第3話 Q:それって誘拐じゃね?



A:……ノーコメントで。了承はこれからとる予定だから(泣)



 確かに王都の催し物で暴れて。

 そこから戦姫と言えど、公国のお姫様を攫って逃げているのは事実。

 腕の中のアドレイド嬢の怯え振りも頷ける。


 はあ~例え無事に公国に送っても今度は公国で打ち首刑になるかも。


 まあ、そんな些末な・・・事は帰ってから皆に相談して考えよう。

 俺はアドレイド嬢を気遣いながら二時間ほど森を進むと口笛を吹く。


 すると、ものの数秒で木々をなぎ倒しながら俺氏の相棒・・が甲斐甲斐しく迎えにやってくる。



「ヒィ! 魔物っ!?」


「大丈夫だ。愛のファングだ。……中央の森は楽しめたか?」


「ブッフィハアアアアアア!!」



 うう~ん? どうやら中央での収穫はイマイチだったみたいだな?

 見た目は背までの高さが三メートルほどの猪だが、俺氏に似て意外とシャイな性格だ。

 好きな食べ物もドングリとかキノコとかだから、王都滞在中は森で食べ歩きでもしてくれば? と自由行動にしていた。

 だがファングもまた早くレイングラスに帰りたいらしい。

 同感だな。王都の飯はくどくて口に合わないものが多かったからな。

 よし!帰ろう! 俺氏達のレイングラスへ!


 俺氏は慣れた動きでヒラリとファングの背に乗る。

 おっと、流石に手綱を引く手前、アドレイド嬢を抱っこしたままだと危ないな?

 俺氏の前に座って貰うとしよう。

 特等席・・・だ。きっと喜んでくれるに違いない。

 末妹は物凄い喜んでくれて暫くファングに乗せてくれとせがまれたし…。



「飛ばせ! ファング!」


「ブルゥフッハアアアアアアアア!!」


「ぎゃあああああああああああああ!?」



 ふむ。意外と楽しんで貰えてるようだぞ?

 まさか両手を上げるほどエキサイトして貰えるとは思わなんだ。

 お姫様って結構パリピなんだな?




      ⚡




「「…………」」



 失敗したなあ~…まさか、怖かった・・・・なんて思いもしなかった。

 せめて、二日で直帰のペースから三日か四日くらいにすれば良かったな?

 だが、今更変更するとホームシック気味のファングのストレスになるし。


 公国のお姫様なら乗馬・・とか貴族っぽいアクティビティに慣れてるもんだとばかり…。


 すっかり陽が落ち、森の中での焚火の爆ぜる音が響くのみ。

 重苦しい無言の時間だけが過ぎる。


 はあ…ここにファングが居ればちょっとしたアニマルセラピーも可能だったんだろうが。

 アイツはアイツで変な気を効かせてフラっとどっか行っちまったし…トホホ。


 流石に戦場に立つこともある戦姫といえど、お姫様には今日の強行軍は堪えたみたいだ。

 もう俺氏にビクビクしてる暇もないくらいグッタリしてる。


 ――どれ。改めてアドレイド嬢の能力を確認してみるとするか。


 俺氏は手が届くほどの間合い内で注視することで相手の能力値やクラスを確認することができる。


 >アドレイド・ドレアム

 魔法:37 智謀:42 魔力:65 耐性:7

 クラス:エンチャンター


 おお!? 流石は戦姫だ、強いな!

 因みに俺氏の経験則だと各能力値で30超えは普通に強い部類に入る。

 70前後だともはや達人や一流の使い手レベルだ。

 クラスのエンチャンターってのは知らないが、魔法職に違いない。

 “戦闘”の項目が“魔法”になってるだろ?

 これは対象が戦闘魔法使い・・・・・・である確たる証拠だ。


 俺氏?

 単細胞の純然たるパワー(馬鹿力)のみだからテクとかの概念なんてほぼ無いよ?

 得物の相性だってあるし、実際は戦闘50くらいの相手でも苦戦することはままあるんだ。

 全然最強とかじゃないからね?


 …にしても、やはりおかしな話だ。

 これだけ強い彼女を手放すか?

 魔力の値が50を超えるくらい魔力に優れた彼女を王族が?

 貴族=魔法使いという沽券とする考えを持つ最たるものが、かのオーレリア王家だからだ。 

 王族に新たに取り込む血縁としては十二分であることは言うに及ばず、中堅以上の貴族達なら喉から手が出るほど貴重な存在なはずだぞ?


 …流石にあのへっぽこ第七王子でもそれくらいの理解はあるだろう。

 一体、何を考えてやがるんだ?


 あ。彼女と目が合ってしまった!

 ずっと舐め回すように見てたらそりゃ普通に失礼だろ。

 最悪、視姦していたとまで勘ぐられ、我が家の女性陣にチクられてしまう可能性まである。

 微かに震える仕草がちょっとグッっと俺氏の何かを刺激するが耐える。

 やはり、戦姫、戦姫と言われていても彼女はか弱い部分もある可憐な少女なんだな。

 っカァ~! 守ってあげたくなっちまうぜ!


 …だがどうする?


 俺氏はこの異世界に生まれてからは、人間の・・・女性に限ればママンと可愛い妹としかまともに口を聞いたことがないんだぞ?

 勿論、前世から童貞を引き摺っているシャイボーイなわけで。



 ……冗談、とかでも言って場を和ませてみようかな?



『おい! そこに隠れているのは誰だ!』


『きゃあー! 追っ手!?』


『ハハハ! 大丈夫!冗談だよ? …例え王国軍が全軍で追って来ても、このカッコイイ俺が君を守ってみせる…!(キラーン)』


『なんて強くて、勇敢で、顔もよく見たらそこまで悪くも無くて素敵な人なの! 抱いてっ!』


オフコースもちろんさ…(そして若い二人はメイク★ラヴ~)』



 ……なんだ、天才じゃないか…!


 知らなかった、まさか俺氏にこんなにも恋愛センスがあったとはなあ。

 やはり、人間、出逢えば変わるものだ。


 や、やってやんよぉ~…タイミングが重要だな。

 アドレイド嬢の気が俺氏から逸れたタイミングで……よしっ!



「――おい。隠れているのは分かっているんだ。さっさと出てきたらどうだ?」



 しもうた。またちょっと低音の声出ちゃった!

 いやここは失敗を笑顔(のつもり)でカバーだ!



「何っ!? …何故! 何故わかった!?」


「ハハハ…! じょうだ……ん?」



 アレ? なんかアドレイド嬢の反応が予想してたのと違うぞ?


 どうしてそんな急に立ち上がって歯を食いしばって俺氏を睨むの?

 何かお姫様がしちゃいけないような表情しちゃってるけど…。



「…不覚! …申し訳ございません。アドレイド様」


「全て予定外なんだから無理もないわよ。私もダース・フォースボーンという男を甘く見ていたから。まさか…ここまでとはね…!」



 木々の上からカサリと音を立てて五人の黒装束が降りて来たから堪らない。

 しかも手に吹き矢とかのどう見ても穏やかじゃない飛び道具を持っていた。

 俺氏、内心では相当ビビッていたがダサいのでなるべく顔に出さないことした。


 しかしコイツ等何者だ?

 身のこなしが普通じゃないぞ。



「こうなったら仕方ないわ。この際、お互い腹を割って話そうじゃないの? 私のことはアデラでいいわ。私もダースって呼ぶけどいいでしょ?」


「アッハイ」



 さっきまでしおらしかった公爵令嬢とはまるで別人のような彼女の姿に俺氏は呆然とそう返事をする他なかったわけで…。



 

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