第4節
クレイテスラ王国――周囲を三つの小国、そしてその反対側では群青の海洋と隣接する、広大な国土を有する国家である。長年人類の同盟――先の三国に加え、同大陸の北方にある
同盟と言うが実態として、クレイテスラ王国が名目上の中心に据えられている。その理由は
儀式に不可欠な、魔力とは別種の、『
たった一人の魔族が持つ魔力の量と質、そしてそれにより繰り出される魔術の規模だけで言えば、人類側の魔術の
「この世界には、発動や制御を感覚のみに頼る異能の力を『
ところ変わって。
赤鬼の獄卒、二人の淑女と女傑という奇妙な一行の現状はというと、目的地へ向けて徒歩で森を抜けようとしている最中だった。
「女神アスレア様から賜りし秘術――『異世界召喚の儀』は大きく分けて二つの工程に分かれています。まず勇者様をこちらの世界へ召喚する工程を『勇者召喚の儀』と呼んていまして、前述した名称とほぼ同義として扱うことが多いのです」
「…………、」
「そしてその後に執り行われるのが『妙技継承の儀』。勇者の皆様から、故郷の世界には魔術などの力や概念が存在しないと伺っております。ですのでこの儀式によって、先程お話しした様々な力を扱えるようになっていただくのです」
「そうか…………」
自身の命を守ってくれた恩人が、一時的とはいえその後も護衛紛いの頼みも引き受けてくれたのだ。ミシェラの思いとして、本来ならば早急に城へと招待し、十分な謝礼を正式な場を設けて差し上げなければならないところを、状況がそれを許さずにいる。
その所為なのだろう。知りたい事があると言われ、恩人の頼みを僅かでも聞けるというのが思いの他嬉しく感じ、意気揚々と語り続けていた。
「しかもその力というのが別格なのです。至高神からの恩恵ということで、そのどれもが一線級の
「…………、」
「おい、聞いているのか貴様」
「聞いている。話の腰を折らぬように黙っていただけだ」
「貴様がこちらの事情や世界のことを聞きたいと申したのだぞ。謝礼の代わりとはいえ、せめてそのつまらなそうな表情をやめるくらいはしろ。姫様に失礼だろうが」
「いいんですよメイ。別に公の場で対談しているわけでもないんですし。気にしていませんわ」
「しかし……」
あまり納得していない様子でそう呟く。言われた当人は一切表情を崩さず、表さず、
ただ、こちらの世界の
「なんだか、勇者の皆様を召喚した時を思い出しますね。
「あー……。あの時は、本当に大変でした。勇者様方も何も理解していない様子でしたし。その所為でエノク様が更に激昂して……」
懐かしいとでも言いたげに語るミシェラだが、近衛の女傑はあまり想起したくないと訴えるような目で
クレイテスラ王家にはミシェラの上に、兄である二人の王子がいる。
反面もう一人の兄、第二王子のエノクは、十六歳のミシェラと歳も近く、
そういった方々を目前にして、相応の作法をするべきではあるのだが、現代日本在住の高校生達にそれを求めるのは酷であった。王侯貴族に相当する人間に会った経験などなく、それ故に態度も言葉遣いも、礼儀作法もへったくれもない有様だった。
結果として、エノクから怒号と
ミシェラやメイも、後から勇者達の素性を聞いて仕方がなかったと理解はしたものの、それでもあの場の空気を少しは察してほしかったと思わずにはいられなかった。
そんな二人の苦い思い出話を聞いていた有角の青年が、一つ大きな溜め息を吐く。
「おい、先を急ぐのだろう? このような場所で油を売ってよいのか?」
「誰のせいだと!!」
「感情を表に出すのが不得手なのだ。不服だというのならば、
「そういう問題では、ってやはり姫様のこと舐めてるだろう貴様!!」
「まぁまぁ、落ち着いてください、メイ。確かにここで余計な時間を費やすのはよくないですから」
「そうだぞ。今のやり取りで話も道も先に進めておらぬのだ。貴様こそ空気を察する能力を磨くべきではないのか?」
「〜〜〜〜っ、ぐぅっ!!!!」
ギリギリと
「それで、どこまでご説明しましたでしょうか。えっと……」
「『妙技継承の儀』とやらで、我らの世界の住人が、こちらの世界の力を扱えるようになった、のところだ」
「そう、そうなんです。その上、常人では決して到達できないような力を授けられて」
「ええ。本来称号も
「……そうだな。当然、だろうな」
えっ、とつい言葉を漏らす。別に
ただ、自分達が話した事柄に対して、まるで
「魂の余剰領域が違うのだ。貴様らと違って、この世界の
自身の知識にはない単語が出てきて、ミシェラもメイもかけられた言葉に素直な疑問を口にする。
「あの、魂の、
「待て」
無機質な雰囲気で先頭を行く蓋羅だったが、突如左腕で二人の
気配の
「……流石だな。魔物の気配は分かりやすいとはいえ、この距離で気づくとは」
「死者も生者も同様に相手取ることが多いのでな。しかし、何なのだこの妙な気配は……」
「妙?」
ああ、と一層眉間の彫りを深くして続きを口にする。
「生と死が混在している。
何事かと
唸りながら牙を見せつける狼、あるいは大きな腕を振り回す
更には、
「貴様らが、おーが、と呼んでいたのはあれか?」
「ああ。あれも含めて、目の前にいる黒い怪物ども全て、
全部で5体。額に炭のような黒い一本の角を生やす巨人が、群れの後方から地面を揺らしながら現れる。
出没の頻度も時間も規則性がない、災害ともいうべき存在が
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