第4話 Q:悪役令嬢なんですか?



A:うるさいわね。だったら何よ文句ある? ぶっとばすわよ!



 自分が悪役・・だと気付いたのは十歳の頃だった。


 私はアドレイド・ドレアム。

 公爵家の息女で、親しい間柄ならアデラで通ってるの。


 十歳になって、初めて公国を治める王であるエスターク公の御前に召喚された時。

 自身に向けられる周囲の公国貴族から向けられる視線が悠に物語っていた。

 

 ……自覚はあった、自身が両親からすらも疎まれていることに。


 公国には大公家を支える二つの支柱、二つの公爵家の存在がある。

 その関係性は光と影そのもの。

 我がドレアム公爵家は公国の影…常に表舞台には上がらず、汚れ仕事を担ってきたという歴史があった。


 それ故か、公国の貴人のみならず公国民からすら畏れられてたわけね。


 しかし、最もいけなかったのは私の髪の色・・・かしら。

 私は生まれつき魔力が高く、その魔力障害のとして髪の色に魔力の属性の色が発現してしまっている。


 深紫を帯びたドス黒い墨色の髪…――闇の属性の最たるものだそうよ。

 

 七属性の中で闇属性を扱える者は稀。

 闇属性の使い手の中には死霊術などの禁忌の技に長けている者も存在する。

 それだからか、その異質さから民衆からは恐怖と侮蔑の対象となっていた。


 光の神を奉じる教会が宗教的に光属性を良しとし、闇属性を悪しきものとする風潮も手伝って闇の象徴である私は生まれながらにして腫物扱い。


 周囲の貴人からは醜いと言われ続け、メイドや侍女からも日常的に陰口を言われる始末……――正直言って、しんどいっ! 辛過ぎるでしょ私の人生!?


 …………。


 ……私の悪口言ってる奴は皆ブス! ドブス!!

 貧乏人だから自分の顔を鏡で見たことねーんだろ!?

 アンタらんなんかと私の美貌なんてレベチもいいとこだから!

 くたばれクソビッチ共が!!


 ハァハァ…。


 そもそも私、ゾンビまで造るなんて流石にできな……まあ、似たような事が出来る可能性があることは否定しないけど、そんなことまだ・・してないし!


 だから、成人を迎えたら即公国をおんでてやったわよ!


 ……いや、追い出された方が正しいのかな?

 

 その気になれば闇魔法で雑兵の百は瞬殺できちゃう私は“戦姫”として王国に売られれることになったわけ。

 戦姫って言っても所詮は末の王族の側室入りみたいなもんだけどね!

 しかも、十も齢が離れた第七王子のキンヴァリーが相手ってのが残念過ぎたけど。

 

 コイツってばマジで無能。

 本当に王族なの? って感じで、間違いなく私よりも弱いし…。

 性格もクソみたいな奴で、対帝国の戦場視察に言っても本人はまるでピクニック気分で私の他に侍らせてる戦姫にワインの酌をさせてるだけなんだもん。


 無駄に自国の兵を死なせても屁でもない顔してやがるもんだから、うっかり…。


 ――流れ魔法弾・・・・・で戦死されたことにしてやろうか?


 と、拳に魔力を集中させてしまったことは一度や二度じゃなかったわよ…。


 それは将来私の姉妹・・になるかもしれない他の戦姫達も同じようだった。

 彼女達は私の髪も容姿も馬鹿にしなかったし、公国から連れて来た忍者部隊アズーラ達の次に良い連中だったわ。


 だから、第七王子あのアホが寝所に連れ込もうとするのを事ある毎に邪魔して助けて上げちゃった。

 私より年下のまだ成人してない娘まで手を出そうとか大概にしてよ?

 

 結果として色々と目立つことになって、自然と私へのヘイトが集まってるのは解ってたけど、今更王国で悪者腫物扱いされても大したことないわよ!



「アドレイド! お前との婚約は破棄だ。公爵家もお前とは手を切るそうだ。なれば、我が戦姫として侍らすことの利点はもはやあるまい?」



 何とか半年耐えて、私が十七になった頃だった。

 第七王子の野郎が皇太子派の懇親会の場で私を公衆の前に突き飛ばしやがった。


 アズーラから得た情報で予想はしていた。

 王国・帝国どちらにも軍事力では劣るが、何とかのらりくらりと事を構える事を避けて生き延びてきた公国が王国の第二王子派に肩入れしている動きがあることはね。


 馬鹿でしょ? 下手すりゃ戦争になるでしょーが!?

 頭が痛いけど、これは恐らくもう一つの公国の公爵家が欲をかいた結果だ。

 

 現エスターク公は先代が近年崩御した後、電撃即位したのはまだ十にも満たない幼王。

 恐らく新大公は単なる公爵家の傀儡と化しているに違いない。


 キンヴァリーは馬鹿だが他の皇太子派の王子からの入れ知恵だろう。

 この場で私を見世物に、公国を裏切者と煽り、公国とのパイプがある王国貴族の動きを抑止する狙いだろう。


 けど、そうなのね…――影の公爵家に生まれて逆らえぬ運命とは言え。

 悪役として観衆から見られる運命を受け入れると覚悟していても。


 もう…私には、帰る場所すらもないのね…?


 ふと、それでも幼い頃のまだ優しかった両親の記憶がフワリと蘇り、頬を何か温かいものが滑り落ちていく。


 こんなことで泣いてしまうなんて、私もまだまだ甘いわ。


 でも諦めない! ここは堪えて、隙を見てアズーラ達と合流しなければ。

 キンヴァリーに囚われている他の戦姫のことが気掛かりだが…今は救う手立てはない。

 先ずは味方になってくれる人物を探すしか…。


 そう、私が歯を食いしばりながら今後のプランを打算していた時だった。


 

 ――私を指差して、高笑いしていた第七王子が吹っ飛んだ・・・・・



 一体何が…? 何が起こっ――げぇっ!?



 顔を上げると、無残にも破壊されたステンドグラスからの遮光に照らされた大男・・が私の直ぐ側に立っていた。


 その表情は深々と憤怒に染まり、短い髪もまた怒りの燃えるかのように赤く。

 質素な仕立ての貴族服は膨れ上がった筋肉で今にもはち切れんばかり。


 ――この男が!

 この男があろうことか、第七王子であるキンヴァリーを殴り飛ばしたのだ!

 ホテルの庭先はまるで隕石でも落ちたかのような大惨事になっている。


 どう考えても物理的にも精神的にも並の人間・・・・の所業じゃないでしょ!? 誰よコイツ!?



「……女を辱めるような真似をする男は。――殴ってもいいと、我が父からそう教わっている」



 うひゃあ! マジかコイツ!? 相手はあんなクズでも王族だぞ?

 王族に手を上げて何でそんな平然としてられるわけ?


 あ。そうか…この男にとって大したこと・・・・・でも何でもないんだ。


 国とか身分とか、色々考えていた自分が急にちっぽけに思えてきちゃったわ…。


 …え? 名前? あっ!私に聞いてんのかよ!?

 てか、逆に五戦姫の中でも悪目立ちしてた私を知らないとかどこの田舎者よ!

 

 その後は…頭痛い。


 何故か急に大男にプロポーズされたり、まだ誰にも許したことないのに問答無用で抱き上げられたりして…もう!私も何が何やら大興奮っ――…コホン。じゃなくて、ちょっと混乱してたんだけど。


 “ダース・フォースボーン”って名前を聞いた瞬間、血が凍るような気がしたわよ。


 馬鹿デカイ猪(多分だけど魔物よね)に乗せられた時も漏らしそうになったけど。



 まだ、私が公国に居た頃から噂には聞いてはいた。



 ――王国東部にとんでもない怪物…いや、魔王・・が居る、ってね。


 

 

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