崩れかけの一軒家にあったもの

 私が小学生の頃、バス釣りに熱中していた時期があった。

 ある夏のその日も、友人たちと、自転車で少し走らせた場所にある、池や沼が点在する広大な湿地帯を訪れていた。

 周辺は背の高い葦で囲まれ、釣りをしていると周囲を見渡す事は出来ない。その場所は自然保護区の様になっていて、基本的に住んでいる人や、住居なども数キロにわたって見当たらない場所。


 その日は釣果も無く、新しい釣り場を求めて、まだ行ったことのない場所を探してみようという事になった。

 葦原を縫うように、数本の整備させれた細い道。そこからたまに、釣り人とが切り拓いた道なのか、獣道なのかわからないような、未舗装の道が枝分かれしている。

 そんな道に入り進んでいると、今にも草木に飲み込まれそうな、一軒の廃墟が現れた。興味を持った私たちは足を止めてみた。


 青い屋根が乗るその家は、玄関横の大きな窓と壁の一部は、壊れて抜けており、暗くなったその奥。和室であっただろう部屋が薄っすら見えていた。

 私は友人たちと、「こんなところに昔は住んでた人居たんだね。」などと話しながら、中を覗き込んだ。


 昭和を感じる古びた家具や生活用品が転がる。その部屋の中央。

 紐でぐるぐると巻かれた、所々染みのある布団が、一つ横たわっていた。

 友人たちと直感的に嫌なものを感じ、皆口を揃えて「死体じゃない?」と言った。途端、その場に居るのが怖くなり足早に引き返すと、その日はお開きとなった。


 後日、好奇心に負け、私たちはあの廃墟を確かめに行った。

 つい数日前の事なので、記憶も新しいはずなのに、同じ道を二三度確かめたが、廃墟はおろか、それらしきものが建っていた形跡すらなかった。


 私たちはあの日、どこに居て何を見たのか。

 後に知ったが、これが「隠れ里」という現象らしい。

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