第2話 顔合わせ! Part A
「気を取り直して、顔合わせといきましょうか」
マッドサイエンティストならぬ侵入者ならぬ「聖徒会」顧問の
くそう、まだ手足の末梢神経が痺れてやがるぜ。俺がコーヒーを飲んでる最中に痙攣が起きてそっちに溢しても絶対に文句言うなよ。特に斎。
「平賀先生の発明力には驚いたでしょ、聖。ダイナマイトすら破壊できない拘束具もすごいけど、鉄パイプ型スタンガンを初めて見たときは胸がときめいたわ!」
むろん驚いたとも。化学の高校教員が物騒なものを校内で堂々と発明している事実にな。帰宅したら速攻、県教育委員会やPTAにリークしてやろう。
「ちなみに、平賀先生の発明を告訴しても無意味よ。なんせこれは、県教育委員会やPTA公認の研究なんだから」
はっはっは! 愉快すぎて涙が出るぜ。どうやら本当に末法の世が来ちまったらしい。
「玉串さん。
既にノンアルコール缶を三つも空けている平賀先生が提案した。説明してくださるのは大変ありがたい。だが先生、悪いことは言わないので、どうか奉職中の飲酒疑惑で捕まるような真似はよしてください。
俺の心配をよそに、斎は納得した様子で、
「そろそろ、ちゃんと説明しても良い頃合いですよね。ああ、でも先生、さっき一上さんには『聖徒会』活動の核心部分を伝えてあるのであります。抜かりナシであります!」
さながらカエル型宇宙人の軍曹みたいにビシッと敬礼してみせた。何が抜かりナシだ。おちょくるのもいい加減にしてほしい。お前が説明を省いたせいで、こっちはひどい身体的および精神的な苦痛を受けたんだ。
平賀先生の「丁寧な説明」のお陰で判明した新事実は三つ。
一、電気椅子というのは斎のハッタリで実は殺傷能力ゼロ。電磁錠式拘束具のほうが平賀先生の発明であった(現在テスト運用中)。⇨よって、今すぐ俺の「聖徒会」入部の承諾を取り消すべきである。不当な脅迫による契約は無効だ。
二、この部屋に連行されるとき、俺は斎から「可愛い女の子に会えるよ♡」と嘘の勧誘を受けた。
⇨言わずもがな、虚偽の説明による契約は無効。
三、鉄パイプ型スタンガンは片手では通電しないが両手で握ったときにだけ電流が発生する仕組みであったこと。
⇨まずはそれを早く言え!
俺の異議申し立てに対して、斎はやけにあっさりと、
「はいはい、多少強引だったのは認めるわ。悪かったわよ。……でもね聖、二番目の言葉は正真正銘の真実よ」
と、いやに自信満々の笑みを浮かべた。
「は? こんな異次元空間に可愛い子なんてどこにいるんだ?」
「んもう、分かってるくせに~。いけず~!」
ごほんごほんと、たいそう気まずそうに平賀先生が咳払いする。
「痴話喧嘩はそれくらにして、本題に入りましょうか」
別に
「玉串さんから聞いていると思いますが、うちの生徒会執行部はあくまでも部活動です。だから、これから説明する活動内容に対して意欲ある生徒は三年間ずっと変わりませんし、反対にすぐ退部する生徒もいます。だから一上さん、あなた自身の意思で決めてください」
「退部はダメだからね、聖」
なおゴリ押しを続ける斎を、平賀先生は厳しく手で牽制した。
「玉串さん、これは大事なことなのです。あなたの気持ちも分かりますが、彼の意思を尊重してあげてください」
「……はーい」
平賀先生には頭が上がらないのか、斎はバツが悪そうに机に突っ伏した。
ここにきて俺は、平賀先生の人徳を見直し始めていた。不幸にも出会い方は最悪だったが、意外としっかりしたモラリストなのかもしれない。
「もちろん、入部してくれたら私の世紀の大発明を先行公開してあげます!」
……前言撤回。やっぱりこの人、テンションが妙だ。
そのとき、斎の二つ折りガラケーから、かつて流行したJ-POPが大音量で鳴り響いた。いつの歌だっけ、それ。
「お、待ってましたっ! ――はろ~はろ~、あいむ斎よ~。そろそろ~? お~け~お~け~、あいあいさーっ!」
英語なのか何語なのかすら不明な言語をぶちまけて、斎が楽しそうに話す。電話が切られた後、俺はげんなりと尋ねた。
「これ以上、誰が来るんだ?」
「聖、ここは『聖徒会』よ。書記の私だけで務まるはずないじゃない」
「なるほど、ちょうど良い。せっかくなので、説明はみなさん揃ってからにしましょう!」
どうやら他の「聖徒会」メンバーのお出ましってことのようだ。一体、どんなメンツなんだろう。変なやつらでないことを祈るのみだ。
ていうか、だな。斎、お前が書記だったのか。いまの言葉遣いから察するに、要領を得ない怪文書的議事録を作っているにちがいない……。
(たぶんつづく!)
『聖徒会へようこそ!』 小清水志織 @s_koshimizu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『聖徒会へようこそ!』の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます