第19話

 大型連休に突入。初日からダラダラと家で過ごしていると小林から連絡が来た。


『高橋、高校生の半数は余暇を友達と遊んで過ごすらしい』


 回りくどい誘い方!


『so what?』


『私達は平均的な人間だから平均的な過ごし方をすべきと愚考する』


『友達いるの?』


『You! F◯ck!』


『口が悪すぎる……』


『じゃ、12時過ぎくらいに駅前集合ね』


『了解』


 これは……デートのお誘いなのか!?


 ◆


 約束の時間ピッタリに駅前に到着。建物を支える柱の前で小林がスマホを持ってキョロキョロと辺りを見渡しながら立っていた。


 デニムのズボンに黒いパーカーとかなり地味な格好ではあるけれど、なんだかんだで元が可愛いためそれでも様になっている。


「デジタルサイネージが隠れてるよ」


 近づいて俺が声を掛けると小林がいつもの気怠そうな目つきで「やっほ」と手を小さく振った。


 そのまま小林は背後を振り返り、自分が隠していた広告を見る。折しも、広告では水着姿のセクシーな美女が強そうな顔で俺たちの方を見ていた。


 小林はじっとその広告を見て「ギリ燃やせそう」と呟く。


「誰目線!?」


「や、SNSでさ。あるじゃん?」


 小林は多くを語らずに肩を竦める。そのニュアンスで色々と察するものがあるので俺も苦笑いで受け流す。


「で、高橋。今日は何する?」


「ノープラン!?」


「ん。ノープラン」


 小林はにっと笑って頷いた。


「まぁ……一応デートスポット的なやつは調べて――何?」


 俺が下調べした結果を共有しようとしたのだが、急に小林の顔がこわばり始める。


「でっ……でーと……」


「小林? 大丈夫?」


「あっ……うっ……た、たかひゃし!」


 小林が顔を赤くしながら俺の名前を呼ぶも噛んでしまった。


「こびゃやし、どうしたの?」


「その『デ』の単語は封印しよ」


「で? デートスポットのこと?」


「それ! 言い切るとちょっと恥ずかしい……『デー』にしとこ」


「じゃあ……デースポットか」


「や、それも危ないね。アルファベットが少しズレたら下ネタだよ」


 いつもの飄々とした態度で小林がニヤリと笑う。


 小林は目に見えない何かを指さして3つ分移動させる。Dの次の次の次はG……Gスポット……いつの間にか下ネタに誘導されてたのか!?


「小林、どこからこの話題に持っていこうとしてた?」


「デートスポットを調べて〜のところからかな」


 小林はニヤッと笑って照れ隠しにポリポリと頭をかく。


「ずっと小林の手のひらの上だったんだ……」


「や、まぁ楽しみにしてきたのは嘘じゃないから。『デ』をね」


「『デ』ね」


「ん。『デ』だよ」


「で、どこ行こっか」


「その『で』は――」


 小林がもう1サイクル面倒なやりとりを続けようとしたのでさすがに遮る。普段よりテンション高めのようだが方向が独特すぎる。


「はいはい! あ……なんだろ。イベントでもやってるのかな」


 背後のデジタルサイネージには『スプリングフェスティバル』と題された近くで開催されているイベントの広告が流れていた。


 小林と2人で詳細を見始めた瞬間に広告が切り替わり、さっきの水着美女の写真が映し出される。


「……ね、高橋」


 小林がじっと水着美女を眺めながら俺の名前を呼んだ。


「何?」


「今の『デ』のやり取りがなければ1回で詳細を見れてたね」


「その前のGスポットもだよ」


「どっちも不要?」


 小林が微笑みながら俺の方を見上げて尋ねてくる。


「どっちも必要」


 小林はまた水着美女に視線を戻す。おおよそ水着美女に向けるべきではない、純粋に嬉しそうな笑顔を横から眺めて広告の切り替わりを待った。


 ◆


 イベントの会場はすぐ近くにある広場だった。それなりの大きさの特設ステージが立てられ、出店やフードトラックが会場の外周沿いにズラリと並んでいる。


「や、すごい人だね」


「本当に……座れるかな」


「ん。そこ空いてる」


 小林が指差した先は10人がけのテーブル。8人グループが使っているため、端の2つが空いていた。


「小林、先に座っててよ。何か買ってくる」


「や、私が行くよ。『デ』に誘ったのは私だし」


「いやいや、ここは俺が」


「や、私が」


 お互いに譲らずにいると、スッとその席に別の人が座ってしまった。


 2人で「あぁ……」とため息をついて次の席を探す。


 またも小林が、グループで使っていて端の空いたテーブルを見つけて「ん。あそこ」と指さす。


 二人で駆け足でテーブルの端に向かい合う形で座り一息つく。


「や、最初からこうしてれば良かった……そうすればあんなことにはならなかったのに……」


 小林がわざとらしい演技っぽい口調でそう言う。


「そんな大袈裟な――」


「あれ? 晃平と小林ちゃん? やっほ〜!」


 隣のグループから声をかけられる。よく見ると、俺達の座ったテーブルを使っていたのは理栗とサブヒロイン達。


「なっ……り、理栗!? ……と一ノ瀬さんと二宮さんと三野さん!?」


 理栗だけ特別しているわけではないと示すため、一応全員の名前を呼んでおく。


 そこで気づいたのは、ここが原作にも登場していたイベント会場だということ。本来ならこの4人と一緒にいるのが十文字なのだが、今このテーブルにいる男子は俺だけ。


 本来、俺と小林は背景モブとしてこのテーブルにつく事になる予定だったんだろう。とはいえ、気づかれている時点でストーリーは破綻しているのだけど。


 結局は座る位置次第なのかもしれない。理栗と中心に座って理栗を視界に収めるか、小林と一緒に隅に座って小林を視界の中心に置くかの違い。誰を主役に置くか、カメラワークの違い一つとも言える。


「奇遇だねぇ。晃平、連絡したのに無視するからさぁ」


「え? 連絡?」


「うん。1時間くらい前に」


 慌ててスマートフォンを見ると確かに理栗から連絡が来ていた。普通に見落としていたらしい。


「あー……ごめん。見てなかった」


「そっか。デート中にスマートフォンを見ないって良いことだよね」


 理栗はまったく気にしていない様子で穏やかに微笑みながらそう言う。


「や、理栗。これはデートじゃなくて『デ』」


「デ?」


 理栗が首を傾げながら尋ねる。


「ん。『デ』」


「デ、なんだぁ……」


 理栗は多分意味が分かっていないのだろうけど、苦笑いをして頷いた。小林ワールドについていける人は誰もいないのは当然のこと。


「あ、二人共今から食べ物見に行く感じ? 席見てるから二人で行っておいでよ」


 理栗が優しく微笑みながらそんな提案をしてきた。


「や、悪いね。高橋、いこ」


 小林はにっと笑って立ち上がり、俺を手招きして誘う。


 りんご飴の屋台の前で小林は立ち止まり、じっと商品を眺める。


「うーん……どうしようかな」


「りんご飴?」


「や、理栗に勘違いされたんじゃない?」


「俺は別にされてもいいけどなぁ……」


「うおっ。主人公っぽいじゃん」


 小林は驚いた様子で顔をパタパタと仰ぎながらりんご飴に負けないくらいに顔を赤くして言った。


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