第6話 濃厚ラーメンは夏の風物詩①
「なぁ、たまには昼に食べいかないか?」
今週も半ば、そろそろ誘われるであろう頃を見計らって俺から声をかける。
ぽかんとした彼女を見ると、なんとなく優越感が込み上げてくるが、表情に出すと倍返しに合うことは分かっているので大人しくしておく。
「えぇ……あなたまだ仕事残ってるでしょう?」
半目で俺の手元に溜まった書類を見つめる三栖。
「それはそれ、これはこれ。昼休みに仕事するほどじゃないし」
「そんなんだからあなたは」
彼女は腕を組みながらため息をつく。こうしている間にも昼休みの時間は刻一刻と迫っているのだ。
「はいはい、でも俺には優秀な同期さんがいるから」
「私が異動したらどうするつもりよ」
「へぇ、自分が優秀な同期さんって自覚はあるのか」
無言で蹴りが飛んでくる。
やめろ、ローファーでふくらはぎを蹴るな。身長差も相まって痛いところにクリーンヒットするんだよ。
「まぁいいわ、何食べましょ」
「おっ、女王様デレ期か?」
「それ嫌って言ってるじゃない。行かないわよ、お昼」
「悪かったって」
俺たちの会話は内線電話によって遮られる。さすがに社会人も5年以上やってると電話も1コール目で取れるようになる。
「はい、法務の四条です……はい、はい、」
休憩15分前から電話線を抜いていいという社内規則の制定が急がれる。
電話の要件は今度の大型案件について。そういえばうちも何人か噛むから会議出なきゃいけないんだっけ。
こういうのは大体三栖の仕事である。
「今度の大型案件、お前担当するの?」
「今のとこ課長からは何も言われてないけど……」
どうせそのうち声がかかるだろうに。
若いのにばりばり働かされて大変だなぁという気持ちと、他の課との調整があるなら他に誰か付けたほうがいいという気持ちが湧き上がる。
「ま、頑張ってくれや」
「言われなくても」
本当に仕事中のこいつは可愛くない。
光が眼鏡に反射して目の奥が見えないのも、冷たさに拍車をかけている。
ようやく俺たちを労働から解放する勝利の鐘の音が聞こえる。
顧客対応のある課なら順番に休憩をとったりするんだろうが、うちは主に中の人間しか相手しないから全員が一律に休憩をとる。
鞄や冷蔵庫からお弁当を取り出す人、外へとぞろぞろ向かう人。
俺達も後者の群れの仲間に入れてもらう。
うちの課はビルの中でも比較的高い場所にあるため、降りる時は基本的にエレベーターに乗れる。
始業時間と勝負している時はこの高さを恨んだりもするが、それはそれ。
誘ったはいいが何を食べようか。なんて前を歩く小さなポニーテールを眺めながら、頭に浮かんでは消えるランチラインナップに揺れるのだった。
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