第5話 Q:それは逆プロポーズなのか?



「私、アンタの子供産んであげてもいいわよ!」


「うん?」



A:――ゥワッツなんだって!?



 話が突飛過ぎんだろう! ちゃんと説明してくれプリーズ!!


 子供を産んでくれるって…俺氏とマジでマリッジ結婚してくれるってこと?


 急に態度が変わってヤンキーみたいな座り方になるわ、木の上から忍者は降ってくるわでコッチは混乱の極みなんだってばよ!



「「…………」」



 ……アデラ(当人がそう呼べっていったんだい!)のドレスの裾。

 そんな大股開いちゃうと、大胆過ぎるスリット部分から生足が出てなんかエキゾチックなフンドシみたいに見えちゃうから大変セクシーでございます(生唾)



「な、何か言いなさいよ!」


「姫様! 流石にはしたのうございます…」



 あわわ。ガン見し過ぎてしもうた!

 だってそんなこれ見よがしに見せつけられたら健康男児なら誰でも凝視してしまうのは自然の摂理にて。


 怒られてんのかな? と思えば、「これも作戦の内なの!」だの「し、しかし…」などと忍者っぽい人達とわちゃわちゃ揉めてらっしゃる様子だ。


 …これはセーフかな?


 にしても勝気っぽいけど、よく見たら彼女の顔は紅潮していて耳まで赤くなっているし、ちょっとプルプルしてるし…もしかして無理してんのかな?


 こういう時、イケメンなら「フッ。面白ぇ女」とか言うんだろうか。



「フッ…話が見えんな。それにしても、顔が赤いようだが大丈夫か?」


「んなっ!?」



 あ。余計な事言ったら、今度こそ茹蛸みたいになっちゃったよ可愛い。



「貴様! これ以上姫様を辱める気か!」



 セクハラ案件だったのか、これには忍者頭っぽい人もオコである。

 腰からダガーを抜いて切っ先を俺氏に向けてきた(怖い)


 ん? この忍者共…耳がピーンと尖ってるじゃないか。

 いわゆるエルフ耳ってヤツだ。


 しかも装束と変わらぬ墨色の肌といい…。



「…ダークエルフか」


「…………。だったらどうした? 王国の蛮族め」



 顔を覆っていた布を外すと金の瞳、銀糸の髪、黒檀の艶肌が露わになる。

 鬱蒼とする暗闇の森に差し込む月夜の光が映えて――実に美しい。



「余りの醜さに言葉もないか」


「俺はこの場に居る者に対して、醜いなどと思ったことなど一度もないが?」


「「…………」」



 つい、素で返しちゃったよ。


 は? 懇親会の時のアデラといいコイツら揃いも揃って自己評価低過ぎない?

 お前ら普通に美人さんじゃねえか、コッチなんて赤髪ゴリラですよ?

 

 それにしてもアデラの護衛か…どれ。


 >アズーラ=カディ=サリーフ=エルザスタン

 戦闘:71 智謀:39 魔力:27 耐性:44

 クラス:アサッシン


 ……エッぐぅ~。

 ちょっと強過ぎないか? この女エルフ忍者よ…。

 戦闘70越えは滅多にいないし、高耐性は更にレアだ。

 マイ・ダディも30超えてるから異様に打たれ強いけど…下手すると俺氏の愛猪ファングよりもタフかもしれん。


 それに見た目は二十歳くらいだけど平気で百を超えているからエルフは油断できんのよな。

 平気で二百年とか三百年生きられる女系種族だ。

 かつては不老不死と呼ばれた種族で、帝国ではトップカーストに位置する。

 かの悪名高い双子の女帝なんて純血のハイエルフなんだっけ?

 幾つなんだろ? 帝国にしたら我が王国の老王なんてきっとガキ扱いなんだろうな。


 ダークエルフはちょっと特殊な事情を持つ種族だ。

 高魔力を誇るエルフの中では魔力に乏しい(こっちなんてゼロだが?)のと、その綺麗で特徴的な銀色の亜人髪・・・

 これらの理由によって他のエルフから毛嫌いされている存在だとマクスウェルから教わった記憶がある。

 エルフってのは選民思想が強いらしく、そもそも亜人髪の大元である“亜人”という概念やその亜人にほぼ人権無いよ! とか胸張って言えちゃう帝国亜人法とか定めたヤバイ連中だしな。


 話は逸れたが、このダークエルフはかなり強い。

 恐らく、肉弾戦じゃあアデラよりも圧倒的に強いだろうし、得物も鎧も無い現状の俺氏でも相手をするのは多分無理だ。

 熱血ファルコンパンチも当たらなければ意味がない。


 ダークエルフ忍者は全員で七人いたが、残りの六人もまたクラス持ちじゃないものの、各能力値が30前後と皆して優秀。

 公国の暗殺部隊か? 御機嫌取りだけの国とか言われてるが、なかなか馬鹿にできない。



 取り敢えず、何とかその場は誤魔化して今日はもう休むことに。

 詳しい話は明日改めて聞くことにした。

 

 いや、人生で初めて女性から「子供産んであげる」と言われて、俺氏の心臓も限界だったわけよ、わかるでしょ? 俺氏ってば童貞なんだよ?


 いやぁ~別次元でキツイっス!(※鼻の穴が拡大)


 …にしてもエルフの名前はやたら難しいのが多いが。 

 エルザスタン・・・・・・って名前、どっかで聞いたことあるんだよなぁ~?


 まあ、帰ったら物知りマクスウェルに聞いてみようっと!

 



      ⚡




「ハァ…だから、私とアンタと結婚することのメリットがないかもって話よ!」


「そういうものなのか」



 翌日。ファングを駆って、再びレイングラスへの帰還を目指し移動開始。

 

 現在はアデラがお尻が痛いって言うからちょっと休憩タイム。

 まあ、鞍なんて普段から着けてないしなあ。

 ファングの機嫌が悪くなるから。

 余り移動中に待たせても同じなんだ、こう見えても繊細なヤツだからさ?


 ダークエルフの忍者部隊とも距離が出来てしまっているからその待機時間でもあるかな?

 陽が暮れる前にはレイングラスには到着したいところだな。 


 あのアズーラって奴ならファングのトップスピードともタメを張れそうだが、その部下達はそうもいかないだろうしなあ~。


 何でもアデラは、あのムカつく第七王子が言ってた通り、公国の実家から離縁されたらしい。

 そして、現在公国の人間は皇太子派の貴族からは敵視されている。

 いや、皇太子派のプロパガンダに利用されてるのかね?


 …というか、プロパガンダって言ってみたものの、どういう意味だっけ?

 こういう時、頭の良いマクスウェルが居てくれれば直ぐ答えてくれるんだが。


 故に彼女の身分はもはや公爵令嬢としても怪しいので、この男爵の次男坊のゴリライモでも結婚できる可能性は有る!? やったぜ!


 が、一応は皇太子派の辺境伯の下である我がフォースボーン家にとっては良くない結果と成り得るかもしれないと彼女は思案しているようだ。

 

 かと言って、万年魔力に欠く我がフォースボーンにとっては悲願となる一級魔力持ちの嫁は是が非でも欲しいだろうともの意見。

 まあ、別段俺氏は勢いで連れてきちゃったからそこまでの考えはなかったが…マイ・ダディであるベルドック辺りは泣いて喜ぶかもしれない。

 確か、マクスウェルの許嫁であるタンジェリン嬢はあくまでも俺氏の査定では残念ながら魔力を持ってなかったからな。


 この世界の貴族社会は魔法使いの家系ってだけで位の一つや二つはグレードアップすることもざらだから。

 俺氏は全く出世に興味は無いけどな。

 面倒事が増えそうだし。


 だが諸君っ! アデラはフォースボーン家が味方し、暫くの間保護下に置いてくれるという条件さえ飲めば、たったそれだけで俺と合体フュージョンして子孫を残してくれるというのだ!


 こんな美女がだよ!? 是非、お願いします!!(土下座)


 しかし、しがない末端貴族の男爵家の次男坊である俺氏なんかを随分と信頼してくれたもんだな。


 え? 有名人? 俺氏が?

 いやいや、冗談でしょ?

 そもそも王都に…王国の中央部に行ったのなんて今回が初めてだぞ?


 まあ、急いては事を仕損じる、名言だな。

 先ずは無事に家に帰って皆にアデラ(+ダークエルフ七人)を紹介しなくては。

 



      ⚡




 ファングの背に激しく揺られながら、俺氏がアデラとのワンチャン幸せな夫婦生活を夢想している内に周囲の風景が見慣れたものに既に変わっていた。


 毎日のように眺める山野の向こうに傾く斜陽が、実に憧憬の気持ちを誘う。



「もうすぐ着く。村の入り口がもう見えてきたからな」


「うぷっ……ほ、ホント? やっとこの凶行・・が終わるのね…」



 流石に彼女もファングでの移動に慣れてきたみたいで返事を返してくれるようになった。

 まあ、ここ一日半くらいぶっ通しで乗ってるし、そりゃ慣れるよね。

 その割には何か色々と諦めたような表情でグッタリしてる気もするが…?


 

 ――さて、アデラは俺氏の生まれ育った場所をどう思うだろうか?

 …生粋の都会人である彼女にはド田舎でしかないだろうが、気に入ってくれれば俺氏としても嬉しい限りなんだがなあ。



「……え。ちょっと待って? アレ・・は何?」



 お。何か気になるものでも早速見つけたのかな?

 フフフッ。お姫様の割に意外とわんぱくなんだな?

 


「ちょまっ! アンタんとこの村が――亜人・・魔物・・の群れに襲われてる・・・・・んですけどっ!?」



 

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