第35話 チェスナ効果
「パロン。楽器類は、どうしようか?」
「店の前に、置いておくよ」
イスにギターを立てかけ、ウッドゴーレムの手を添えつけた。演奏するだけなら、腕だけでいいからね。
「太鼓ゴーレムの隣にいてもらって、スイッチオン」
ゴーレムチェアが、演奏を始める。
「ああ、いいね」
「気持ちが晴れ渡るよ、コーキ」
絵面はともかく、癒される。演奏は営業時間外だと終わるため、夜でもうるさくない。
「どんどん、村っぽくなってきたね」
家もレンガ造りになって、より住心地がよくなってきた。
自前で泥からレンガを作っていた頃より、家も丈夫になっている。
貯水池に、魔物が集まってきた。水を求めに来た動物を、狙っている。
しかし、動物たちは種別を問わず、一斉に魔物を撃退した。
「動物でも、魔物を倒せるんだね」
「集団ならね」
魔物の死体は、マッドゴーレムが地面へと沈める。
木もかなりの量が育ってきたので、ゴーレムを大量に増やす。腐葉土に植えた大木の、周囲を掘ることにした。動物が飲みに来やすいように、広く浅く掘り進む。彫り作業はウッドゴーレムが、石ころで池周辺を固めるのはマッドゴーレムに任せた。
ゴーレムたちの動力は、モンスターの落とした魔法石を使う。自分たちで魔物を倒して魔法石を取るから、ボクの出番はない。
続いて、ガルバたちの様子を見に行く。
ガルバたちも、自分たちの家を作っていた。いずれ、アプレンテスに居を構えるつもりらしい。
余った家具類は、ガルバたちに提供した。
「三面鏡! これあこがれだったんですよ!」
アザレアが、三面鏡にウキウキしている。冒険者といえども、やっぱり女の子なんだね。
「すごく便利です! 髪留め型のアミュレットって、つけにくかったので!」
あーっ。そっちかー。やっぱりまだ、冒険者なんだろうね。
「ありがとうよ、コーキ。オレでは、女の趣味がわからなくてよお」
三面鏡をもらって、ガルバが礼を言ってくる。
「ボクも、わかりませんよ。これから、勉強するつもりです」
役に立つかどうかは、わからないけど。
「ところでさ、パロン。移住者が集まってきたらさ、税金とかどうしよう?」
ボクは、パロンに相談する。
「だよな。ここって、コラシェルの領地なのか、王都の所有なのか。わかんねえのか?」
「うーん。まだ、魔王の領地なんじゃないかな? もう魔王はいないから、税金を取り立てることはないだろうね」
とはいえ、この土地が大きくなったら、税金の取り立てとかが始まるかも知れない。
トラブルは起こしたくないから、できるだけ対処をしたいけど。
「後で考えたら、いいんじゃないかな?」
「そうだね」
人が集まってから、考えよう。
「ところでクコ。ワタシたちがコラシェルに行っている間、お客さんは来たのかい?」
「うむ。冒険者が、ちらほら。他には、村人が数名」
シドの森の看板を見てくれる人は、いたようだ。まだ浸透していないとはいえ、これから繁盛させていきたいな。
「ほほう。ポーションの値段は、しっかり勘定していたみたいだね」
「任せい。酔っておっても、計算程度はできるわい」
「ワタシはクコ接客できるかを、心配していたんだけどね」
「接客態度に関しては、目をつぶってもらうしかないのう」
仕方がない。ここは、チェスナにがんばってもらうのがいいね。
翌日から、チェスナの接客が始まった。
ガルバとアザレアは、一旦ツリーイェンに戻るそうだ。奥さんを、アプレンテスまで連れてくるらしい。
チェスナがカウンターに座ってそうそう、冒険者が。男魔法使いと女戦士のペアだ。
「パワーアップポーションを二瓶と、服用型の薬草粉末がほしいわ」
「かしこまりました。合計で、小銀貨一枚です」
一瞬で計算をして、チェスナは商品を女性の冒険者に渡した。
「ありがとうよ。お嬢ちゃん」
男性の冒険者が、チェスナに手を振る。
「ちょっと、見とれ過ぎじゃない?」
「いてて!」
女性戦士が、男性魔法使いの頬をつねった。
チェスナって、人気出そうなのはわかる。
また、冒険者がやってきた。
「カワイイ子がいると聞いて!」
男性ばかりの冒険者が、二〇人組である。どこかに遠征にでも行くのかな?
「おい、押すんじゃねえよ! あっ、こんにちはお嬢さん。ヒールポーションを二〇人分」
行商人らしき男性が、チェスナに問いかける。
「大銀貨、二枚になりますね」
「おうよ。それと、オススメってあるか?」
冒険者から尋ねられて、チェスナは「そうですねえ」と棚を調べ始める。
その後姿にさえ、冒険者たちは見とれているようだった。
「動物を誘う匂い袋と、魔除けの鈴がございますね」
「ぜひ買い取りたい。こちらは魔物がドロップした武器と防具があるので、交換もしてくれるかな?」
「はい。しめて、大銀貨一枚となります」
売り物の装備品を目利きして、チェスナは売り物の値打ちとの差額を計算する。
「ありがとう。いい買い物ができたよ。じゃあな!」
マジで、チェスナが目当てだったみたいなんだよなあ。
その後、チェスナの人気はうなぎのぼりとなった。いまや男性のお客さんが、ユーザーの七割を占めている。
中には、お客さんではない人も。
「あのーっ、この土地の責任者は、どなたになりますでしょうか?」
農民風の男女が、子どもを連れてボクたちに語りかけてきた。
「どういったご要件で?」
「移住したいんですけど」
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