第四章 クレキシュ大渓谷と、魔王の元配下アルラウネ
第38話 砂漠地帯を……越えず緑化!
荒野アプレンテスから、水を引きつつ馬車を走らせる。
いつもより、道路の設置が早い。
馬車に土地を耕す能力と、道路を設置する魔法を施しているからだ。
「キミって、なんでもできるね。荒野に石畳を敷くわ、その周りに川を通すわ、と」
大きなハトに乗って、パロンは空からボクについてくる。空から来るカラスの魔物を、蹴散らしてくれているのだ。
「できることをやっているだけだよ」
スピードは上がったが、さすがに魔力の消耗がとんでもない。
走っては休憩し、走っては休憩を繰り返す。
「ここで一旦、キャンプにしないかい?」
「そうだね。拠点を作ろう」
ボクはただテントを張るのではなく、簡易型の休憩所を設置する。そんな休憩所を、ボクは各地に作っておいた。
「こうしておけば、他の冒険者も利用できるね」
「うむ。旅でのんびり酒も楽しめる」
賢人クコが、ワインを煽っている。こういう光景も、久々だ。
休憩所は、ボクが使うだけじゃない。冒険者たちも、砂漠越えが待っているのだ。どこかに休める場所がないと、消耗しすぎてしまう。
「大丈夫かい? 一週間で結構進んだけど、まだまだ先は長いよ?」
「そうだね。このポイントは、ちょっとだけ休憩所を大きめにしようか」
いくらなんでも、ハイペース過ぎた。
「村サイズまで、大型の休息ポイントにしよう。
川の水を溜めておく池を作り、馬の水飲み場としても使ってもらおうかな。
「あっちには、なにかある?」
池の水が溢れ、西の方角へ流れていった。
「村があるよ。あそこの川魚が、うまいんだ」
なら、お魚もこっちに来てくれるかも知れない。
「ここから砂漠が待っているんだよね? パロン」
「そうだよ。危険だから、慎重に行こう」
翌日、池に大量の魚が泳いでいた。近隣の村から、流れてきたのだろう。
「これで、朝食にしよう」
川魚を焼いて、みんなで食べる。
「ありがたいね、コーキ! 砂漠が近いってのに、川魚が食べられるなんて!」
「くうう、酒が進む!」
賢人が、朝から酔っ払いリスになっていた。
「クコ。朝っぱらから飲んでたら、威厳をなくすよ?」
「構わんわい! こんなうまい魚には、酒しか勝たん」
ボクは飲めないけど、そういうものなんだろうか?
どちらかというと、ボクはおコメがほしいなあ。
お腹がいっぱいになったところで、出発する。
しかし、疲れが抜けていない。
荒れ地はマッドゴーレムがほぐしているが、石畳はボクの魔力で作っているからだ。馬車を走らせつつ石畳まで敷くっていうのは、無謀だったかも知れない。
しかも進むと、砂に足を取られ始めた。
「あれ?」
砂に、石畳が埋もれてしまう。
とうとう、ここまできたか。
「見てよコーキ。ここが多くの冒険者たちを断念させた地帯、灰色砂漠だよ」
視界一面に、砂漠が広がっている。
クレキシュ大渓谷までの道のりで最もキツイと言われている場所までたどり着いた。
「すごい。一面が灰色だ」
サビ色というか、灰茶色の砂がどこまでも広がっている。
「作物が育たなくてさ。水もないから、オアシスも作れないんだ」
砂漠の砂が盛り上がって、モンスターが現れた。シロアリだ。
「というか、デカいな!」
「【マンモスシロアリ】じゃぞい!
賢人クコが、臨戦態勢を取る。
さすがファンタジーナイズされている。いかにも魔物という感じで、大型犬くらい大きい。
「戦うよ、コーキ!」
パロンも戦闘態勢に入った。
だが、ボクは構えない。
「いや、倒さなくていいよ」
ボクは砂漠を越えることより、大事なことをしようと思う。
キャンプを設置して、座り込む。
「戦わず、シロアリのエサになるつもりかい?」
「まさか! 見てごらん」
ボクはシロアリに向かって、アイテムボックスから大量のゴミを放出した。
巨大シロアリたちが、ムシャムシャとゴミを食べ始める。
「それは、なに?」
「魔物の死体とか、食べかすだよ」
他に、マッドゴーレムを使って下水を砂漠まで流してもらっていた。
ゴーレムに頼んで、下水を砂漠の手頃な場所から拭き上げてさせる。
ボクは行商人さんから、売れ残った装備の在庫や空のポーション瓶などを、買い取っていた。
その装備たちも、砂漠一面に放り込む。
強烈な砂漠の日差しを、皮のヨロイや手甲が遮っていた。
「装備品に、こんな使い方があったなんて!」
更に魔物の死体やゴミをばらまいて、砂漠地帯の砂を腐らせていく。
「ゴミで凸凹になっているから、土壌や水が集まっているよ! コーキ、すごいすごい!」
興奮したパロンが、ボクの肩を揺さぶる。
「本当にすごいのは、これからだよ」
ボクはあぐらをかいて、地面に魔力を注ぎ込んだ。
水を伝って、ボクの魔力が植物の成長を促す。
そうすると、植物が生えてきた。
「コーキ、すごい! キミはどんな魔法を使ったんだい?」
「ボクの力じゃないよ。砂漠を緑に変えた人が、前の世界にいたんだよ。その人をマネしただけ」
ゴミを砂地に集めて砂漠を緑化させた、日本の大学教授でがいるのだ。
その人の技術を参考にして、試してみたのである。
「すごいね。どんな錬金術より、立派なお仕事だよ」
「一応、準備はしておいたんだ」
いずれ、砂漠地帯を緑化する必要があるかも知れない。
ボクはそう思って、作戦を練っていた。
「この地帯を、緑で満たせるといいね」
砂漠越えは、後でもいい。
とにかく王都から来る人のために、道を促してあげないと。
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