第11話 〆は麺よりお茶漬けで②
まったく、なんつー顔をしてるんだ三栖のやつ。人間ってこんなつまらなさそうな顔できるんだな。
足を組んでツーンとお酒を飲む姿は、会社での彼女そのもので思わず笑ってしまう。
ただ声をかけるにはあまりにもテーブルが離れすぎている。というか、なんで俺がこの飲み会に参加しているんだ。
課長から大型案件への参加を告げられた時、思わず崩れ落ちてしまった。優しい課長の顔がさらに優しくなったんだよな、あの時。
というかどう考えても三栖の面倒見るためじゃねぇか。確かに仕事はできる彼女も、こと対人関係となると人並み以下になってしまうのだ。
まぁ散々御託を並べは来たが、長期戦になるこの案件、彼女が潰れてしまわないようにガス抜きしなければ。
幹事の前田さんが閉会の挨拶をする。
ざわざわと耳を通り過ぎる帰り支度の音をBGMに、視線は奥のテーブルへ。
やはり何人かに話しかけられている。あいつ、顔はいいからな顔は。
そろそろ俺も声をかけるかと出口へ向かったところで、彼女がふらつく。
「っと、なにしてんだ。酔ったか?」
思わず腕を掴んでしまったが、どうやらお咎めは無さそう。強いて言うなら周りの視線だろうか。
先程ツンツン対応を食らった、彼女と同じテーブルの何某君は反応を見ているみたいだが。
「助かったわ」
ぽしょぽしょと小さな声で呟く彼女。あれ、会社モードじゃないのか。
「お前こんなので酔わないだろ、普段」
三栖に合わせて小さな声で話しかける。何だか彼女の表情が固くなった気がするが気にしない。
周りの目が痛いから早く手を離したいんだが、こいつ……体重をこっちに預けてきてやがる。想像以上の軽さに驚くと共に、いつもより近い距離にドギマギする。顔はいいんだ顔は。
「ちょっと身体の力が抜けただけだから」
そう言った彼女の頬は赤く染まっていて。
まるで……いや、これ以上は言うまい。アルコールのせいだろう。
首を傾げるに留めて、甘い空気を払うように口を開く。
「あー、もう帰るか?それとも……」
今から行くならなんだろう、時間的には早いがもう〆か?この飲み会で出てきた料理もかなり多かったし。こいつが食べられたかどうかまでは把握してないが。
「えぇ、ちょっとだけ」
外で輪になって待機していると、忘れ物チェックを終えた幹事の前田さんが出てくる。こういう幹事できる人って尊敬する。
まず社内に顔が利く人じゃないと辛いだろうし、自分より立場が上であろうとなかろうと上手く調整しないといけない。
……まぁ俺には無理だな、当然隣で俯くこいつにも。
人の輪を抜けて駅方面へ歩き出すと、自然にいつもの歩幅に落ち着く。
「結構飲んだのか?」
本気を出した夏は夜まで侵食するらしい。顔にまとわりつく湿気に辟易としながらも口を開く。
「うぅん、あんまし飲んでないと思う」
少し舌足らずなのは酔いのせいか疲労か。近くにした方がいいな。
「……やっぱ帰るか?」
「いや!」
勢いよく顔を上げて口を開く三栖。おい、そんなことすると気持ち悪くなるぞ。
あーあ、言わんこっちゃない。
「うううしんどい」
「普段人と喋らないくせに頑張りすぎだ、馬鹿」
「こういう時くらい頑張らないと……」
いつもより距離が近いのは、恐らくさっき腕を掴んでしまったからで、それ以上の理由はない、ないはずだ。
彼女から目を逸らして前を向くと、紺色の暖簾が目に入る。
大きく「茶漬け」と書かれた看板に思わず吸い寄せられてしまう。
こんな状態の彼女を連れていくのもな、と三栖の方を見ると、同じように目線は看板に釘付けだ。
「……いくか?」
「もちろん!」
いつのまにか足取りがしっかりした彼女は前を歩く。
後ろから三栖を見て思う。やっぱりこいつ、口を開かなければちんまりしててかわいいのに、と。
言ったら拳が飛んでくることは想像に難くないため、それこそ俺は口を噤む。
「今失礼なこと考えたりした?」
「してないです」
どこでこういうことを察するんだろう。俺には無い器官が着いてるのか?
何はともあれ元気ならよかったと、店の扉を開ける彼女を見て思う。こいつがしょんぼりしていると俺の調子まで狂ってしまう。
外の暗さとは反対に店内は明るく、目を細める。
「お茶漬けお茶漬け」
わけのわからない掛け声に手を引かれるよう席に着くと、三栖は既にメニュー表に目を通していた。
「私は決めたから、ほら」
テーブルを挟んで見る彼女は、数十分前と違って花が咲いたような笑みを浮かべていた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
文字ありレビューをいただいてしまい……!
ありがとうございます。めちゃくちゃやる気がでます!
みなさまももしよければ、、、!感想が見えると頑張って書こうという気になりますので◎
最近時間が足りなくなってきました。私が毎日2万字くらい書けたら、頭の中に浮かんだこと全部小説にできるのに。
今日は朝5℃ととっても寒い季節になりました。
みなさま、どうぞお身体には気をつけてください。
ではまた!
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