モブ転生貴族の俺が悪役令嬢を嫁にして建国までしちゃうんだけど、何か質問ある?
森山沼島
第1話 Q:転生したって本当?
A:多分そうだと思う。
俺は元は単なる引き籠もりのニートだったんだよ。
少なくともその明確な記憶が残っている。
大卒で入った会社でトラブってから色々あってさあ~?
親の優しさに好きなように甘えてたとんだボンクラ長男坊でさ。
下の弟妹は皆優秀で人格者、俺一人くらい余裕で養えたのかもなあ。
ゲームや漫画にも飽きて暇過ぎたから、筋トレばっかしてたし…。
割と情けない人生だったと思うよ?
そんなどこにでも湧くような雑草系の俺氏が。
いつのまに死んでこの異世界にどうやって転生してきちまったかまでは判らないけど。
だってさあ、ラノベとかネット小説でよくある…展開の神様・女神様的な存在となんか接触なかったもん。
気付いたらガチの赤ん坊だったからそりゃビックリだよ!
けど、異世界の言葉が最初から理解できるような御都合主義でもなかったから、寧ろベイビー・スタートで上等だった。
ちゃんと時間を掛けて異世界の言語や文化を覚えることができたしな。
けど、転生したからって元の性格まではやっぱりどうにもできなくってさあ~?
基本は部屋に籠ったり、訓練場を貸し切ったりして筋トレばっかりする俺氏。
やはり現実逃避には筋トレに限る!
だが、別段新しい家族からそんな変態ムーブの俺氏が咎められることもなかった。
俺氏の転生先は、これまた実にテンプレな環境。
王国辺境の小さな村を治める男爵家の次男坊。
ダース・フォースボーンとして生を受けた。
俺氏のリサーチによれば、フォースボーン家は貴族籍と言えど吹けば飛んでいくほど弱小貴族で、単なる木っ端役人とほぼ変わらない待遇であると思われる。
――仮にこの世界がゲームならば完全にモブ貴族だろう。
数代前からの在所であるこの村(地域)、レイングラスもまた王都から離れたメル郡の最東端に位置する。
主に特産品もないので長年の敵対国である帝国軍からスルーされてしまうほどだというのだから気が抜けるのか、情けないのか…。
異世界今生の俺氏の現パパであるフォースボーン家八代目当主であるベルドック・メル・フォースボーン。
外見上は余り覇気のないオジサンって感じで、平服着たら村民と大差ないくらいのオーラしかないマイ・ダディ。
貴族ながら元は農奴出身の兵士からの叩き上げで平民出身の血筋故か、剣と魔法の実にファンタジーな世界であるのにも関わらず、魔力が一切ない。
一部の界隈では貴族=魔法使い、みたいな固定概念があるので同じく魔力無しの俺氏にとっても貴族社会はどうにも息がし辛い苦界である。
これもまた俺が貴族同士の付き合いを避け、実家に引き籠もる要因だ。
そもそも国境近くの領地持ちという貧乏くじを強制的に引からされ続ける悲劇の家系であるフォースボーン家の男は、ここら一帯の貴族の
それに比べて俺氏よりも五歳上の長兄、マクスウェル・メル・フォースボーン。
身体はやや病弱だが何よりも頭が良い。
王都の学術院も卒業した秀才で、さらには何と許嫁までゲットしてきやがった。
しかも、将来の義姉は男爵よりも身分が一つ上の子爵位を持つ法衣貴族、サワークリム子爵家の御令嬢ときたもんだ。
普通なら単に降嫁だが、王都でも名の挙がるほど優秀なマクスウェルは準子爵への叙爵が既に決まっている。
次第によっては万年男爵芋だった我がフォースボーンが次代で子爵家になるやもしれないな?
他の身内も俺氏の身内馬鹿を差し引いても出来が良いし、我が男爵家はまさに安泰そのもの!
よって、俺氏は割と自由にやれているという待遇なのだ。
ビバ! 異世界!
前の家族と同じく、こんな俺氏にも優しい家族に仲間達。
漫画もゲームもネットも無いのがちょっと残念だが、俺氏は自分なりにこの異世界をエンジョイしていこう。
――そう思っていたんだが、どうにも最近の世界情勢がきな臭くなってきた。
原因は“戦争”だ。
簡単に言うと、我が王国の次代のトップであろう皇太子と第二王子が兄弟喧嘩を始めやがったのだ。
皇太子と王子って言っても、もう還暦を過ぎた良い年齢のオヤジだそうだ。
そもそも現王が今年で百歳になったとかいう歴代最長寿更新記録を持つ怪物だからな、無理もない。
そもそも王族は同じ種族であるかどうかすら怪しいという噂もあるくらいだ。
「恐らく、なかなか父王の居座る玉座が空かなくて、互いに辛抱できなくなってしまったんだろう」
マクスウェルが青い顔でそう呆れてたっけ。
いや、青くもなるだろう。
――本格的な戦争が、しかも王国内で始まるかもしれないんだからな。
これを機に帝国側は確実に仕掛けて来るし、王国と帝国に対して中立な立場を取っていた他国との関係にも影響を及ぼすだろうしな。
そうこうする内に領地経営と他領との交渉で忙しくしているマクスウェルは
いや、精神年齢が既にトータルでオッサンだからなのか、月日が流れるのが早い。
「王都で懇親会が開かれるようだ」
一家団欒の夕食時にそうマクスウェルが疲れた顔でテーブルの上に何やら文を開いて出してきた。
“将来の王国を担う若き精鋭と才女達とで交流を深めよう!”
…という案件らしい文言がクドクドと書いてあるようだ。
聡明な兄君が浮かない表情なのは、その懇親会とやらが皇太子側の音頭で開かれているからだ。
我がフォースボーンの上の立場であるゴリゴリの武人の辺境伯、ラゴナン・メル・バルドは生粋の皇太子派なので我が家だけがボイコットすることは当然叶わない。
まだ内戦勃発とまではいかないまでも、だ。
本来であれば次期当主であるマクスウェルが出席すべき集い。
しかし、頭は良いがこの実に線の細い長兄をあの緊張高まる王都に送るにはかなりの不安がある。
――仕方ない。貴族の付き合いなんて本来御免だが、俺が出張る他あるまい。
王都に留学していたマクスウェルと違い俺氏は完全なオノボリさんになってしまうだろうが、こんな場面でくらい家族の役に立たなきゃな?
俺氏達は互いに頷き合って食事を終えると、一番下の末妹が寝たタイミングで身支度を整え、部下に声を掛けて外に出るとその足で王都へと向かうことにした。
⚡
レイングラスから王都へまでは遥かに遠い。
馬車を乗り継ぎ、七日は掛かる。
余りに遠過ぎて、自身の領地が如何に王国の隅にあるのかを思い知らされる。
だが、この距離なら単身であれば
街道を行くと関税や賊が面倒だ。
邪魔な根や岩を蹴り飛ばし、森を進み、山を突っ切り、谷を飛び越える。
ふぅ~…日頃の筋トレと訓練の賜物だな!
まあ、兄のマクスウェルが頭脳担当なら、俺氏は単純明確な肉体労働担当だ。
特に難しく考える必要もない簡単な作業ばかりだから苦にならない。
俺氏にとって羊皮紙に一部の間違いなく羽根ペンを奔らせる作業の方が余程地獄だからな。
今更だが、この異世界はかなり
というのも、俺にはステータス画面のようなものが見えるからだ。
一定の距離内で“戦闘”、“智謀”、“魔力”、“耐性”の各能力値と“クラス”なるものを見る事が出来る。
目がちゃんと開くようになって俺氏を覗き込んできた若きベルドックの横顔に文字と数字が羅列した時は思わず噴いて(泣いて)しまったものだ。
俺氏の場合は鏡越しで確認できた。
>ダース・フォースボーン
戦闘:3 智謀:2 魔力:0 耐性:1
因みに、同じく魔力に関しては同じゼロだが、マイ・ダディであるベルドックの戦闘と耐性は共に30越え。
マイ・ブラザーであるマクスウェルの智謀は六歳児の時点で軽く50越え。
レベルの概念もないし、年齢との関連もない潜在能力的な表記なのやもしれない。
当初はいずれの能力値も一桁というヘボさに落胆した。
が、変化が訪れたのは一人部屋を与えられて趣味の筋トレを開始した辺りだ。
いつの間にやら鏡越しに見る俺氏の“戦闘”の値が10を超えていた。
こうなると途端に楽しくなってがむしゃらに自分を鍛え始めた。
メキメキと上昇していく能力値の値にすっかり夢中になってしまっていた。
調子にのって色々とやっていたら、俺氏の戦闘の値が何時の間にやら――“99”になってしまっていた。
これは割とリアルに反映されるのでビビッた。
自身の過剰な馬鹿力に戦慄して一時期本格的に引き籠もりなった時期もある。
恐らくこれが
これ以降はどうやっても上昇しなかった……残念ながら、智謀と魔力は未だ変わらないままだけど。
だが、耐性に関してはトレーニング法に光明を最近見出した!
本当ならそのトレーニングを近日中に試したいところだった。
さっさと用事を済ませて帰るとしよう。
王都は王国を三分する東部のメル郡、北部のオスカー郡、南西部のダリア郡の境が交わる地点に築かれている。
…ショートカットのし過ぎて、少し早く着き過ぎてしまった。
いっそ代理で来たのだから義姉の実家にでも挨拶して早々に帰っても良いものかと尋ねてみれば、当のサワークリム子爵家からはとんでもなく驚いた顔をされてしまった!
出来の良い
帰りたい。
だが、俺が尋ねて来たことが余程嬉しいのか、懇親会まで滞在するように勧められ甘えることに。
やったぜ! 浮いた宿代で買い食いや土産を買って帰れるぞ。
滞在中も子爵家の私兵から手合わせの申し出があったり、訓練場を貸して貰ったり、観光案内して貰ったりして楽しい時間を過ごせた。
こんな良い人達が身内になるなら、マクスウェルとフォースボーン家の未来は明るいな!
で。そのままレイングラスに帰れれば良かったが、そうもいかない。
俺は渋々、懇親会の会場へ向かった…。
煌びやかなホテルの大広間には十代後半から二十代前半の若い男女ばかり。
残念ながら極々近隣との付き合いしかない俺氏にとって同郡から来てるであろう若貴人は殆ど見知らない存在だ。
恐らくアチラからだって有名な兄なからいざ知らず、俺のことなぞ知らないだろう。
――恐らく、知っていても
今日は普段着慣れない貴族服で、
それにしても窮屈だな…?
流石に道中は野良着同然だったが、いま装備してる服だと突っ張って満足に身体を動かせない。
ベルドックが俺氏の為に奮発して仕立ててくれた一張羅だし、破いたりしたら家族はきっとガチで凹むだろう…気を付けねば…。
だが、交流以前に問題がある。
俺はどこに出しても恥ずかしいコミュ障なのだ。
会場まで共に
顔の表情筋はガチガチに硬直し、ただ腕を組んで仁王立ちするのみ。
…物凄い周囲からの奇異の視線を感じて動悸と緊張で思わず吐きそうになる。
早く帰りたい。
稀に勇気がある俺氏のファン?だとか言う変わり者が来て声を掛けてくるが基本は無言で頷き返すのみの塩対応。
後、
その内、会場が騒がしくなると中央にゾロゾロと金魚の糞を連れたとある人物が現れる。
第七王子のキンヴァリー。
今年で確か二十八になったはずの王族のドラ息子。
“皇太子の威を借るキツネ”だと陰口を叩かれているなかなかの難人物な御仁だ。
視察と称してメル郡の村で騒動を起こしているので東部の人間からは内心良くは思われてないはず。
コイツが今回の宴のホストだろう。
ケッ。護衛の他に五人も美女を侍らせてやがる。
どうせ御手付きのいいとこのお姫様達なんだろう。
俺には一生縁の無い高嶺の花だな。
そんな奴の自慢話と変わらない演説を聞いているのも馬鹿らしい…帰ろう。
そう思って後退った矢先に事件は起きた。
「きゃあ!」
何を思ったか公衆の面前で美女の内の一人が第七王子に突き飛ばされて転倒させられていた。
黒髪にも似た深い紫の長い髪とルビーのような揺れる赤い瞳が実に美しかった。
「アドレイド! お前との婚約は破棄だ。公爵家もお前とは手を切るそうだ。なれば、我が戦姫として侍らすことの利点はもはやあるまい?」
女性は酷くショックを受けた様で震えている。
……それにしても“戦姫”とは。
戦姫とはメタく言えばクラス持ちの女性だ。
この世の中には能力値自体を持たない者と、能力値はあるけどクラスを持たない者、両方持っている者とに俺は分けている。
そもそも能力値を確認できない者は戦闘に関しては戦力外であるし、クラスを持つ者とそうでない者は圧倒的に能力差があるとでも思ってくれ。
俺と彼女は両方持ってる方だ。
彼女のクラスは知らないが、俺のクラスは“ウォーロード”。
バリバリの戦闘職のクラスだ。
どっちかと言うと俺は前に出るタイプだが支援型のクラスでもある。
それは兎も角として、突き飛ばされた彼女はまだ第七王子によってなじられて続けていた。
どうやら、彼女は公国の人間のようだ。
最近の噂では中立を謳う公国が第二王子派に与したとも聞き及んでいる。
皇太子派の集いであるこの場に彼女に味方する者は少ないだろう。
悔し涙を流す彼女に向って冷笑や侮蔑の言葉を浴びせる者まで出始めた。
――彼女は、
気付けば、俺氏は渾身の力で第七王子を文字通り、
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