?」
「初代勇者様が考案、構築なされた『
互いに拮抗した戦略兵器を持っていれば、戦争の発生を未然に防ぐことができる。
先延ばしにしかならないとしても、対等な立場を築き上げる為に、抗争という状態が不利益を生むと思える状況を作る。
親友との交流を守るという、安直で浅ましい理由の為に。
「ですが、およそ二ヶ月前、魔王軍の将校の一人が、独断で攻め込んできたんです」
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