第3話 最後の駆け引き

タイムリミットは今日。小早川慎一は、令嬢・一ノ瀬綾香を追い詰めるために全力を注いでいた。前夜の倉庫での接触を掴んだものの、決定的な証拠には至らず、焦りだけが募る。だが、彼は綾香の行動にあるパターンを見つけていた。


「彼女は何か計画的に動いている。それも、今夜が鍵だ。」


捜査本部の誰もが緊張感を共有する中、小早川は最後の作戦を立てた。綾香が頻繁に訪れるという旧い教会が次の現場と睨み、そこでの動きを封じるための準備を進める。


教会での対峙


午後9時、綾香は高級車で教会へと現れた。その背後には、昨日倉庫で接触していた男の姿もある。彼女は薄暗い教会の扉を押し開け、男と共に中へ消えた。


小早川と部下たちはその様子を遠巻きに観察しながら、教会周辺を封鎖する準備を整える。


「まだだ。彼女が何をするか確かめるまで動くな。」


静寂が漂う中、教会内で小早川の隠しマイクが拾ったのは、綾香の冷たく響く声だった。


「これで最後。これ以上警察に目を付けられるわけにはいかないわ。」


彼女が手にしているのは小型のUSBメモリだった。その中身こそ、過激派グループとの資金や指示のやり取りを示すデータだと確信した小早川は、ついに突入を決断した。


「今だ!動くぞ!」


部下たちが一斉に教会内へ踏み込み、綾香と男を取り囲む。だが、綾香は動じることなく冷たい微笑みを浮かべた。


「こんな手段に出るなんて、ずいぶん強引ね。」


令嬢の仮面


「そのUSB、見せてもらおうか。」


小早川が鋭い声で詰め寄ると、綾香はわざとらしくため息をつきながらUSBを手渡した。


「いいわ。でも、あなた方にそれを解読できるかしら?」


USBの中身を確認するため、その場で解析が始まる。ファイルの中には資金の流れを示す決定的な証拠が隠されていた。


「これで終わりだ、一ノ瀬綾香。これがあなたの罪の証拠だ。」


小早川がそう告げると、綾香の表情が一瞬だけ曇った。それでも彼女は冷静さを保ち、最後の言葉を投げかけた。


「罪の証拠?そう思いたいのはあなたたちでしょ。私はただ、家族のビジネスを守ろうとしただけ。すべては、正義のためにね。」


その言葉に、小早川は強い疑念を抱きつつも、令状を取るには十分な証拠を手にしたことを確信した。


最後の逮捕劇


翌朝、裁判所で逮捕令状が発行され、綾香は正式に拘束された。一ノ瀬財閥からの圧力や批判を受けながらも、小早川は自分の職務を全うするため、毅然とした態度を崩さなかった。


「彼女の仮面は剥がせた。でも、本当にこれで終わったのか?」


小早川の胸には、一抹の不安が残っていた。綾香が微笑みながら最後に告げた言葉が、脳裏にこびりついて離れない。


「正義は誰が決めるのかしら?これで平和が訪れるといいわね。」


エピローグ


事件が幕を閉じた後も、小早川は綾香の残した足跡を追い続けていた。過激派グループの壊滅には成功したものの、綾香の真の目的や動機には未だ謎が多い。


「正義とは何か…。それを問うための戦いは、まだ終わらない。」


こうして、令嬢に令状を取るまでの3日間にわたる攻防は、表向きの決着を迎えた。しかし、それはまた、新たな事件の始まりを予感させるものであった。


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令嬢に令状を取るまでの3日間 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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