第7話 濃厚ラーメンは夏の風物詩②
会社を出ると俺と三栖の位置が入れ替わる。前を歩いていた俺は後ろに、身長が低いはずなのに歩くスピードは彼女の方が早い。
「歩くの早くね?」
「そりゃお昼休みは短いもの」
やっぱり仕事モードのこいつとコミュニケーションをとるのは難しい。いっそのこと心の中が覗けたら楽なんだけどな。
「四条君、何か食べたいものはある?」
「ラーメ……いや、なんでもない。」
彼女は歩みを緩めると俺のの隣へ並び、綺麗なおとがいに手を当てた。
信号は赤、同じように足を止めて俺たちの隣に大量の働きアリたちが列をなす。俺も彼らから見たら同じように見えているんだろうか。
真夏だというのにジャケットを着こなした三栖は、スマホをたぷたぷと叩いている。
ようやく信号が青に変わり、俺たちも進むことを許される。昼休みは短いんだからなるべく時間を無駄にはしたくないものだ。
不意にしたから腕が伸びてくる。細い腕にピンクゴールドの時計、真夏の日差しを受けてなお真っ白な手が視界に揺れる。
「こことかどう?」
差し出された画面に映し出されたのは路地裏のラーメン屋さん。行きたいと思っていたところだが……。
「いいのか?」
「何がよ」
「今をときめくOLは昼休みにラーメンなんか食べないんじゃないのか?」
コンビニで売ってるパスタサラダとかじゃないのか。いや馬鹿にしてる訳ではなく、胃袋の容量の問題で。
「あのね、私別に今をときめいてないのよ」
そこじゃねぇよ。
「いや、そうじゃなくて。ラーメンいけるか?」
「舐めないで私の胃袋を」
ふんすっと息を吐く三栖。
たまにこういうかわいいところを見られるから、こいつの隣の席はやめられないんだよな。
「じゃあお言葉に甘えて」
口を開きながらも俺は進むスピードを上げた。
この短い1時間で麺を啜りきらねばならぬのだ。
「ちょ、歩くの早いって」
とてとてと足音を鳴らしながら、三栖もペースをあげる。
こうやってみると小動物みたいでかわいいのにな。本人に言うと間違いなく蹴られるから黙っておく。俺は空気の読める社畜なのだ。
目的地まであと少し、真夏の太陽に照らされた首筋に汗が浮きでて来る。
やっぱり外で食べるのは秋以降にした方が良かったか。
「私さ」
唐突に彼女が口を開く。
それがどうにも飲みに行く時と同じトーンに聞こえて身構える。
自分だけ彼女のギャップを楽しんでいるのもフェアじゃない、頼みごとなら聞こうじゃないか。
「お昼にこうやってラーメン食べるの初めてなの、楽しみ」
顔を背けながら呟いた三栖に思わず視線を向ける。
反則だろそれ。
「お前はほんとに……今日はお兄さんが奢ってやろう!」
気恥ずかさやら嬉しさやら色んな気持ちが混ざって、変なテンションで返してしまう。
「誰がお兄さんよ。同い歳でしょうが」
そう言って口の端を上げた彼女は、会社で見るのとも居酒屋で見るのとも違う、魅力的な顔をしていた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
たまには1日に2話更新したっていい(吐血)……!!!
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