第2話 Q:第七王子を殴ったってマジ?
A:…はい。間違いございません。俺氏がやりました(土下座)
懇親会が催されていた豪華絢爛な会場にどよめきと悲鳴が響く。
さぞ名のある名匠が手掛けた分厚いステンドグラスをバッキバキに砕き貫いた先。
そこにあるホテル自慢の庭園からは土煙がもうもうと湧き上がっている。
…………。
……あちゃァァぁぁぁ~
い、いや、待て!
拳が顔面にクリーンヒットした瞬間、ピカッと光って
恐らく、王族の財をなして拵えた魔法の鎧の効果だろう。
まあ、鎧は空中で完全にパージしてバラバラに爆散してたけど…何とか一命をとりとめてくれているはずだ。
仮にも王族だぞ? 単なる俺氏如きのストレートパンチで一撃死するなぞありえない。
うん! そうに決まってるよきっと!
「き、貴様ぁ!? キンヴァリー殿下に何て狼藉を!」
うーわ。近衛と他の貴族の人もめっちゃ怒ってるじゃーん。
そりゃ王族に手を上げたら当たり前か?
でも、今更普通に「ついカァッとなってやりました」とか自首しても縛り首になる未来しかないだろう。
うん。こうなりゃ適当に誤魔化して逃げよう。
できるだけ、柔らかい口調で……申し訳なさそうに……っ!
「……女を辱めるような真似をする男は。――殴ってもいいと、我が父からそう教わっている」
「…っ!」
ぐわああああ!? ファック! コミュ障故の暴走がああ!!
しかも緊張の中のド緊張で超低音ボイスにぃいいい!
何か凄んだみたいになってるし、暗に“だから同調してた取り巻きのお前らも殴っていいよね?”みたいな脅しになってるかも。
しかも、さらっとベルドックからそうしろって教わったみたいに言っちゃった?
パパン! ゴメェ~ン!!
ふと、冷静になってみると俺氏がうっかり手を出しちゃった原因となったこの美女はどこのどなたさんなのだろうか?
俺が視線を下に降ろすと、彼女は怯えた様子で小さな悲鳴を上げてビクリとする。
わかっちゃあいるけど傷付くわぁ~…。
それも仕方ないか?
俺氏ってば生まれつき身体がちょっと大きくて更に鍛えたせいもあるのか、同年代と比べて軽く一回り以上はデカイからな。
髪も家族の中で一番赤いし、剛毛ツンツン頭だし…この異世界の髪結いがストパーを開発してくれるのを待つしかないのが現状だ。
「……失礼。名前を教えて頂いても?」
先ずは自己紹介だろう。
身を竦める彼女に向って手を差し出した…てか、顔小せぇ~!?
俺氏の掌ですっぽり覆えちゃうんじゃないの…てかマジで顔面偏差値がエグイな!
「わ、私はアドレイド。…アドレイド・ドレアムです。……そ、その! こんな醜い私の為にお手を煩わせてしまい。大変申し訳ございませんでした…っ」
醜い? こんな美人なのに?
そういや第七王子が“呪われた色の髪が不気味だ”とか“裏切者は追放してやる”など腸がムカムカすることを散々言ってやがったな。
確かに王国じゃ黒髪は珍しいが…そこまで忌避されるものなのか?
それにしても潤んだルビーの瞳…吸い込まれるようだ…!
その彼女の儚げな哀しい笑みを見た途端、プンッと意識が飛んでしまった。
「殿下はこの
「っ!?」
「だ、ダース……
大暴走です。
いきなり横から出しゃばってきた田舎男爵の愚息が公爵家の娘さんにポロポーズとかこの封建社会バリバリの世界に真っ向から喧嘩売ってるよね!
俺氏ってば勢いそのままにガバリとアドレイド嬢を抱え上げてその場にいる連中に向ってそう
…それにしても戦の鬼とか、まさか俺氏の事じゃないよな?
この優しい俺氏が? まさかあ~?
全く、中央には風の噂が届く前にどうやら腐ってしまうようだ。
俺の腕の中にすっぽりと抱え込まれたアドレイド嬢は顔を真っ赤にして口をハクハクさせて狼狽えちゃってメチャ可愛い…じゃなかった!?
もうこうなったら逃げるしかねぇー!
アドレイド嬢は折を見て公国に送ればきっと問題ないはず。
レイングラスに帰ったら兄貴に泣きつけばきっと何とかしてくれるって!
だってマクスウェル、天才だし!
良し! 善は急げ!
「ま、待たれよっ!」
モブっぽい人達が武器片手にワラワラと集まってきちゃったが、待てと言われて待つと…俺氏がそんな素直な奴だとでも思われてんのかね?
「退けぇぃい!!」
ちょっと強めに一喝しただけなのに大の男がバラバラとオーバーリアクションで飛び退いていく。
劇団かな?
まあ、お陰で蹴り飛ばす手間が省けた。
今は両手が彼女で塞がってるんでね?
あ。片手でもいけそう…軽いなぁ~…!
流石にホテルから出ると王城から大勢が大挙して押し寄せてきた。
相手にしてると帰りが遅れそうだから無視だ!無視っ!!
「すまないが、少し我慢してくれ」
「な、何を? って…きゃあああああああ!?」
悠長に検問の列に並ぶ暇なんてないから、
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