とちのとき実話怪談集 ~あれ?不思議な体験したんですけど~

とちのとき

実話怪談 全十一話

海辺の家の葬式

 これは、私が怪談好きになるきっかけとなった出来事。


 私が幼い頃、千葉県某所の海沿いに、家族と親戚とで旅行に行った時の事。


 予約した民宿に着くと、昼間は何事も無く楽しく過ごし、夜になると、みんなで花火をしようという事になり、海辺の防波堤の所で花火を始めた。

 しかし、買って来た花火もすぐに尽き、もう戻ろうかとなった。


 花火を見つめていたせいで、目が少しチカチカする。暫くして夜の闇に目も慣れて、手元の懐中電灯と月明かりで周囲が何となくわかるようになった。

 前を見上げると、港の中の海を挟んで、向こう側には小高い山があるのが見える。


 その山の頂上の、その少し上に、何かぼんやり光るものが見えた。

 私が「あれ何だろう?」と皆に言うと、当時はUFOが流行っていた事もあり、UFOじゃないかと、皆が片付けの手を止めその場が少しざわついた。

 しかし、暫く見続けていると、それがそういった類のものではないと思い始めた。


 親戚の一人が、皆が感じていた違和感を口にする。

 「あれ、人みたいに見えない?」

 確かにそれは人に見えた。少し緑がかった青白い光を淡く帯びた人の形がぼんやり浮かんでいる。猫背気味に両腕を力なくだらんと垂らしているのまでわかった。

 それを目で追っていると、それは少しづつ、空に向かって昇って行っている様だった。


 ふと私は、それがいる山の手前に視線を落とした。

 そこには一軒の民家があり、その門の前、その両脇に明かりが二つ。それと白黒の縞の布が靡いているのが見えた。

 子供ながらに、そこでお葬式が執り行われているのだと思った。

 その事を皆に教えると、そこに居た皆が、その民家からあの光る人が真っ直ぐ上に昇っている事を確信した。


 思わぬところで霊魂と呼ぶべきものを集団目撃してしまい、その存在を信じざる得なくなってしまった。

 だが、その時は怖いといった感覚は無く、神秘的な何かを見た様な気持ちだった。

 「魂って本当に成仏すると天に昇るんだね。」などと話しながら、私達は民宿へと戻って行った。

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