第2話 消えた証拠
小早川慎一は、令嬢・一ノ瀬綾香に疑いを抱きながらも、現時点で彼女を逮捕する決定的な証拠は何一つない状況に追い込まれていた。彼女の言動には確かに隙がある。だが、それを突き崩すための糸口が必要だった。
「3日以内に証拠を掴む。無理なら全てが水の泡だ。」
捜査本部で小早川は同僚たちとともに作戦を練る。彼女の行動を洗い出すため、尾行と通信履歴の調査を並行して進めることが決まった。
令嬢の影
翌日、綾香が高級ホテルで開かれるパーティーに出席するという情報を掴んだ小早川は、部下と共に現場へ向かった。華やかな会場に集うのは名士ばかり。綾香はその中心で、完璧な笑顔を浮かべながら談笑していた。
「この中に犯人がいるなんて、誰が信じるだろうな…。」
部下がため息交じりに言うが、小早川は目を逸らさない。綾香は会話をしながらも、まるで何かを警戒しているかのように周囲を見渡している。そしてその後、彼女は会場を抜け出した。
「動いたぞ。尾行する。」
小早川はすぐさま部下に指示を飛ばし、綾香の後を追った。彼女はホテルの裏手に向かい、車に乗り込んで移動を開始。車は夜の街を抜け、やがて古びた倉庫街へとたどり着いた。
倉庫街での密会
綾香が向かった先は、人気のない古い倉庫。彼女はそこで待つ男に近づくと、何かを渡し始めた。小早川は距離を保ちながら、その様子を監視する。
「怪しい…。あの男、過激派グループの一員じゃないか?」
部下が小声で言う。確かに、彼の顔はこれまでに記録された過激派のメンバーと一致していた。小早川はカメラでその瞬間を撮影し、音声も録音する準備を整えた。
だが、次の瞬間、綾香が小声で何かをささやくと、男が激しくうなずき、手渡された書類を持ってその場を立ち去った。小早川たちは追うべきか迷ったが、主犯の綾香を抑えることが最優先と判断し、そのまま彼女の動きを監視する。
「これで証拠になるかもしれない…。」
だが、彼女が車に乗り込んで立ち去った後、倉庫を調べた小早川たちは愕然とする。そこには何も残されていなかった。男が運び去ったのか、それとも証拠など最初から存在しなかったのか――。
時間切れの恐怖
その夜、捜査本部に戻った小早川は、撮影した写真や音声を確認し、証拠をまとめようとする。しかし、決定打となるものは何一つ出てこない。
「綾香は確実に何かを隠している…。けど、このままじゃ令状は取れない。」
さらに追い打ちをかけるように、上層部からは「財閥を敵に回すような行動は慎重に」という圧力がかけられていた。小早川は焦燥感に駆られながらも、諦めるわけにはいかなかった。
「明日が最終日だ。必ず彼女の化けの皮を剥がしてみせる。」
彼はもう一度、綾香の行動を追うための計画を練り直すことを決意する。
次回:第3話「最後の駆け引き」
タイムリミットが迫る中、刑事と令嬢の攻防は最高潮に――果たして真相にたどり着けるのか。
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