第3話
オリエンテーションを終え、部屋に移動。
5人で一部屋の部屋には十文字や池目もいた。モブキャラ高橋、案外色んなところで陰ながら出演していたらしい。
「なぁ皆。女子の推しってできたか?」
池目がチャラそうな見た目そのままの話題を俺達に放り込んできた。
俺の推しは当然小林。だが、モブから発言するなんて以ての外だ。
「俺は小林ちゃんかな」
本来の主人公の池目が人に聞いておいて自分から――ん!? 小林!? コバヤシィ!?
「あー、分かるわ。今日のオリエンテーションで最後に発表してて意外と可愛いなって思ったんだよな」
十文字も池目に乗っかる。
オリエンテーションのじゃんけん列車で見事に最後まで勝ち残った小林は全員の前で少しだけ自己紹介や勝ち続けるためのコツを話していた。
主人公になりたくないと言っていた彼女が注目を浴びるのはそれなりにストレスだったらしく、照れながら伏し目がちに話している姿に胸を撃ち抜かれてしまったらしち。
原作では小林が優勝しないので当然、こんな会話は原作にはない。
「高田はどうだ?」
池目が俺に尋ねてくる。高橋なんだけどなぁと思いつつもモブなんて名前はきちんと認識されないものだろう。
そして、小林の逆張り精神が移ったのか、主人公ポジションの2人に同調するのはなんだか違う気がした。
「お、俺は六波羅さんかなぁ……あはは……王道だよねぇ……」
男子が全員「あー」と頷く。学年を代表する美少女といえば六波羅、というのは共通認識としてあるようだ。
「やっぱり六波羅さんも可愛いよなぁ……そうだ! 今から皆で話しに行かないか?」
池目が主人公らしい提案をする。だが、原作では出ていった後に残っているとヒロイン達が部屋を訪ねてくる。
つまり、行くと会えないし行かなければ会える。原作では十文字は行かない選択をしたのだが――
「行こうかな。小林さんと話してみたいし。高橋も行かないか? 六波羅さんが言ってたけど同じ部屋だぞ」
それは知ってるのだけど、行かない方が会えるんだ。
「い、行かない方がいいんじゃ……先生にも女子のフロアに入るなって言われてたし……」
「毎年使われてる抜け道があるんだよ。俺は行くぞー」
池目がそう言うと全員が「俺も!」と言い出す。手を挙げた中には十文字もいた。こいつもノリノリなのかよ!? 小林のじゃんけん列車でここまでストーリーが狂うのか!?
「じゅっ、十文字君はここで待たない?」
「俺も行くけど……」
十文字は怪訝な目で俺を見てくる。別に十文字と残りたいわけじゃないんだが!?
「そ、そっか……じゃあ俺はここで待ってるよ」
別に六波羅さんと絡みたいわけじゃない。小林もセットで動くはずだからここで待つのが最適解なだけだ。
俺が一人で座っていると、ゾロゾロと男子達が部屋を出ていく。
ものの5分もしないうちに部屋の呼び鈴が鳴らされた。
部屋の扉の前に行き、ガチャリと扉を開けると、そこに立っていたのは六波羅さんを先頭にしたヒロイン達。
小林は相変わらずで、後ろにひっそりと立っている。
「あ、高橋君だ。あれれ? 他の皆は?」
部屋の人気の無さを察した六波羅が尋ねてくる。
「六波羅さんに会いに行っちゃったんだよね……」
「あはは。じゃ、すれ違いだ。ねぇ高橋君」
「な……何?」
「トランプ、持ってる?」
「トランプ?」
「うん。家から持ってきたらジョーカーが入ってなくてさ。ババ抜きも七並べも出来ないんだ」
徐々に細部を思い出してきた。六波羅さんたちが男子部屋にやってきたのは別に男子と積極的に交流を図りたいわけじゃない。
サブヒロインの一人が持ってきたトランプにジョーカーがなくババ抜きができない。だからジョーカーを貸して欲しい、という理由で来るんだった。
どうにかして原作通りに戻さないと……俺がかけるべき言葉は――
「……ジジ抜きでいいんじゃない? それか『ぶたの尻尾』」
女子たちが一斉に「天才じゃん」と言う。その光景を見て小林が後ろ側で腹を抱えて笑いをこらえているのが見えた。
「じゃ……ジョーカーは無くてもいっか。あ、高橋君も一緒にやる? ジジ抜き」
「あー……ど、どうしようかな……」
小林の方をチラッと見る。小林はにっと笑って俺を手招きしてきた。
「じゃ、じゃあ行こうかな……」
「うんうん! 是非!」
六波羅はメインヒロインに違わぬ眩しい笑顔で頷き、俺を部屋から連れ出したのだった。
◆
男子達とはすれ違うことなく、六波羅達の女子部屋に移動。
女子部屋も5人で、六波羅や小林の他にもサブヒロインの一ノ
結果的にメインヒロインとサブヒロインに囲まれながらトランプで遊ぶことになってしまい、俺が主人公ポジションになっている。
「私、ジジ抜き好きなんだよね」
既に一ノ瀬、二宮、三野がアガリを迎えたジジ抜きの途中で小林が呟く。女子達の空間なので俺は控えめにしていると六波羅が「なんで?」と笑顔で尋ねた。
「主人公がいないじゃん、ジジ抜きって。ババ抜きの主人公はジョーカーでしょ? それが毎回変わるからいいなって」
「そもそもジョーカーって主人公なんだ」と六波羅が微笑む。
「や、ジョーカーは主人公だよ。嫌われ者の主人公。今回の主人公は誰かな?」
「うーん……1か、2か、3か、6か、キング?」
手札をいっぱい持っている六波羅が首を傾げながらそう言う。
「じゃ、キングは私だね」
小林がニヤリと笑う。名前と数字を対応付けたと分かったのは俺だけだったらしく、ふっと笑うと小林と目が合った。
「なんか通じ合ってる感じだしてるー!」
六波羅が頬を膨らませて俺の手札から2を抜き取っていく。ジジ抜きを続けていると、小林もあがり、六波羅と俺だけが残った。
俺の手札には6がある。六波羅が2枚を持っているので、6とジジの何かなんだろう。
「2択だよ、高橋。右のほうがいいかも」
小林が六波羅の背後から手札を覗き込んでそう言った。
「ちょ!? 言わないでよ!?」
「や、もう二択だし」
「むぅ……小林君! キングはこっちだよぉ」
六波羅がやけに左を意識させるように揺らす。六波羅の目を見るとニヤリと笑った。
俺は迷わずに右を取る。その絵柄はキング。つまりジジだ。
「小林!? 嘘ついた!?」
「主人公はキング。私はなりたくないんだけど……こればっかりは仕方ないね」
小林はニコニコしながらそう言い、今度は俺の背中に回り込んできて六波羅の撹乱を始める。
結局キングは俺と六波羅の間を10回も往復し、主人公である
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