第39話 砂漠に村ができた

「コーキ、村ができちゃったよ……」


 アプレンテスに作った規模と同程度の村が、砂漠に完成していた。


 砂漠緑化活動は、一ヶ月を要している。


 世界樹の力を持ってしても、ボクの見える範囲しか緑化は進まなかった。

 全ての砂漠エリアを緑に変える必要はない。


 それでも、村として生活できるレベルにまで、土壌は復活している。


 ボクの身体から生えた苗を、植林しただけだというのに。


 ゴーレム製の苗は、植えたら一晩で急激に成長する。

 その効果があったとしても、かなりのスピードだ。


「かつて魔王は、『一面を砂漠にすれば、王都も攻めてこられまい』と、思っておったという」


 朝ワインを飲みながら、賢人クコが語る。もう、誰も朝酒にツッコまない。


「クコって、魔王がいた時代にも生きていたの?」


「いや。ワシが産まれたころには、もう魔王は滅ぼされておった。コーキがその時代にいたら、活躍しておったろうな」


 植林で活躍する、冒険者って。

 

「いや。すぐに捕まって、燃やされて終わりだろうね」


「とんでもないっ。キミが産まれているってことは、ワタシだって生きているわけだからね。ワタシがキミを全力で守るよっ」


「ありがとう、パロン」


 他の森や林から、動物たちが元砂漠に戻ってきている。


 とても、魔王の領地だったという面影がない。

 

「さすがに砂漠に森なんて作れないと思っていたけど、やればできるもんだね」


「コーキの地道な努力の、おかげだよ」


 最初の一週間は、とにかく日差しを避けることに専念した。日よけのために植林し、少しずつ緑を増やしていく。


 大型犬くらい大きなシロアリが、ゴミや下水を食べて分解し、土地に豊富な栄養分を与える。地下に巣を作って、土壌に雨水を定着させるのだ。


 雨が降ってくるまで、ずっと別拠点のため池から水をこちらへ流し続けたけど。


 とにかく砂漠に植林して、安全に進めるようになってから、大渓谷へ出発することにした。


 その結果が、この拠点の完成である。


 おかげで、強烈な日差しも気にならない。


「雨が降ってきたときは、感動したよね」


「うむ。しかし、シロアリの被害も大きいのう」


 パロンとクコは、今後の緑化活動に懸念を抱いているようだ。


 シロアリたちは、ボクたちがせっかく植えた木々も、食べてしまっている。

 数%の樹木が、シロアリに食べられて空洞になっていた。


「大丈夫。それも想定済みだから」

 

 ボクはあえて、多めに木を育てているのだ。シロアリに、食べてもらうため。


 シロアリに分解してもらうことで、土壌に栄養がいきわたる。


 それを利用するため、ゴミや下水以外にもエサを用意したのだ。

 

 気がついたら、ボクが見ていなくても勝手に土壌が再生していた。王都まで、無事に植林が進みそうである。

 シロアリによる土壌再生効果に、植林が追従していた。

 ボクの身体から生やした木を植えているから、魔力も土に染み込んでいる。

 

 こういった地道な作業が、王都へとつながっていくのだ。


 ボクの目的は、王都への道をアプレンテスに作ることである。

 クレキシュ大渓谷の攻略なんて、後でいい。まずは拠点を作って、いつでも引き返せるようにする。


 王都への道づくりは、ボクの使命だとも思えた。おそらく、ボクにしかできない。アプレンテスを緑の生い茂る大地にしたボクなら、この砂漠だって通り抜けられるだろう。


「これでもう、砂漠地帯は安全かな?」


「そうだね」


 王都側についたら、そちらにまた植林していこう。


 ボクたちは、木馬を走らせた。


「うわ早いっ! 早いっ!」


 スポーツカー並みに爆速なんだけど!?

 いくら土が固くなって走りやすくなっているとはいえ、このスピードはないんじゃないの!?


「コーキの魔力が、無尽蔵になっているんだよ」

 

 上空から、パロンが超加速で追いかけてくる。


 スピードは上がっているが、植林のスピードはそれより高かった。ボクが進む道のりに先回りして、樹木が生えてくれる。

 おかげで、直射日光も気にならない。

 

 我ながら、とんでもない成長速度だ。


「レベルが上がるごとに、キミの魔力も膨れ上がっているからね。コーキの可能性は、無限大だよ」


 この成長度合いが、クレキシュ渓谷にも通じるといいけど。

 

「コーキ、見えてきたよ」


 木馬で一気に駆け抜けたからか、まる一日でクレキシュ渓谷郡に到着した。



 よくゴーレムたちも、水場を作りながら追いつけたな。彼らのほうがすごいかも。

 

 渓谷は、一面砂に包まれた渓谷だ。ここから先は、草が一本も生えていない。ずっと、嵐が吹き荒れている。せっかく引いている川も、砂で埋まってしまった。


「あそこを立て直せたら、道はもっと近くなるし、森も潤うんだけどね」


 とはいえ、川が枯れていて、アプレンテスまで水が引けない。


 渓谷に入る前に、水場を確保する。この場所に、緑を増やすためだ。


「よし。地下水作戦だ。ゴーレムはここで待機。ため池を作っておいて」


 ボクが作ったマッドゴーレムと、パロンが作ったクレイゴーレムに、それぞれ指示を送る。ダンジョンの探索にまでは、連れていけないからね。


 クレイゴーレムは丁寧にも、池に囲いまで作ってくれた。これで嵐で水が埋まってしまう心配はない。

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