第34話 ウッドゴーレムと、レンガのおうち作り
「コーキとはこの姿で会うのは、初めてだな! オレはブナ! 今はクコに変わって、森の管理をしている」
「人間になれたんですね?」
言葉も話せるとは。
「この体型は、しんどいんだけどな。イノシシが街を歩くわけにはいかん」
ブナさんが、ガハハと豪快に笑う。
「クコがいなくなって、森はどうですか?」
「ああ。心配はないさ。シドの森とこっちは、川でつながってるだろ?」
たしかに。
ブナさんの肩に、小鳥が止まった。
「こいつらは、シドの森からオレサマがつかわせた連絡係だ。けどよ、こっちにずっと居座ってやがる」
この鳥たちは仕事を放り出して、ボクが植えた果物に夢中になっちゃったらしい。
「いつまで経っても帰ってこねえから、オレが直接で向いたんだ。で、今クコと飲んでる」
老人とレスラー中年が、お酒を酌み交わしている。元はリスとイノシシだけど。
「あの鳥どもは、こっちで見ていてくれ。巣まで作っちまったから、もう森には帰ってこねえだろう」
「ですね。そうします」
引き続き、ブナさんとクコが酒を酌み交わす。
「そうそう。いい忘れていた。木を、あらかた持ってきてやったぜ」
よく見ると、大樹の周りが森と化していた。木はどれも、種類が違う。とはいえ、ケンカする気配もない。
「ホントに、こっちの植物は育ちが早いな。あっというまに根付いちまう」
「大樹のおかげですよ」
ボクがやったわけじゃ、ないよね?
パロンは、ボクの力だと思っているみたいだけど。
「じゃあ、オレは森に帰るぜ」
「また、酒を酌み交わそうぞ」
立ち上がって、ブナさんがクコに「おうよ」と頭を下げる。
「こちらこそ、いい木をありがとうございました」
「いいってことよ。こちらも、うまい酒をありがとよ」
ブナさんは、イノシシに戻って猛スピードで帰っていった。
「あの着物姿のおっさん、イノシシだったのか」
「森のヌシともなると、変化の術を持っているんだね」
ガルバとアザレアたちが、眼の前の光景に圧倒されている。
「それにしても、ここは実際にアプレンテスなんだよな?」
「荒れ地だって聞いていたけど、座標的にアプレンテスで合っているよ」
アザレアが方位磁針を持ちながら、ガルバの疑問に答えた。
「ホントに、ここはアプレンテスだよ」
「ああ。コーキはマジで、神の使いだろうな」
「そんな大げさなものじゃないよ」
ボクは、ただのウッドゴーレムだ。
「さて、こっちも準備しよう。みんなのおうちを建てないと」
木材で家を立て、家具を設置していく。
スキル欄から、ボクは【レンガ技術】を取った。これでようやく、レンガの家が作れる。街に出て最大の収穫は、これかも。大きい街でないと、買えないスキルだったんだね。
砂と岩と泥、これにワラと、港町で分けてもらった貝殻を混ぜた。
レンガの元を、水でよくこねる。本来は日干しするらしいけど、魔法で水分を飛ばす。これで大幅に、時間が短縮できた。
石で作ったかまどで、焼いていく。かまどを大量に作って、とにかくレンガを作っていった。
かまどを組んではレンガを焼き、そのレンガでさらに丈夫なかまどを作成する。
「チェスナ、組み上げていって」
「はい」
パロンのお店と連結させる形で、ボクはスペースを作った。
自分の家として使ってもらうため、レンガの家はチェスナに組み立てていってもらう。
「お店を兼ねた、居住にしようね。内装は、パロンから指示を受けて」
「わかりました」
本来スキルなんてなくても、レンガくらいなら作れる。作り方も、動画サイトで知っていた。みすぼらしくていいなら、時間はかかるが作れるのだ。
実際、岩山のてっぺんにある家は、手作りレンガと土壁で作り直した。木造住宅は、ティンバーさんに壊されちゃったから。
しかし今回ボクが作るのは、他人のお店だ。ちゃんとしたものを作らないと、信用に関わる。また、壊れる可能性も。スキマがあって雨風をしのげないとなると、目も当てられない。なんのためのレンガなのかと。
「組み上げました」
チェスナが、自分のおうちを完成させたみたい。
ちゃんとモルタルも機能して、レンガが接着している。古代ローマ時代から、モルタルの材料であるセメントってあったらしいし。
「すごいな、チェスナ。よし、パロン。内装を手伝ってあげて」
「わかったよ。じゃあ、お邪魔するね~」
チェスナの家に、パロンは入っていった。
ボクも、あとに続く。
家具類はベッドと、押し入れと引き出し。三面鏡など。女性に必要なものなんて、ボクだけだと思いつかなかったよ。
そういう意味では、パロンも怪しいけど。
キッチン用のかまども、セットした。
アザレアが、チェスナに夕食の料理を教える。以前にボクが作った、水炊きだ。
「はああ。これ、快適です」
夕飯の後、チェスナはベッドに横になった。
「よかった。喜んでもらえて、うれしいよ」
「ありがとうございます。コーキさま、パロンさま」
「いえいえ。その代わり、バリバリ働いてもらうから」
「はい。家を建てて、ちょっと疲れました」
ゴハンも食べずに、ぶっ続けだったもんね。
「チェスナは、ちょっと休んでて」
ボクが告げる前に、チェスナは寝息を立てていた。
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