第33話 ウッドゴーレム、楽器を買う

「いいんじゃないか? あの街に一番必要なのは、潤いだと思うし」


 安いリュートや、練習用のチェロなどを買う。

 

「演奏用のゴーレムって、作れないかな?」


「それはいいね。店の前でずっと音楽を鳴らしてもらおう。娯楽職で【吟遊詩人】を取れば、自分で演奏もできるよ」


 この世界の住人は、戦闘職、生産職の他にを【娯楽職】を選択できるという。吟遊詩人の他には、【踊り子】や【旅芸人】が該当する。


 いわゆる、職業欄自体がフレーバーみたいなものだ。


「吟遊詩人も、戦おうと思えば戦えるけどね。歌で味方を鼓舞したり、相手を歌で無力化することも可能だよ」


「すごいね。ボクは、歌で戦闘に貢献する発想はないかな」


「シャーマンにも、【ウォークライ】があるからね。歌と踊りで、味方を鼓舞できるから」

 

 ボクはシャーマンだけど、戦闘をメインにしていない。戦闘はもっぱらマッドゴーレムやトーテムが頼りだし。【吟遊詩人】を取っても、問題はないはずだ。


「別に自分でセットしなくても、ゴーレムに職業のスキルを付与できるよ」


 楽譜をゴーレムに混ぜれば、記憶させることができるらしい。


 そんなこと、できるんだ。


「音楽さえできれば、いいからね」


 簡単な楽譜も、買っていく。


 家具は作ることにしたから、こういったゆとりも出てきた。


「ありがとうございます」


 いい買い物が、できたな。


 そういえば、チェスナの方はどうだろう?


「ちょうどよかった。コーキさん。ただいま帰りました」


 アザレアたちが、チェスナを連れて帰ってきた。

 屈強なガルバもいるから、ナメられることもなかっただろうし。


「あ、あの、よろしくおねがいします」


 チェスナの服装が、町娘さん風に変わっていた。


「おお。おしゃれ」


「そうなんです! チェスナちゃんって商人さんだからか、服装のチョイスが他の方と違うんですよね。仕立て屋さんでも、しっかり指示を出していました」


 アザレアが、当時を語る。


「商人は印象が大切だと、両親から言われていましたので……。わたしは、ぜいたくを言える立場ではありません。仕立てていただいたお金も、ちゃんと返します」


 しっかりしている子だな。


 ずっと、アプレンテスに住んでもらうんだ。ここは、遠慮なんてしてほしくない。


「そのお洋服は、ボクについて来てくれたお礼として、差し上げますっ。アザレア、お代を教えて」


「これくらい、かかりました」


「はい。じゃあアザレア、どうぞー」


 ボクは、アザレアにお金を払う。


「すいません。どうお礼を言っていいかどうか」


 まだ、チェスナは謙遜している。


「チェスナ、キミにはめっちゃ働いてもらうから。このお洋服をあげたって、元が取れるかなーってくらいなんですっ」


「そんなに、忙しいんですか?」


「おそらくだけど、想像以上に大変かな。パロンの薬局って、人気だからね」


 ツリーイェンや近隣の村にポーションを届けたけど、すごい値段で売れたからなぁ。


 ボクが現れたことで、アプレンテスの生態系も変わっている。新しい品種の薬草だって生えているだろう。パロンによるよ、土の構造が変化しているらしいし。

 

 ポーションを作るとなれば、値段の調整にも時間がかかるはずだ。

 

 パロンの計算は、アバウトなどんぶり勘定である。しつけてくれる人が、ほしい。


「そういった事情でしたら、めいっぱい働きますっ。よろしくおねがいしますっ」


「武器防具類も売っていく予定だから」


 値段の相場とか教えてもらえると、ボクとしても助かる。


「わかりました。なんでもお申し付けください」


「それと、家事は一切しなくてもいいようにするからね。家事用のウッドゴーレムを作るから」


 ボクはアザレアの持っていたレシピ本を、ゴーレム用に転写しておいた。最初からこうしておけば、よかったね。


 

 帰り道は、買った武器類で【アタックトーテム】を作ってみた。より攻撃的になったぞ。


 だるま落とし型トーテムポールを、灯りの隣に。外側と内側に、一八〇度ずつ見張る感じだ。ボクの身体だけで作っていたけど、本物の武器を素材にしてある。強いトーテムに仕上がっているはずだ。強い武器で作れば、より強いトーテムができあがるだろう。


 灯り自体も、攻撃できるように作り直す。魔除けだけだと、遠方から壊されることもあったからだ。実際にタイホウガニとかは、トーテムを攻撃していたし。


「おお、ちゃんと働いているよ」


 敵味方を識別できるってのが、いいね。


「ワタシの店の広告看板までつけてくれるとか、ありがたいね」


「商売は、知ってもらうことが第一だから」


 トーテムが通行人に無害だと、知らせておく必要もあるし。

 

 戻ってきたボクは、珍客がいるのを発見した。アプレンテスに、人が来るなんて。


 プロレスラーみたいな体型をした、中年のおじさんだ。


「ホホホ、そうであったか」


「ああ。おかげさんでピンピンしているぜ」


 カウンターで酒を飲みながら、賢人クコと楽しそうにお話をしている。


「よお、コーキ。オレさまを忘れたか?」


「え、あなた誰ですか?」


 冒険者だろうか。たしかに、ハンマーを担いでいるし。


「オレだよオレ!」


 自分を指さして、男性が主張した。オレオレ詐欺かな?


「お前の酒で酔っ払った、イノシシだよ!」


 あああ! ボクが最初に戦った、イノシシか!

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