第32話 ウッドゴーレム、家具を吸収

「できあがった家具を買うのは、だいたい貴族かな? たいていは、材木を買って自分で作るんだ」


 安く済む代わりに、歪になっちゃうそうだ。それはそれで味が出るから、購入者も納得するという。


 あのサンプルは、技術者の腕を見せるのもあるけど、設計図でもあるらしい。あの見本を参考にして、この世界の人は家具の自分で作成する。日曜大工みたいだね。


 食器類は衛生面もあるから、さすがに買うけど。 


「いらっしゃいませ。なにが、ご入用でしょう?」


 店主のおじさんが、ボクたちに歩み寄ってきた。ひやかしで来たのかと、不審がっているみたい。


「コーキ、あれを」


 パロンが、ボクをヒジでつつく。


「そうだったね。これを」


 ボクは、店主のおじさんに紹介状を渡す。


「ティンバー様のお知り合いでしたか。ご利用ありがとうございます」


 ボクたちを信用してくれたのか、店主さんの態度が柔らくなる。


「どういったものをお望みでしょうか? こちらとかは、普段着と装備品を分けて収納できます。安価なので、冒険者さんにも人気なのですが」


 店主さんから、便利そうな収納タンスを見せてもらった。


 たしかに普段使いと日常の洋服にスペースが分けられていて、匂いなども移らなそうである。


「廃材をいただけませんか?」


「わかりました。いくらでも持ち帰ってください」


 店主さんから、店の裏に案内される。


「うわあ。すごいね」


 裏庭の物置には、かなり多めの廃材が。


「どれも腐食箇所を切り取っただけの、良品です」


 作業員さんが、壊れた引き出しを持ってきた。物置にある廃材から必要なパーツを切り取って、引き出しの補修に回している。実に、エコな経営だ。


「もらっていいんですか? 使うんですよね?」


「どれだけ使っても、新しい廃材は出てきます。お好きなように」


 では、遠慮なく。


「吸収できないかな?」


 ボクは腕から、大量のツタを召喚した。


 念じてみると、木材が体内へと入っていく。思っていた通り、体内にしまうことができた。


「同じ木だからできると考えていたけど、想像以上だ」


 しかも、キャパオーバーにならない。


「おおおお」


 ツタで材木を取り込んでいるボクの姿に、店主さんが目を丸くしている。


「すごいですな。あっという間にほとんど取り込んでしまうとは」


「ああ、土属性の加護を受けているので、できるのですよ」


 驚く店主さんに対して、ボクは適当にウソをついて誤魔化した。

 

「もっと、使い物にならない材木などはありますか?」


「ございますよ。ただ、腐食しているものばかりですが」


「それでいいです」


 店主さんは一瞬ギョッとなったが、すぐに冷静さを取り戻す。

 

「承知いたしました。こちらへ」


 さらに奥へ行くと、傷んでいる木々が打ち捨てられていた。


「我々としても処分する費用のほうがかかるので、大変なのです」


「これがいいです」


 再度、手からツタを大量に出す。腐っている材木を、大量にもらった。


「そんなのもらって、どうするんだい? 水分を吸って、薪にもならないよ」


「食べるんだよ」


 正確には、ここから食べ物が生えてくる。


「ああ、キノコだね?」


「そういうこと」


 アプレンテスには、水分と呼べるものがなかった。

 今は水も通って、日陰もできる。

 ジメジメした地帯も、できあがるだろう。


「あと、売れていない家具などがあったら、買い取ります」


「それはすばらしい。お安くしておきます」


 閉店した家で返品になった棚など、リサイクルしても増えてしまうものをいただく。


 どちらも、かなり格安で。


「さて、アイテムボックスに」

 

「待って。ボクに任せてよ」


 ボクは、材木や古い家具に手を添えてみる。


「いやあ、そんな発想を持った方は、いらっしゃいませんでした。とんでもないですなあ」


「か、帰ったら家具にする程度ですので」


 ボクとしては、安い木材ばかり買って申し訳ないくらいだ。

 一応、家具の構造はわかったので、家でも作れるだろう。

 住人が一人増えたことくらい、どうってことないほどの木材が手に入った。


「キミ、思っていた以上にすごいね」


「この調子で、壊れて住めなくなったお家とかも、回収しようか?」


「いいね。街の人に色々聞いてみよう」


 焼けて建て替え予定の家や、割れて使わなくなった木の食器など、色々譲ってもらった。すべて、ボクは身体と同化させていく。あ、ドアもいるんだったね。忘れていたよ。壊れたドアなども、体内に。


 あれだけ大量に木をもらったのに、身体が太ったりしない。トラック二、三台分も木をもらって、明らかにキャパシティオーバーなのに。


 家や家具などを見ておいて、よかったな。もし家具類に興味がなかったら、雨風をしのげる程度の豆腐ハウスと、簡素な収納棚くらいしか思いつかなかった。

 

「キミ、マジでなんでもありだね?」


「思いつきで、やってみるもんだよ」


 人間、なにができるかやってみないとわからない。


 他にも木製の杖や訓練用の木剣などを買い、食器類も揃えていく。


「これで一通り、木製のものは……ん?」


 帰りに、楽器屋さんを見つけた。吟遊詩人が旅用に使う、軽めの木製楽器がズラリ。


「ああ、楽器も木だね。ちょっと買って帰っていいかな?」

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