第37話 クレキシュ大渓谷

 ガルバのいう、クレキシュ大渓谷とは、なんだろう?


「クレキシュ大渓谷ってのはね、アプレンテスの中心にある、険しい山岳地帯だよ。水がなくなって久しいから、調査のしようがなかったんだ。どうもアプレンテスの魔物たちは、あそこから集まっているらしい」


 なるほど。だとしたら、ボクが行くのが適任かも。


「ただコーキ、行くのは危険だよ。一面が灰色の砂漠だからね。ホントに水がないし、日光からの逃げ場もないよ」


 よほど過酷なんだね。

 

「この村のことは、チェスナたちに任せよう。その間にワタシたちは、ダンジョン巡りだ」


「ダンジョンとな、パロン。クレキシュ大渓谷の?」


「そうだよ」

 

 ボクたちは、賢人クコにダンジョン探索すると告げた。


「うむ。ワシも行こう。あの辺りは、太古の遺跡もあるそうじゃ。ワシの知識が、役に立つかもしれん」


「大昔、あそこには人が住んでいたの?」


「詳しいことは、ワシにもわからぬ。とにかく、共に行こう」


 クコが、ボクの肩に乗る。


「とかいって、お酒が飲みたいだけじゃん」


「なにをいうか。ワシは酒のために生きておるのだ」


「賢人として、あるまじき発言だね」


「悟ったのじゃ。あらゆる生き物は、欲望に忠実に生きることで喜びを得るのだと」


 まったく悪びれることなく、クコは断言した。


「ごまかしたってムダだよ。よくそんな生き方で、今まで賢人としてやってこれたよね?」


「清貧や極度につましい生き方など、限度があるというわけじゃ。極端な贅沢を咎める風潮もあるが、欲望を開放せずして何が生きがいか。注意すべきは単に、度が過ぎる浪費の方なのじゃ。『足るを知る』というのは、働きたくない者たちが作った、怠けるための方便じゃて」


 クコの言葉は深いようで、めっちゃ浅い。


 とはいえ、否定できない一面もある。ミニマリストって生き方もあるけど、節約が好きな人がやればいい。


「まあ、否定はしないけど」


 パロンは、辺りを見回す。

 

「まだワタシにも、ここの生態系がわかっていないんだ。どんな薬草が育ち、どれだけ数が増やせるのかわかってから、本格的に栽培をしたいね」


 今はメイズさんたちが率先して、作物を植えてくれている。


 だが、ちゃんと育つかはわからない。


 そのためにも、ダンジョンの素材は気になる。行商人たちの安全も、確保したいからね。


 クレキシュを安全圏にして、王都への足がかりにしたいのもある。


「じゃあ、池の水も、渓谷まで引いていこうよ。岩だらけで、きっと干からびているよ」


「いいね。生態系に問題なければ、引っ張ってこよう」


 出発は、明日になった。


「なんのお話?」


 ガルバの奥さんであるドナさんが、話に入ってくる。


「……というわけなんだ」

 

 さっきのクコと話していたことを、ガルバたちにも話す。


「せっかくみんな集まったのに、またお出かけなの?」


「まあまあ、母さん。冒険者ってそういうものだから」


「あらあ」


 ボクが旅に出ると言ったら、ドナさんが残念がった。

 

「うむ。クレキシュ渓谷郡か。オレたちもついていこうか?」


「それなんだけど、ボクたちだけで行こうと思う」


 ガルバたち人間に、砂漠越えは辛いだろう。王都の騎士たちでさえ、しんどいらしいし。


「二人には、チェスナを警護してもらいたいんだ。チェスナ一人でお店を回すのは、大変みたいだし。ドナさんも、自分の畑で作業があるからさ」


 今のところ、村のみんなを守れるレベルの冒険者は、ガルバたちが適任だ。

 例の行商人さんたちもいるが、チェスナを守れるかどうかは疑問である。


 ガルバを置いていくのは、彼らのナンパ除けもあるし。


「正式な依頼なので、お金を用意したよ。これは前金です」


「アイテムも装備も、売り物だろうと好きに使ってくれていいからね」


 ボクとパロンで、お金を出し合う。


「ありがとうよ、パロン。チェスナは任せてくれ」


 翌日の早朝、ボクは渓谷へと向かうことに。


 うれしいことに、チェスナがボクたちにお弁当を作ってくれていた。我が村で育った野菜を挟んだ、サンドイッチである。

 

「コーキさま、パロンさま、クコさま。お気をつけて」


「心配しないで、チェスナ。行ってくるね」


 ボクは、お弁当を受け取った。


 さて、渓谷に向かうわけだが。


「コーキさあ、めっちゃレベル上がってない?」


「うん。トーテムのレベルが、勝手に上がってるんだ」


 トーテムは、ツリーイェンの街までにも立てている。そのダルマたちが戦ってくれているから、ボクのレベルもかなり増えた。

 強くなりすぎたのか、成長は遅くなっている。それでも、プラス五くらいは上がっているかな。

 


― ■ *** ステータス表 *** ■ ―



 名前 コーキ


 

 レベル 二一


 

 各ステータス


【体力】  

 六九


【魔力】  

 一〇八


【素早さ】 

 三九 



 残りステータスポイント 


 〇



― ■ ************** ■ ―


 

「スキル振りも、しておこう」


「うん。考えたんだけど、自分で馬車を作れたらいいなって」


「いいね!」



 ― ■ *** スキル表 ***** ■ ―


 ●戦闘用スキル

 


【ソーンバインド】  

 七


【召喚】       

 六


【ロックスロー】   

 四


【アタックトーテム】 

 一〇



 ●生産用スキル

 

 

【クラフト】     

 一〇


【探知】       

 六


 


 残りスキルポイント 


 〇



 ― ■ ************** ■ ―



 クラフトのレベルを一〇まで上げて、【木馬】の馬車を作成できるように。


 ボクは枯れ木に触れて、【木馬】を作成した。ボクの魔力を注ぎ込み、樹木を活性化させてから、木馬へと変形させる。


「これで、馬も必要ないね」


「うまくいくといいけど」

 

 木馬にまたがって、魔法を注ぎ込んだ。


 目が光って、木馬がカクカクと動く。


「じゃあパロン、スピードを上げるよ!」


 ボクは、馬車を走らせた。



(第三章 おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る