第36話 移住者が、続々と
この農民さんたちは、なんと移住希望者だという。
農民さんは、家族だけじゃない。作業服を来た男女も、たくさん引き連れている。
なにより驚いたのは、一番後ろにいる牛の群れ。肉牛も、乳牛もいる。
「いいのかい? ここはいくら豊かになったといっても、アプレンテスだよ。あのアプレンテスだよ?」
パロンが尋ねると、「構いません」との言葉が、農民さんから返ってきた。
「新しい農法の研究ができると聞いて、伺いました。アプレンテスで作物を作ったことにこそ、意味があるのです」
どうもこの人たちは研究職であり、新種の作物を開発することに熱心なのだとか。
「アプレンテス産の変わった作物が作れたら、市場も新しくなります。そうなれば、コラシェルはさらに発達するでしょう」
「コラシェルから。ティンバーさんから話を聞いたんですか?」
冒険者から情報が伝わったのか、ティンバーさんが移住希望者を募ってくれたという。
ちなみにコラシェルの酒場では、ボクが作り方を教えたチリビーンズが大反響だそうな。
「はい。コーキさんという方を訪ねよ、と。メイズです。家族ともども、よろしく」
「ボクがコーキです。よろしく」
農民のメイズさんと、ボクは握手を交わす。
「どの土地なら、利用できますか?」
「手頃な場所なら、どこでも。ただ、あまり遠くへは行かないように。魔物が出ますので」
「わかりました。コラシェルに近い南の方角へ、畑を作らせてください」
「おねがいします」
メイズさん一家はさっそく、作物を作り始めた。
ちなみに作業員さんは、みんなメイズさんの身内なのだとか。
その後も、続々と移住希望者がやってきた。
コラシェルだけではなく、ツリーイェンや近隣の村からも。
ボクたちは移民希望者に畑を提供して、住んでもらう。
メイズさんのおかげで、酪農までできるようになったのは、うれしい。
「活動範囲を広げたほうが、いいかもね」
商売を発展させるなら、近隣とも交流したほうがいいだろう。
「遠征しよう。アプレンテスが平和だと知ってもらわなきゃ」
パロンとともに、遠方の村へも出向いた。
薬草やポーションを売って、村の名産品を受け取る。
知らないダンジョンもあって、ガルバたちを連れてそちらの探索も行った。
アプレンテス初のダンジョンへ。だが、敵は変わり映えしない。いつもの巨大カマドウマである。
「まさかオレたちが、アプレンテスのモンスターを倒せるまでになるとは」
「コーキさんについてきている、おかげですね」
これまでの戦いで得た装備品などで、ガルバやアザレアも強くなっていた。
最奥にいたモンスターを撃退する。こちらも、カマドウマの色違いだった。
「パロン。どうしてモンスターが、エプロンなんて持っていたんだろう?」
「さあね。捕まえた女性に、着せるためじゃない?」
モンスターって、そんな趣味を持ってるの?
「パロンが着てみる?」
「いらないよ、そんなの。ワタシは研究職であって、料理人じゃないからさ。こっちの白衣をもらうよ」
パロンは、白衣型のローブを身にまとう。
「エプロンは、チェスナに着せてもいいかもね」
チェスナの方は、すっかり着せ替え人形みたいになっている。
「お嬢ちゃん。これは【ゴシックドレスアーマー】と言ってね。キミのような小さい体型の子でも、全身を守ることができる」
なんでも、行商人さんが自分で開発した装備らしい。すごい探究心だな。
「てめえの趣味全開で、装備品に金かけてんじゃねえよ」
「うるせえな。チェスナちゃんを守るためなら、金なんて惜しまねえよ」
この間に来た行商人が、チェスナのためにチョイスした衣装をリクエストするように。
ボクたちも、装備品の中でも使えそうにないものは、チェスナの衣装にした。
「でも、増え過ぎだね」
どれだけ増えても、アイテムボックスのおかげで皺にならずに済んでいる。けど、多すぎだ。
「そうだ、きせかえ用のゴーレムでも作ったら? チェスナだけだと、従業員が足りないよ」
たしかに。チェスナは計算も得意だけど、最近は雑用なども増えてきた。
「ゴーレムの作業員が増えても、いいかもね」
簡単な袋詰作業などを、任せる。ポーション作りは、さすがに頼めないけど。
チェスナのために色々としてくれる居住者は、他にもいた。頻繁にチェスナのお店に来ては、野菜やお肉を分けてくれている。
あの子のちっこさは、庇護欲を掻き立てるのかも?
とはいえ、妙なことも。
村人の作物は、育つのに通常の時間がかかる。
ボクが作ると、一晩もしないで育つのに。
「まあ、そんなもんだよ。ワタシたちは魔力を使って、強制的に育てているからね」
「そっかぁ」
普通の人に、そんなマネはできない。
それにして、すごい人の数だ。
アプレンテスに、これだけの移住者が集まってくるなんて。
アザレアたちが、ドナさんを連れてきた。ガルバの奥さんである。
「コーキさん。またお世話になるね」
「よろしくおねがいします」
ガルバたちの拠点も、こっちに移すようだ。
「これなら、王都からも人が来るかな?」
ボクが言うと、ガルバは首を振る。
「王都から、人は来ねえだろうな。クレキシュ大渓谷を、超えなければならんし」
クレキシュ大渓谷?
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