第25話

 テストも終わり、ついに席替えの日となった。後ろの小林ともお別れか……と寂しく思っていると、小林が登校してきた。


 シンプルだったリュックにはなぜか大量のお守りがつけられていて、全身から神々しさを感じる。よく見ると、靴下が右は紫、左は緑と奇抜な色をしている。当然校則違反だ。


「小林、校則違反だよ」


 俺が指摘すると小林は気にせずに頷く。


「ん。これはラッキーアイテムが局で違ったから両方取り込んでみた」


「占いガチ勢!?」


「席替えで良い結果を得るためだから」


「あー……」


 お守りもそれが理由でたくさんつけているのか。


「ちなみに朝ごはんはオムレツとスクランブルエッグとフレンチトースト」


「それもラッキーアイテム?」


「ん。ラッキー朝食」


「ガチだ……」


 そんなに卵ばかり出てくるなんて卵業界の陰謀じゃないか? とすら思ってしまう。


「一応星座占いは全部メモってきてる。BS含め」


「BSも!?」


「ん。平均は6位」


「実に平均だね!?」


 この収束具合なら、見る番組によっては1位も12位もあり得るんじゃないだろうか。


「ま……やれることはやったから」


「けど……神様は喧嘩するっていうよね。そんなにお守りつけてて大丈夫なの?」


「毒を食らわば皿まで、だから。神様を御せないような人じゃ席替えで勝ちはもぎ取れないよ」


「すごい覚悟だ……」


 席替えで勝つために神すらも自分の下に着けるという覚悟らしい。そういえば……一人この世界の神に愛されている人がいるんだった。


 この世界のメインヒロインである理栗。絡みは少ないけれど、理栗ルートに乗っていることは確実。ここで何かしらのイベントが起こる可能性は十分にある。


「ちなみに小林はどういう席がいいの?」


 小林は俺の質問に答えるつもりはないらしく、口の前で人差し指をクロスさせてバツ印を作った。


「や、言ったら叶わないかもしれないから。秘密」


「そっか」


「席替えした後に高橋のところまで教えに行ってあげるよ」


「その言い方からすると俺とは離れてるんだ!?」


「ふふっ……どうかな?」


 小林はにっと笑って俺に前を向けと指示をしてきた。いつの間にか先生がきていて席替えの準備を始めていた。


 ◆


 席のくじ引きは教室の前方端から。つまり、俺からだった。


 前に出てくじを引くと、窓際の席の真ん中を引き当てた。当然まだ周辺の席に空きはあるので小林が来てくれたら、なんて思ってしまう。


 俺と入れ違いに小林がくじを引く。すると、先生は俺の前の席に『小林』と書いた。


 小林は満足気に微笑みながら席に戻ってきて、椅子に座るとすぐに靴下を左右で同じ白に履き替えだした。


「クリスマスと年末の境目くらいあっさりしてるね……」


「お昼さ、親子丼から卵抜いてもらおうかな」


「卵も!?」


「や、まぁ結果は出たわけで。もう開運に頼る必要はないからさ」


「結果はどうだったの?」


「ん。神様がケンカしちゃってたみたい。残念残念」


 小林は言葉とは裏腹にニコニコしながら席替えの行く末を見守っている。


「まだ四人くらいしか結果は出てないけどね……」


「や、ま……そういうことですよ」


 二人でしばらく席替えの様子を見ていると理栗の順番が回ってきた。


 理栗がくじを引き、先生が俺の隣に六波羅と名前を書いた。俺が主人公ポジションなんだとしたら相変わらずのとんでもないメインヒロイン力だ。


 前が小林で隣が理栗。よく考えたら、小林の位置も、俺の目線を主人公目線とするなら頭だけ映るこむ絶妙なモブポジションではある。


 数々の開運グッズも結局はモブキャラ力だったんだろうか。


 何にせよ、小林とまた前後で並んで過ごせることに安堵しながら席を移動した。


 ◆


 休み時間になると、小林は即座に俺の方を向いてきた。


「ん?」


「や、何もないけど」


「そっか」


 小林はすぐに前を向く。だがすぐにまた振り向いてきた。


「ん?」


「や、何もない」


「そっか……」


 今度は小林は前を向かずに俺の方をじっと見てくる。


「なんか……いつもは高橋が私の方を向いて話しかけてくれてたじゃん? 慣れないね、こっち側」


「こっちは楽だよ。待ってればいいから」


「むぅ……さっきまでは私がそっちの立場だったのに。高橋もこんな感じだったのか……」


「こんな感じ?」


「や……なんというか、どんな顔してるかな? とか話しかけたらどんな反応するかな? とか考えちゃってたんだろうなって考えちゃってた」


 小林は微笑みながらそう言う。俺はそこまでは考えてなかったのだが、小林の思考が妙に恋する乙女っぽくて――ん!?


「あ……そ、そうなんだ……」


「ん。そういうこと」


 小林は用件が済むとすぐに前を向いてしまう。後ろから小林の後頭部を見るのは妙に物悲しい。一人で前を向いて何を考えているんだろう、なんて考えしまう。


 そんな折に隣から視線を感じた。顔を横に向けると、理栗が机で頬杖をついてニヤニヤしながら俺の方を見ていた。


「な……何?」


「ううん。なんかさ、席替えのベストポジションを考えてたんだ。好きな人がいる時にどういう位置関係がいいんだろうって」


「やっぱり隣じゃないの?」


「私もそう思ってた! けどね、隣って案外視界に入らないんだなーって分かっちゃった。前の席って最強じゃない? 授業中もずっと視界にいられるんだから」


「授業中は黒板にフォーカスが当たってるからなぁ……」


「ま、それでもいいんだよ。背景に溶け込めるから。んー……じゃあ隣の席の特権ってなんだろうね」


「なんだろ……机をくっつけられるとか?」


「おっ! それいいね。私、明日から忘れ物が多くなるかも。よろしくね」


 理栗は笑顔でウィンクをしてそう言う。なんとなく、理栗は明日から手ぶらで来る気がした。


 俺は「夜、カバンを確認してから寝ようね……」と言うに留めるのだった。


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